2022年
1月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第127回

カテゴリ:医療関係, 神戸

コロナ禍から学ぶ、地域医療のあり方

新型コロナウイルスは医療に大きな影を落とした。また、「2025年問題」のその年まであと3年に迫る中、地域医療構想も修正を余儀なくされている。兵庫県医師会の空地会長に、状況や見通しをうかがった。

まだまだ油断は禁物

コロナは急に落ち着いていると感じますが、不思議ですし不気味ですね。

空地 第5波がなぜ急速に収まってきたのか、専門家ももうひとつわからないそうですが、ワクチン接種が順調に進んでいることと、日本国民がマスクを着用したり三密を避けたりと新しい生活様式を守っていることが確実に結びついているでしょう。第6波が来るか現段階ではわかりませんが、日本より先にワクチン2回接種をおこない感染者数が減ったイスラエルやヨーロッパ各国で再度感染者数が上昇していますし、新たな変異株が出現する可能性もあり、まだ油断はできません。ですから、これからはじまる予定の3回目のワクチン接種、いわゆるブースターが大変重要になると思います。

その後も何度もワクチン接種が必要なのでしょうか。
空地 3回目の後については、現段階でも中和抗体というすごくよく効く点滴がありますし、今後飲み薬の治療薬が出てくると一般のインフルエンザと同等の扱いになってくるのではないかと思われます。ただし、それがいつになるかはまだわかりません。

ここ2年、医療機関は大変でしたね。
空地 いろいろな影響がありました。新型コロナ患者を受け入れた医療機関のみなさまは、バッシングや風評被害に悩まされる状況で、防護具や消毒薬が無く、ワクチン接種が始まる前から対応していただき頭が下がる思いです。彼らの頑張りがあったこともあり、日本はロックダウンせずとも致死率を低く抑えることができたのではないかと思います。医療機関全般で一番大きいのは、経営面での打撃です。コロナ以降、どの医療機関も10~30%の減収があり、中でも小児科と耳鼻咽喉科が大きな影響を受けました。

それはなぜでしょうか。
空地 いわゆる「受診控え」と、なるべく外出をしないよう長期処方を求める患者さんが多かったことが関係していると思われます。2020年の全国の年間医療費の総額は前年比1.4兆円ほどのマイナスになっています。その中で診療所の減収は4千億円ほどと、影響は数値にも出ています。

開業医の負担も大きかったのではないでしょうか。
空地 地域外来・検査センターへの出務があり、その後発熱等検査・診療医療機関として県内1300近い医療機関に手を挙げていただき発熱患者の診察、さらにワクチン接種がはじまり自院や集団接種会場で対応していただきました。出務だけでなく、自院でもこれまでにない対応を迫られ、かなり疲労があったと思います。ここ2年で閉院が増えたように感じますし、新規開業も少なかったですね。

地域医療構想の見直し

地域医療構想はコロナの影響がありましたか。
空地 2019年に厚生労働省は、地域医療構想に基づく病床削減が想定より進まなかったため、「再編・統合等に向けた再検証が必要な公立・公的医療機関」として436病院の実名を公表しました。しかし、今回のコロナ禍ではこれらのうちかなりの病院が新型コロナ感染症の患者、あるいはその治癒後のリハビリ患者を受け入れ、地域医療に大きく貢献したんですね。ですから、今回の状況をしっかり踏まえ、地域医療構想を見直す必要があります。もちろん、新興感染症に対してどういう医療体制をとっていくのかを考えていかないといけません。兵庫県ですと第8期の保険医療計画になりますが、それまでの5疾病5事業から、6事業目として新興感染症対策が入ってきますので、しっかりと計画してもう一度地域医療構想を議論していかないといけません。

兵庫県は広く、地域の多様性に富んでいますので、調整も大変でしょうね。
空地 医師が少ない区域は基幹病院がしっかりしていますので、そこを中心にしてまとまりやすいですが、市町が多くそれぞれに公立病院があるところはまとまりにくい可能性があります。しかし、そういうところも今回のコロナ禍で、医師会・公立病院・行政がうまく連携して対応できている印象があります。ですから、感染症対策という観点からは一概に公立病院を統廃合すべきとはいえず、なかなか難しい情勢がこれから待っているのではないかと思います。

団塊の世代が後期高齢者になっていく2025年が3年後に迫っています。
空地 これまでの地域医療構想の調整会議は、少子高齢化が進み、ゆえに疾病構造が変わり、地域のニーズも変わっていく中で、それに合わせた調整を目指していました。ところが、今回の新型コロナウイルスで、新興感染症に対する対策や有事の体制が甘かったことがわかったので、それについても対応しながら地域医療構想を進めていく必要があります。今後、人材育成をおこない非常時に対応できるようにしていくので、医療圏ごとの有事の体制も整ってくる見込みです。地域医療構想は医療圏単位で完結するのが基本ですが、現段階では複数の医療圏で非常時に対応することも視野に入れて、今後も基幹病院を核に周辺の医療機関が連携していく形がベースになるでしょう。平時・有事の両面に対応できる強靱で柔軟な医療提供体制をまとめていかないといけないと考えています。

