6月号
市民の健康とふれあいの場 しあわせの村
神戸市しあわせの村 指定管理者 代表法人
(財)こうべ市民福祉振興協会 副会長
梶本 日出夫さん
あふれる緑に囲まれた約205ヘクタールの広大な敷地内に、高齢者・障がい者の自立を援助する福祉施設のほか、市民が集い、学び、憩い、遊ぶ…様々な施設がそろっている。多くの来村者で賑わう「しあわせの村」の魅力について、梶本さんにお聞きした。
―「しあわせの村」が開村に至った経緯をお聞かせください。
梶本 平成元年に開村した「しあわせの村」ですが、構想の検討が始まったのは昭和46年です。当時の社会福祉の考えでは、障がい者や高齢者など、いわゆる社会的弱者と呼ばれる人たちを行政の責任で支えていく事業を進めていこうというもので、障がい者・高齢者向けの施設を中心としたものでした。これに対してノーマライゼーションの理念のもと、皆で支え合う福祉を実現するため、この村の構想が始まりました。昭和52年には、健康で文化的な生活を全市民に保障する目的で、全国にさきがけ「神戸市民の福祉をまもる条例」が制定されました。具体的なモデルをしあわせの村で実現しようと、昭和56年に造成を開始して数年かけて開村に至りました。
―それまでとは具体的にどのように違ったのでしょうか。
梶本 従来のような社会的に弱い立場におられる方だけの施設というのではなく、全ての市民がお互いに集い交流し、支え合う福祉を進めていくための施設にしようというものです。
障がい者、高齢者の方が住みなれた地域で安心して生活をする「地域福祉」は今でこそ当たり前になっていますが、当時は画期的なことでした。構想開始から40年という時を経て、障がい者、高齢者の社会参加と自立を支援するのと併せて、健常者も交流し、さらに生きがいを見つけるための施設として定着しています。
しあわせの村は「自立と連帯」という理念で運営していますから、全ての市民がこの恵まれた自然の中、スポーツやレクリエーションを楽しんでいただける場として開放しています。
―温泉施設の中の介護浴室をはじめ、障がい者のケアは充実しているのですか。
梶本 村の施設は高齢者や障がい者が使いやすい施設となっています。介護浴室もその一つで、お風呂用車椅子のまま温泉に入っていただける施設となっています。さらに、開村時にはあまり意識はしていなかったのですが、最近のユニバーサルデザインの考え方を取り入れて、年々、レベルアップしています。
―障がい者、高齢者向けでは、主にどのような施設があるのですか。
梶本 特別養護老人ホーム、認知症専門病院、老人介護保健施設、重症心身障害児施設など、障がい者・高齢者向けに10施設があります。神戸リハビリテーション病院は神戸市立中央市民病院をはじめ、市内の病院等とも連携して、脳血管障害などの急性期治療後の回復期の患者さんを受け入れています。
―スポーツ、レクリエーション施設の利用状況はどうですか。高齢者が学ぶ施設や教室での人気はどうですか。
梶本 体育館、トレーニングジム、屋外施設など、平日は高齢者の方のご利用が多いですね。
また、休日になれば、家族連れや若い人たちで賑わいます。広大な芝生広場で遊んだり、トリム園地でのアスレチックやオートキャンプ場でのバーベキューなど楽しんでおられます。年間100以上のイベントを企画していますが、ちびっ子写生会や7月の村をあげての村まつり、夏休み工作塾などは子どもさんに人気です。多くの高齢者から要望を受けて「神戸市シルバーカレッジ」が平成5年に開校しました。人気は凄いですよ。「再び学んで他のために」というシルバーカレッジの理念に沿って卒業生がつくったNPO法人グループ「わ」はメンバーが千人以上います。それぞれの地域で行っているボランティア活動や東日本大震災被災地支援活動が、卒業された高齢者の皆さんの生きがいにつながっています。
―馬事公苑もありますね。
梶本 広くて、空気も良くて、街中にあるより、馬にも人にもいいですからね。昨年、屋外馬場の整備を行い、先日、リニューアルイベントを開催しました。
―こうべ市民福祉振興協会が運営する施設や事業は、ほかにもあるのですか。
梶本 西区の太山寺にある「なでしこの湯」と垂水年金会館があります。施設以外では、市民ふくしの情報誌「しあわせの村だより」やメールマガジンなどで、しあわせの村や神戸市の福祉に関する情報を発信しています。また、民間の福祉活動の支援を行い、23年度は、18団体に約550万円の助成を行いました。さらに、しあわせの村の中で市民が企画する事業を募集し、しあわせの村に相応しい提案に助成をする事業も始めました。介護保険の要介護認定調査業務も行っています。
―もっと多くの市民に来ていただくための方針や計画はありますか。
梶本 宿泊施設では、季節にあわせた様々なプランを用意していますし、各施設にあるレストランでは、お客様満足度向上に向けた取り組みをはじめています。障がい者と健常者が一緒に働くカフェや野菜の直売所など、今までの事業をさらに魅力あるものにするのと同時に、障がい者、高齢者を含む市民の皆さんに集って楽しんでいただけるような新規の事業を進めていく予定にしています。人気の温浴施設「ジャングル温泉」も、開村当時はほかにはこういった施設がなかった時代でした。今は街の中にたくさんできていますから、さらに魅力を高めるにはどうすればいいのか?例えば、露天風呂が、付加できないかと検討しています。
―特に今年、新しい試みはありますか。
梶本 障がい者の芸術・文化活動を支援しようという「こころのアート展」を昨年から始めました。今年は11月2日から11日に開催予定で、ひろく兵庫県内から障がいのある作家を公募します。芸術活動に取り組んでいる障がい者を支援していこうというものですので、一般的な展覧会というよりレベルの高い作家を選びその作品を展示し、ゆくゆくは、観た人に買っていただけるアート展にしようと思っています。昨年の作品は宿泊施設の部屋に飾りましたので、宿泊客の目に留まり、作品が売れればやりがいにもつながると考えています。
梶本 日出夫(かじもと ひでお)
1941年生まれ。1965年神戸大学経営学部卒業、1960年神戸市採用、1995年衛生局参与兼中央市民病院事務局長、1997年市民局長、2000年保健福祉局長、2001年神戸市副市長(助役)就任。2010年より(財)こうべ市民福祉振興協会副会長就任、現在に至る。