2012年
5月号

地域に元気を発信

カテゴリ:医療関係

独立行政法人移行から8年、「神戸医療センター」は急性期医療の担い手として、また市民に開かれた病院として、さまざまな改革に努めてきた。今年4月から院長に就任した島田悦司さんにお伺いした。

―神戸医療センターの理念と基本方針についてお聞かせください。
島田 当院は「すべての人の立場に立った医療サービスを提供する」(注:すべての人=患者さまとご家族)という基本理念に基づき、「①人権を尊重した良質で安全な医療サービスを提供する②政策医療の専門施設として医療水準を高め、臨床研究・教育研修、情報発信を行う③地域の医療機関と緊密な連携を行う④健全な病院経営につとめる⑤すべての職員は改善意識と目的意識を持ち医療サービスの向上につとめる」という基本方針を定めています。 
 診療は国立病院機構が掲げる「政策医療」のうち主として、がん、循環器病、成育医療(未熟児等)、骨運動器疾患を担うだけでなく、四疾病・五事業として糖尿病・脳卒中、救急医療について特に力を入れています。

地域のがん診療の拠点病院

―がん診療については、地域がん診療連携拠点病院として厚生労働省から指定を受けているそうですが、これはどういう意味を持つのですか。
島田 全国どこでも、全てのがん患者さんが同レベルの診療・治療が受けられるということを目標にして厚労省が定めているものです。原則は二次医療圏に1施設ということですが、神戸市は人口も多く、神戸大学医学部附属病院、神戸市立医療センター中央市民病院、そして当院の3施設が国からの指定を受けています。他の2施設に比べれば規模も小さな当院ですが、今までのがん治療実績が認められ、神戸市西部地域の拠点として指定されたもので、重責を感じております。

日本最大の医療ネットワーク

―国立病院機構とはどういうものですか。想像に反して国からの補助はないそうですが。
島田 平成16年4月に、全国の国立病院と国立療養所が国から離れ自立した独立行政法人に移行しました。現在は144の病院を持つ日本最大の医療ネットワークです。独立採算制で経営改善に努め、平成23年度には、144施設のうち、当院を含め80%以上が黒字経営というところまでこぎつけました。一方、私たちは特定独立行政法人のため、医師、職員ともに身分は国家公務員のままです。モチベーションをどう高めていくかが難しいところですが、旧国立病院として民間の医療機関ではできない診療・治療を行ってきたというプライドを支えに改善に努めてきた結果だと思っています。

インフルエンザワクチンの安全性試験に協力

―日本最大の医療ネットワークとは力強いですね。
島田 北は北海道、南は沖縄まで144の病院がそれぞれに特徴を持って政策医療を行っています。半数以上の病院で臨床研究部又はセンターがあり、色々な研究テーマを決めて全病院が取り組んでいます。ネットワークを利用すれば、診療データの共有や、看護師やパラメディカルの教育など全国規模で行えるというメリットもあります。例えば一昨年の新型インフルエンザでは、機構職員2万人を対象にワクチンの試験を実施し、「安全である」という結果を即座に出し、その結果に基づいて全国で接種が可能になりました。

赤ちゃんは母乳で

―神戸医療センターは赤ちゃんと子どもを対象にする成育医療にも力を入れておられるということですね。
島田 発展途上国では乳児死亡率が高く、栄養失調の子どもが多いという問題があり、1989年、WHO・ユニセフでは「母乳育児成功のための10カ条」を掲げ、母乳育児の推進活動を始めました。日本では、子どもと母親や家族との関係に母乳が深く関わっているのではないかという視点で活動が取り入れられました。当院は、生まれてすぐから赤ちゃんはお母さんと一緒で、母乳を与えるという体制を整えて、平成21年8月にWHOから「BFH 赤ちゃんにやさしい病院」に認定されました。兵庫県では3番目の認定でした。

