9月号
対談 神戸発ときめきクルーズ
神戸市長
矢田 立郎さん
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日本チャータークルーズ株式会社
代表取締役社長
岡地 隆さん
船から被災地を支援
―チャーター専用「ふじ丸」はどのように運用されているのですか。
岡地 通常のクルーズ船を観光バスに例えれば、バス会社がコースを決めてお客さまが一人ででも申し込める定期観光バス。ふじ丸はいわゆる貸切観光バスで、お客さまが希望される場所へ行きます。観光だけでなく、研修や修学旅行、企業の展示会など、いろいろな用途に使っていただけるのが、ふじ丸の特徴です。最近では兵庫県立大学にチャーターいただき、多くの天文ファンが皆既日食の観測に出かけ大成功しました。
―東日本大震災直後、大船渡・釜石・宮古の3港に入港して被災者支援をされたそうですね。
岡地 港湾設備と現地側の受け入れ体制が整うのを待って、神戸で食料を満載し、現地へ向かいました。通信手段が不十分で、現地の状況が判らないため、阪神・淡路大震災で被災し、被災者のニーズが判る当社の幹部社員を同行させました。被災者の身になったお世話が出来たと思います。
―具体的にはどのような支援をされたのですか。
岡地 3港で約5000人の方に、主に入浴とお食事を提供させていただきました。
―ご苦労もあったのでしょうね。
岡地 電波や標識で航行を助ける陸上の施設がすべて壊れていて、夜間航行ができず明るいうちに入港して、出港しなくてはなりませんでした。港から沖合い20キロメートル辺りでもがれきが浮いている状況でしたので、神経を使って航行しなければなりませんでした。余震もありましたから万が一津波がきても、すぐに港外に避難できるように、エンジンも常にスタンバイ、乗組員も24時間緊張の連続でした。
―乗組員は大変でしたね。感想はどうでしたか。
岡地 乗組員の一番の感想は「皆さん、明るく気丈に振舞っておられて立派だ」というものでした。あるメーカーさんから寄付いただいて積んで行った何万個ものお菓子を、お一人に何個も持って帰っていただく予定でした。ところが、「もっと困っている方が居ますから、私は一つで十分です」とわざわざ返しに来られるのです。皆さん、物資が無くて困っておられるでしょうに、タオル1枚、フォークの1本なくなりませんでした。若い乗組員が、「日本人に生まれて良かった」と感動しておりました。「励ましに行って、かえって励まされた」とよく聞きますが、その通り。従業員の教育をしていただいたようなものです。100人ほどいる外国人の乗組員にも聞いたのですが、皆、「この活動に参加できたことを誇りに思う」と言ってくれました。
―どういうものが喜んでもらえましたか。
岡地 サラダ、お鮨、デザートなど、避難所にはない食事を喜んでいただいたのですが、その他にも「カラオケ」が好評でした。こんな時に商売などするわけにはいかないと閉めていた売店を、要望があり開けたところ、何が売れたかといえば…、お土産物。ふじ丸史上最高の売り上げになってしまいました(笑)。ストレスが溜まってくる時期で、楽しみを必要とされていたのでしょうね。ミニ旅行をした気分になっていただけたようです。人間はただ食べて、寝るだけでは生きられないんですね。私どもが携わるレジャーという仕事も人間の本質に根ざしているのだと感じました。
―神戸からも元気を発信したいですね。
矢田 復旧復興支援は続けていきますが、風評被害もありますから「日本は大丈夫」と世界に向けて発信していく必要がありますね。神戸港をその拠点として多くの皆さんに来ていただき、実感していただければいいなと思います。クルーズ誘致でもご協力いただければありがたいですね。
被災地ランナーをご招待
―「感謝と友情」をテーマにした神戸マラソンの開催も迫ってきました。被災地応援体制も整えているのですか。
矢田 全国的にマラソン志向が高まっている中、約7万7千人の申し込みがあり抽選で約2万人に走っていただくことになりました。被災地からも845人の申し込みがありましたが、大震災から立ち上がった神戸の姿を見ていただき、またウォーターフロントの景色も楽しんでいただこうと考え、抽選なしで全員に走っていただくことにしました。まさに、16年前にいただいた支援への「感謝」と、東日本大震災で被災された方々への「友情」です。
―岡地社長も走られるそうですね。
岡地 はい! 幸運にも抽選で選んでいただき、大変喜んでいます。被災地のランナーを招待するというのは素晴らしいアイデアですね。大きな励ましになると思います。
―マラソンの魅力とは?
