6月号
神戸鉄人伝 第114回 ファッションデザイナー 田仲 留美子(たなか るみこ)さん
オートクチュール(一点もの)の風格漂う、気品ある仕立ての洋服のタイトルは「フラワーロード」、「三宮センター街」、「メリケン波止場」。制作者の田仲留美子さんは、ファッション専門学校で40年教鞭を取るベテランです。「ここ10年くらい、神戸の風景やイメージを洋服で表現しています」と語る田仲さんに、お話をうかがいました。
―ファッション界に入られたのは何故ですか。
高名な書家の門下生だったので、その道に進むはずでした。でも「ものづくり」の誘惑に駆られ、若気の至りで親の反対を押し切ってファッションの世界に飛び込みました。神戸ドレスメーカー女学院(現神戸ファッション専門学校)で、福冨芳美先生に教えていただいた世代です。立体裁断と縫製をとても丁寧に、そして厳しく仕込まれました。その後ずっと母校で指導にあたって現在に至ります。
―この40年、学生に変化はありましたか。
たとえば工作と言えば、私たちは素材を揃えることから始めました。でも今の学生たちは、「工作キット」から作り始めるのが当たり前の世代なんです。だから発想が均一的で、自分で考え出す力が不足してるのを感じますね。まず授業で、同じ材料からいかに他人と違うものを作り出せるか、それがものづくりの始まりだと教えます。よく学生たちに「私を驚かせて」と言うんですよ。
―指導にあたっては、何に重きを置いておられますか。
作りたいイメージを膨らませて、実際に布を触って縫って、洋服を形にしていく。頭の中だけでなく、自分で縫ったものを着るのも大切な経験です。そして私が重視するのは、教室での学び。大勢で同じことをすると、自分の足りないものが見えてくるんです。ひとりで作業しているだけでは気付かないことに気付く、それが教室なんですね。
―昔と今では、服そのものが違うのでは。
最近日本のものづくりが減退しているのは悲しいことです。服飾界も難しい時期で、手頃な値段で大量に作られた服を着て育った若い子たちは、服に対する感覚が違う。本物を手にすること無く生きてきた学生たちに、オートクチュールのよさを教えるのは至難の技。でも「服を作りたい」という熱い思いを持った学生がいる限り、伝えていかなくてはと思います。
―指導する側に求められることは?
教員もまた自身の作品に取り組み、新しい素材や方法に挑戦することが大事です。たとえば最近は接着剤もよいものが開発されていますから、それで洋服を作ってみるといった柔軟な発想を持つ。福冨先生はよく「先生自身が伸びないと、学生を伸ばすことはできない」とおっしゃっていました。
―作り方だけでなく、洋服の販売ルートも様変わりしましたね。
ネット販売の普及は、ファッション業界にとっても大きな変化でした。商品をアンテナショップで見て、買うのはネットという消費者が増えたことは、教育現場にも影響を与えています。服を作るだけではなく、着て撮影してポートフォリオを作る、コンセプトを説明する、企画書をまとめる…といったことができなくては、これからこの業界ではやっていけない。今は学校でそういった指導もしています。
―洋服作り一筋に生きて来られて、今思うことは?
私の場合、とにかく「もの」が作りたかったんですね。それこそ家具でも、ビルでも、ダムでも。それが洋服になったわけですが、好きなことを仕事にして、自立もできました。ストレスがあっても、ミシンの前では集中して自分の世界に入ることができる。ものづくりはすばらしい、人生は楽しい、早々に諦めてはダメとくじけている学生に伝えてあげたいです。
(2019年4月17日取材)
多忙な中でも「すてきな洋服で過ごす1日は楽しいでしょ」と、常に原点を忘れない田仲さんでした。
とみさわ かよの
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。