全国一の電子カルテで情報共有

―いち早く電子カルテも導入されたそうですね。メリットは?
島田 国立病院機構で電子カルテの導入が計画された最も早い段階で導入を決定しました。当初は使い勝手が悪く、医師も看護師も困惑しましたが、現在は全国でも一番進んでいる電子カルテではないかと思っています。1患者1カルテで患者さんの全ての情報が入っていますから医師、看護師、職員などが情報を共有できます。また、訂正履歴も全部残りますから、それぞれが相互監視でき、カルテそのものが公明正大で風通しの良いものになりました。悪筆がなくなりますから医療事故につながる処方箋ミスも抑えられるのはメリットの一つです。
―市民に開かれた病院として、地域貢献はどのようにされていますか。
島田 地域がん診療連携拠点病院として、年1回の市民向けがん公開講座が義務付けられています。2月26日の「第3回市民向けがん講演会」は「大腸がんについて知りたい人のために」と題して、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんを迎えての特別講演と、当院医師3人による大腸がんの知識と治療についてのお話をさせていただきました。名谷のパティオホールをお借りして開催しましたが、整理券を発行して300人満席となる盛況でした。また定期的な市民公開講座では、北区の大原・桂木地区とテレビ回線でつなぎ参加していただき、がん以外のテーマでもお話しさせていただいています。
―院内のチーム医療連携はうまくいっていますか。
島田 うまくいっているかどうかは、第三者の評価をいただくことが重要で、当院は日本医療機能評価機構の評価でお墨付きをいただいています。評価のキーポイントになるのが、多職種による患者さんのケアができているかというところです。従来は主治医だけが患者さんと向かい合えば良いという認識でしたが、看護師、栄養サポートチーム、必要があれば緩和ケアチームなどが皆で話し合い、いわゆるチーム医療で全体として一人の患者さんをみていこうという認識に移行がうまくできていると思っています。
―相互のコミュニケーションがうまくいっているのでしょうね。
島田 当院は300床規模、非常勤を含め職員約400人程度ですので、「おーい!」と声をかければ全員に伝わります(笑)。電子カルテと同時に導入した院内LANを使って情報を共有しているのも功を奏していると思います。
―患者さんからの評判はどうですか。
島田 患者さんからの評価では、待ち時間の問題でご迷惑をおかけしているのは心苦しいところです。ほとんどが15分毎の予約制ですが、患者さんによっては30分かかるというケースもあります。だからと言って3分診療というわけにはいきません。この病院の門をくぐっていただいた時から全ての患者さんに、きちんとした診察を受ける権利があります。例えば、あと何分か時間をお知らせするなどできれば多少は緩和できるのではないかと考え、これを今年の大きな目標として掲げています。

早期発見がいちばん

―島田先生のご専門は消化器外科。胃がんや大腸がんなどの手術も多く手掛けたおられますが、消化器のがんにならないための注意点は?
島田 早期発見・早期治療に尽きます。残念なことに、こんなに情報が溢れる時代にもかかわらず、「何故、ここまで放っておいたのか?」という患者さんが未だに後を絶ちません。検診には神戸市からの補助もありますから、少なくともそういう機会を利用して1年に1回は検診を受けていただきたいと思います。
―こらからも市民に開かれた病院づくりに手腕を発揮していただきたいと思います。本日はありがとうございました。

全国でも最も進んでいる電子カルテによって患者の情報を共有する


WHOから「赤ちゃんにやさしい病院」に認定される


地域の住民に向けて市民公開講座を開催する


島田 悦司 (しまだ えつじ)

独立行政法人国立病院機構 神戸医療センター院長
1949年生まれ。神戸大学医学部卒業。2002年、国立神戸病院(現独立行政法人国立病院機構神戸医療センター)外科医長に赴任、統括診療部長、副院長を経て、2012年4月より同院長。「患者様に選ばれる病院」をめざす。日本外科学会指導医・専門医、日本消化器外科学会指導医・専門医、日本消化器病学会指導医・専門医その他。

独立行政法人国立病院機構 神戸医療センター

TEL.078 -791- 0111

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