岡地 マラソンを始めてまだ3年ほどですが、走っている時は「もう二度と参加するものか」と思い、終わって家に帰るともう次の計画を立てています。特に私が大好きな大都市のマラソンでは、市民の皆さんにはご迷惑をおかけするにもかかわらず、多くの声援をいただきます。今回は線路沿いも走りますから車中からも応援していただけるのでは?と期待しています。
クルーズに最適な瀬戸内海
―来年は大河ドラマ・平清盛でも神戸は注目されそうですね。
矢田 平清盛は、港を整備しながら瀬戸内海を神戸に向かってやってきました。平和で穏やかな瀬戸内海の礎を築いたことは歴史的にも高い評価を受けています。せっかく取り上げていただくのですから、ハーバーランドにテーマ館、兵庫の津跡には歴史館を設けて、神戸観光を盛り上げるチャンスにしようと考えています。これを機に瀬戸内海クルーズも是非、企画していただきたいですね。
―航行制限もある瀬戸内海ですが、クルーズには向いているのですか。
岡地 ふじ丸サイズでは全く問題ありません。瀬戸内海は外海がどんなに荒れていても波立ちませんから航行しやすく、お客さまは船酔いもせず、世界的に見ても珍しいほどクルーズに適した海です。
―ふじ丸クルーズの楽しみ方は?
岡地 研修用の船ですから内装などはそれほど豪華ではないのですが、広いデッキがふじ丸の自慢です。デッキの上で、瀬戸内海の海と島と橋に囲まれて、夕日を見ながらのサンセットディナーは大人気です。毎年チャーターしてくださるお客さまの多くから、必ずご要望をいただきます。
―最近のお客さんはクルーズをゆったり楽しんでいますか。
岡地 いえいえ(笑)。船内のイベント全部に参加しなければ満足していただけず、むしろ忙しく楽しんでいらっしゃいます。参加するお客さまの年齢が、企画の想定年齢にプラス10~15歳。私も含めて日本人が皆、若くて元気になったという現実に合わせた企画が必要です。
港、空港、街がこぞって元気に!
矢田 ふじ丸さんには今年14回、神戸港に寄っていただきます。外国の客船や商船にももっともっと来ていただき、神戸港が拠点となって日本全体を変えていくほどの意気込みを持ちたいですね。
岡地 船会社にとって、神戸は非常に使い勝手の良い港です。施設が充実している上に、柔軟な対応をしていただけます。先日も船上で急病人が出た際に、予定にはなかった神戸に緊急寄港し、一命を取り留めたこともありました。港にとっては、空港と高速道路などインフラの利便性も重要です。そういう意味でも神戸は充実した港だと思います。
最近は中国からのクルーズを誘致しようと、船内見学会や食事会などを開き、好評いただいています。神戸空港に国際線が就航すれば、お客さまを誘致して瀬戸内海クルーズが実現するのですが…。
矢田 行政、経済界ともに長年の悲願なのですが、なかなか一筋縄ではいかないのが現実です。ポーアイ2期も医療産業都市構想で盛り上がり、スパコンがやってきて、大学も集まってきました。この成長を生かしたいと切望しています。
―神戸っ子の誇り〝港〟と、空港、街がこぞって賑わうようにこれからも是非、ご尽力ください。
インタビュー 本誌・森岡一孝
矢田 立郎(やだ たつお)
神戸市長
岡地 隆(おかじ たかし)
日本チャータークルーズ株式会社
代表取締役社長
1975年商船三井入社。ロンドン、フランクフルト、シドニーの海外勤務を経て、2006年商船三井客船取締役。2008年日本チャータークルーズ代表取締役社長。趣味は マラソン、飛行機模型収集。東京都中央区在住。