9月号
浮世絵にみる神戸ゆかりの源平合戦 第21回
中右 瑛
女人哀史
恋しい通盛の後を追った小宰相の死
一の谷合戦での平家軍惨敗ではかなくも散った平通盛(1153-1183)。平家一族の中で紅顔の美男子と謳われた通盛とその妻・小宰相の美しくも悲しい恋のロマンの果ての逸話が伝わっている。
平通盛は清盛の弟・教盛の嫡男。三十歳になるやならずの若者。源氏方の熊谷直実と対決しお芝居にもなった若輩の無官太夫敦盛とはいとこ同士。一の谷合戦では共に華々しい活躍ぶりであったが、哀れにも討死した。
通盛の妻・小宰相は屋島に向かう途中、船中でその悲報に接し、泣き崩れた。夜半、渦巻く鳴門の海近くにさしかかったとき、ひとり静かに海の藻屑と消え果てた。恋しい夫の訃報にいたたまれなくなって、遂に夫のあとを追ったのである。
小宰相は宮中一の美女。かつて上西門院に使えていたが、通盛に見初められた。美男・美女の二人は熱烈な恋で結ばれ結婚。いかに愛し合っていたことか・・・。
通盛が死ぬ前夜、二人は一の谷の仮屋で人前にもはばからず睦み合い、剛勇武士で名高い弟の能登守教経に注意され、彼女を沖の船に返した、というエピソードまで伝わっている。
小宰相は通盛の形見を身ごもっていたのだが、みずから夫のあとを追った。
夫の戦死を悲しんで出家した平家女人は多いが、夫に殉じた女人は小宰相ただ一人である。いかに二人の愛の絆が深いものであったか、日本女性の貞操の婦としての鑑である。二人の絆、恋のロマンは能狂言にもなり、美しく彩られている。
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■中右瑛(なかう・えい)
抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。1934年生まれ、神戸市在住。
行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。