8月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第六十三回
神戸アイセンター構想への期待と課題
─(仮称)神戸アイセンターとはどのような施設ですか。
山本 国家戦略特区プロジェクトとして、中央市民病院と先端医療センター病院の眼科機能が集約・拡充し、(仮称)神戸アイセンターが設立される予定です。ポートアイランドの神戸中央市民病院と先端医療センター、理化学研究所多細胞システム形成研究センター(CDB)と隣接する場所に、2017年10月頃の竣工予定となっています。
ここでは眼に関する基礎研究、臨床治療、再生医療に用いる細胞培養、ロービジョンケアなどを合体させて、基礎研究から、臨床応用、治験、リハビリまでを担う最先端の眼科病院の建設も予定されています(図1)。ちなみにロービジョンケアとは、拡大読書器や白杖の使い方を教えたり、遮光眼鏡や音声入力ソフトなどサポートグッズを紹介したりするなど、視力が悪い人に対し視機能を最大限に活用することでQOLを高めて自立した生活を送れるように支援することです。
─ここではどのような治療が受けられるようになりますか。
山本 中央市民病院の眼科が移転しますので、先進医療部門での網膜色素上皮移植治療ばかりでなく、白内障手術や網膜硝子体手術などの眼科一般診療も受けることができるとされています。また、網膜再生医療には、ロービジョンケアが必要ですので、国立障害者リハビリセンターからロービジョンケアの専門家を招聘するなどして充実したリハビリ部門を開設するとのことです。
─網膜色素上皮移植治療とはどのようなものですか。
山本 加齢黄斑変性という疾患では、黄斑部の網膜色素上皮細胞が新生血管により傷害されています。網膜色素上皮移植治療とは、新生血管を除去するとともに、皮膚から作ったiPS細胞で網膜色素上皮細胞をシート状に育てて覆うという治療です(図2)。2014年9月、理化学研究所(CDB)の高橋政代プロジェクトリーダーらは、iPS細胞を使用した世界初の臨床研究を実施しました。加齢黄斑変性は高齢化などにより近年患者が増えており、失明原因の第4位になっています。しかし、最近まで有効な治療法がありませんでしたので、iPS細胞を用いて網膜再生をおこなう網膜色素上皮移植治療には大きな期待と注目が集まっています。
─(仮称)神戸アイセンター設立の背景、経緯や意義について教えてください。
山本 世界には眼科病院と研究施設の両方の機能を備えたアイセンターは数々ありますが、日本にはありません。私が20年以上前に留学していたMassachusetts Eye and Ear Infirmaryも研究施設が配置された病院で、基礎研究者と臨床医が情報を共有して、最先端の治療に取り組む環境が整備されていました。もちろん研究費も潤沢でした。高橋政代先生も、網膜再生医療を実現するためには中央市民病院と先端医療センターを巻き込んだアイセンターの設立が必須と考えられたのでしょう。
─先端的な研究を実用化するにあたり、大切なことは何ですか。
山本 医療の倫理や安全性の確保が最も重要だと思います。予定されていた2例目の網膜色素上皮移植では、iPS細胞に複数の遺伝子変異が見つかり、がん化の危険性を否定できず、移植が見送られました。1例目の移植の治療費は1億円で、患者の皮膚細胞をiPS細胞に変えて移植するまで10か月かかったそうです。自家移植の細胞シートは時間とコストがかかりすぎるので、今後は備蓄iPS細胞を使用した他家移植が行われるようです。備蓄した細胞であれば、コストも抑えられ、使用するまでに安全性を確認しやすいというメリットもあります。
─アイセンター構想にはどのような課題がありますか。
山本 アイセンターで治療を受けられる患者さんの中には、糖尿病や心臓疾患等の疾患を合併された方もいらっしゃいますので、眼科部門がアイセンターに移転しても中央市民病院の内科など他の診療科との連携を上手くとってほしいですね。また、高橋先生は、「アイセンターの病院は臨床研修施設ではないので、後期研修医(専門医を目指す若手医師)を受け入れることができない」とおっしゃっていました。早期に体制が整い、後期研修医の受け入れ可能となることが望まれます。そして、神戸アイセンターの病院の建設は、国家戦略特区プロジェクト(病床規制の特例に係る医療法の特例)として採用された、まさに国をあげての事業です。是非とも成功させてほしいですね。
山本 修士 先生
兵庫県医師会医政研究委員
医療法人社団 仁眼科医院 理事長