1月号
インタビュー “老舗のわざ” ハンドメイド注文紳士服「柴田音吉洋服店」 「神戸洋服の継承のために」
ハンドメイド注文紳士服「柴田音吉洋服店」
五代目社長 柴田音吉さん
―昨年はどんな一年でしたか。
おかげさまで、一昨年開発した、史上最軽量の「ライト―フィット」テーラードジャケットが大好評で、一度このジャケットを着た方は次もまた作ってほしいと言って来られます。ジャケットの重さはビジネスマンのストレスや肩こりの原因になりますから大変喜ばれております。
3月には東日本大震災が発生し、当社も一ヶ月間営業を停止しました。私どもも阪神・淡路大震災の際、多大な援助をいただいたおかげで立ち直り、来年は創業130年を迎えることができるのですから、ご恩に報いたいと思い、キャンペーンの売り上げの5%を被災地に寄付させていただきました。
―創業130年という記念すべき年に向けて何かお考えになっておられますか。
明治の開港以来、引き継がれてきた「神戸洋服」の技を継承していくために、若い人材を育てていかなくてはいけないと強く感じています。当社では、上着5人にスラックス2人の職人がおり、現在は満足していますが、若い技術者を育成しなければ、このままでは技術の伝承が途絶えてしまうのではないかと危惧しています。
当社の技術は、世界のテーラーのスタンダードに匹敵すると思っていますから、その技をぜひ引き継いでいきたい。
「手縫い」という作業は大変微妙なもので、職人が代わると、型は同じに見えても着ごこちがまったくちがってしまうほどです。縫うときには職人それぞれの「テンション」というものがありますから、ジャケット一着なら一人の職人がすべて手がけるのが一番良い。またシルクやカシミヤなど服地によっても縫い方のテンションが変わってきます。
現在、当社の工場長・稲沢治徳(現代の名工)が神戸市のものづくり大学に講師として行っていますが、テーラーの道を希望し学びに来られている若い人材もたくさんいるようです。しかし若い方がいくら希望しても生活ができなければ仕事として成り立ちません。日本では技術者の技能と賃金のバランスがとれていない技術現場も多いと聞きます。イタリアのプレタポルテではたくさんの技術者が関わっていますが、あちらでは産業の中枢となる技術者を大切にしようという制度が整えられているようです。
―神戸洋服の老舗として、人材育成のために、何か具体的なことはなさっていますか。
昨年末に、当社では「チーフ・カッター募集」の新聞広告を出しました。裁断・仮縫いの経験者であり、完全歩合制という条件を付けさせていただきましたが、社宅マンションを提供し、家賃や光熱費なども当店が負担します。すべては技術者育成のためです。当社では職人の手が足りなくなると、独立したOBに仕事を外注することもあります。手に職を付けることによって、お子さんの面倒を見ながら家で仕事ができるので女性にもおすすめしたい職業です。
海外に縫製の仕事を頼んだことがありましたが、やはり細かい縫製は日本人でないとできないと実感しました。海外の高級既製服のデザイナーの中にも「日本人の縫製の技術が一番だ」と言う人がいます。日本人には技術がありますからメイドインジャパンにこだわるべきです。
また、昨今、消費税率が値上がりするという話もありますが、そうなったとしても当社では5%から上げるつもりはありません。当社では、生地はすべてメーカーから買い取りでおこなっていますから、競合店より仕入れ価格をおさえることができます。そういった経営努力により、「最高品質を、お値打ち価格で」をモットーに、お客様にご満足いただける丁寧な仕事をしていきたいと思っています。
㊎ 柴田音吉洋服店
☎078-341-1161(来店は予約制)
12:00〜18:00 水・日曜・祝日休
神戸市中央区元町通4-2-22(南側2F)
http://www.otokichi-kobe.co.jp