地域医療構想において県医師会はどのような役割を果たしていきたいですか。
空地 できることはあらゆることをやっていきたいですが、有事のこととなるとスピード感が大切です。県医師会はさまざまな病院や診療所はもちろん、看護協会や薬剤師会、歯科医師会ともしっかりと繋がりができていますし、行政とも連携しています。日本医師会を通じて厚労相や政府に働きかけることも可能です。医師会が連携の要となって貢献できる部分は大きいと思います。

知事が替わりましたが、変化はありましたか。
空地 齋藤知事には、医師会を中心とした医療関係者の意見を聞きながらこれまでの施策をさらに充実するような形で進めていきたいと言っていただき、実際そのように進んでいますので、知事と一緒に県の医療体制をつくっていけるのではないかと思います。お互いの信頼関係はできています。

常に備えることが大切

社会はポストコロナへと軸足を移しつつありますが、私たちはコロナとどのように付き合っていくべきですか。
空地 ワクチン接種がきちんと進むことが大事ですね。さまざまな事情で接種できない人は仕方ないですが、まずはワクチンの2回接種をすることが良いのではないでしょうか。マスク着用と手洗いをしっかりおこなうことも大切です。

今後、新型コロナウイルス感染症とは別の新たな感染症は出てくるのでしょうか。
空地 たぶんそうでしょう。人類の歴史は感染症との闘いの歴史でもあります。2009年に新型インフルエンザが流行しましたが、あの時は早い段階で高病原性でないことや、従来の検査や薬が有効ということがわかったので対応が進みました。しかし、高病原性のインフルエンザが発生した場合には、対応にかなり苦慮する可能性があります。しかもそれが検査で発見されにくいとか、従来の飲み薬が効かないとかいうことになれば、今回の新型コロナウイルスと同じような状況になってしまいます。ただし、今回の新型コロナウイルスへの対応を反省し事業計画の中に6事業目として新興感染症対策を盛り込んでいくことになっていますから、医療機関が今回のように厳しい状況にならないのではないかと予測できますし、我々も勉強し、人材も育成していきます。

「備えあれば憂いなし」ですね。
空地 でも「天災は忘れた頃にやってくる」ですから、絶えず備えていくことに尽きますね。そういう意味では、兵庫県医師会は阪神・淡路大震災を経験し、災害対策の訓練を繰り返しやってきて、日本全国から研修のインストラクターとしてお声がけいただいています。阪神・淡路大震災の時にいろいろな地域から助けていただいたので、いただいた恩をお返しにとモチベーションも高く、東日本大震災や熊本地震、倉敷・真備の水害の時も駆け付け支援しました。災害時の対策は整えているので、それと連動した形で感染症対策の検証を着々と進めています。

2022年、コロナに関して力を入れたいことは何ですか。
空地 まずは3回目の新型コロナウイルスワクチン接種です。コロナの後遺症への対応も課題です。いまのところわからないことが多く、特に効果的な薬もありませんので、まずは寄り添っていくことが大事だと思います。コロナ禍で外出が制限され、ご高齢者のフレイルや認知症が進んでいますし、受診控えでがんが見つかりにくいとか、生活習慣病が悪化したとかいう報告もありますし、そういった方々へ対応し医療環境を元に戻すことも重要です。

コロナ以外のことでは。
空地 お話ししたように、地域医療構想です。公立・公的病院のあり方を含めて一からしっかり議論していきたいですね。また、県内には特に県西部、北部、東北部に医師少数区域が多いのですが、その対策にも力をいれていきたい。このような地域で開業し地域医療を支えているのは高齢の先生が多いのですが、後継者がおらず閉院するケースが少なくないんです。県医師会ではドクターバンクを設置しており、従来は医師不足の病院へのあっせんや子育てなどで一時臨床を離れた女性医師が復帰するためのマッチングが中心でしたが、これからは医療機関の継承のためのマッチング業務もおこなっていきます。コロナで少し遅れましたが、兵庫県医療信用組合や神戸医師協同組合とタイアップして、後継者を第三者的にマッチングさせていきたいですね。

最後に、県民のみなさまにお伝えしたいことがありましたらぜひ。
空地 繰り返しになりますが、手洗いとマスク着用をお願いします。発熱時や新型コロナウイルス感染症が疑われる場合は必ず受診前に電話で相談してください。いまさかんにドラッグストアなどでセルフチェックの抗原検査キットを発売していますが、精度が疑わしいものもあり、体調が悪くても検査結果が陰性だからといって旅行や食事などの行動をされると感染を広げることになる可能性があります。また、普段からかかりつけ医を持っていただきたいですね。

(注)
※記事内容は取材日(2021年11月24日)時点での情報に基づいています。新型コロナウイルスに関する情報は日々変化しています。最新の情報は各自ご確認ください。

 

一般社団法人兵庫県医師会会長
空地 顕一 先生

1956年、兵庫県姫路市生まれ。1984年、京都大学医学部卒業。1997年、姫路市で祖父、父と続く空地内科院を継承。2012年、姫路市医師会長に就任。2016年、兵庫県医師会長に就任。専門はリウマチ・膠原病。医学博士。日本内科学会総合内科専門医。日本リウマチ学会認定専門医。日本プライマリ・ケア連合学会認定医

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