2020年
6月号
6月号
ウイルスは自然淘汰の一因子|武田 廣|新型コロナウイルス禍で思うこと
日本政府による緊急事態宣言が5月末日まで延長され、ゴールデンウィークの最中、自宅のパソコンに向かってこの文章を書いている。6月にこの書籍が出版される頃に、世界及び日本での感染がどのような状況になっているか、全く予測できない厳しい状態が続いている。私の友人の医療関係者が新型コロナの犠牲になったとの悲報も届いた。ご冥福をお祈りしたい。
そもそも、人間の進化の過程でも数々のウイルスとのせめぎ合いがあったようである。我々の遺伝情報の数十パーセントがウイルスのようなもので構成されていることが、そのことを示している。ウイルスには善意も悪意もなく、単に地球環境の生命体の多様性の一部として存在してきた。そして、たまたま人間の細胞に入り込んできたウイルスについて、人間の進化に有用なものであればそれを取り込み、害を及ぼすものであれば排除するという繰り返しの中で、人間の個体が淘汰されてきたのである。俯瞰して見れば、ウイルスは自然淘汰の一因子という形で、生物としての人間の進化に貢献してきたとも言えるのだ。