2月号
恋する2人と共に、50年が過ぎました。ボクは今も走り続けています。|漫画家・イラストレーター わたせ せいぞうさん
雑誌に連載した『ハートカクテル』で人気を博した1983年から現在まで、恋人たちをテーマに描き続ける漫画家・イラストレーターのわたせせいぞうさん。昨年は画業50周年記念展を開催、『ハートカクテル』の原画や日本の四季と文化を描いた『暦(こよみ)を巡る冒険』シリーズ(2019年〜)をお披露目し、各地でファンを魅了してきました。記念展最後の地は、最新作『二都こよみ』の舞台のひとつ京都。会場となった大丸京都店(京都市下京区)にて、京都への想い、これからのことなど伺いました。
『二都こよみ』の2人には、どんな物語があるのでしょうか。
シリーズ『暦(こよみ)を巡る冒険』の『東京こよみ』では、京都に住む女性が月に1度、東京に住む恋人に会いに行きました。『京こよみ』では交替して、東京の彼が京都の彼女に会いに。遠距離恋愛をしている2人の物語を、それぞれ12作品描きました。
今回の『二都こよみ』は、2人がそれぞれひと月ずつ訪れ合う物語にしています。
女性は京都在住。京都は女性のイメージですか?
ボクは東京在住ですし、“東男に京女”と言いますからね、やはり京都の女性に憧れをもっています。それに、ある意味、ボクは京都に惚れているんです。何度行っても素敵なところに出会えますし、すぐにまた行きたくなっちゃう。好きだと思う気持ちは何年経っても変わらない。これはもう恋と同じですよね。京都を舞台にした作品はたくさん描いていますが、まだまだ描きたいです。
京都を舞台とした作品は鮮やかな色彩が印象的です。
それはきっと着物のせいですね。着物は洋服と比べると色彩が鮮やかですから。細やかな模様にさらに色を重ねて、そこに、帯や小物、それぞれにまた色が重なります。素敵ですよね。 着物姿の女性を1人描くだけで作品全体が華やかになります。そこにボクは女性をイメージした季節の草花を描きますから、一層華やかになります。
ただ、色彩についてはすごく考えなくちゃいけない。感じたままの色を使いながらも、色が重ならないように、引き立て合うように。好きだけれど、苦労しているところです。
作品の中の女性は、所作も美しいですね。屈んで履き物を揃える姿とか…。
着物を着ていたからこその、日本女性ならではの所作ですね。「男性は…」「女性は…」という言い方をするのは難しい時代ですが、ボクは日本に生まれ育ったから、そのような所作を美しいと感じます。
茶道もそうですね、厳然たる歴史の上に成り立っている日本の所作は美しいと思います。
もうひとつの都、東京が舞台の作品は、新しいものと古いものとが入り混じって、雰囲気がまったく違います。
東京にしかない良さを描きたかったんです。どんどん開発されて新しくなっていくスピード感。変わっていくおもしろさ。けれど、変わらない風景もたくさんあるし、描きたいと思う歴史ある建物もたくさんあります。
街にはそれぞれに良さがあって…。神戸だったら、港があって船が見える。海の向こうに外国を感じるところとか、神戸独特の風とか。そんな良さを見つけて描くのが楽しいんです。
風といえば…。原画には、細かい色の指示と風の向き、強弱も書いてあります。風、大事なんですね。
もちろん。作品には時間が流れていますから、当然、風も吹いています。ぜひ、風も感じてみてください。
色は無限大なので、やはり細かくなります。ボクはアナログとデジタルの両方を使って表現していますが、色校正といって、印刷した時の色の仕上がりを確認する作業を何度も何度も繰り返しています。
1番難しいのは肌の色ですが、ありがたいことに長い間一緒に仕事をして、好みの色を理解してくれている方がいるので、今はそんなに苦労はありません。今回の2人もいい顔色をしているでしょう?
わたせ作品との出会いは『ハートカクテル』というファンが多いと思います。ウエストコーストをイメージした街がステキでしたが、また海外の街を描く予定はありますか?
あの頃はボクだけじゃなく多くの若者が、アメリカ、特にウエストコーストに憧れをもっていました。ファッション、音楽、車…。この憧れは今でも消えてはいないんです。なので、2026年は、30年ぶりに『ハートカクテル』の新作を描きあげます。楽しみにしていてください。
新たに描きたいと思っているのは、海の向こうのアジアの色です。例えば上海。電視塔や歴史的建造物、それから租界があった場所なので、イギリスやフランス、アメリカ、中国の中に異国を感じる場所があります。訪れる度に、魅力を感じる街です。そこにしかない色彩を描きたいなと思っています。
50周年記念展、千穐楽を終えていかがですか。
これまでもそうですが、ボクは振り返ることはしていないです。前しか向いていない。常に描いているし、常に描きたいものがあるので。
展覧会は「ボクは今でも走っていますよ!」と、作品を待っていてくれるお客さんに知らせる手紙のようなものなので。もう次のことで頭がいっぱいです。
見ている私たちへのメッセージが込められているんですね。
街の絵を描いている時は「この街に住む人が幸せでいたらいいな」、学校を描く時は「ここに通う子どもたちがいつも笑っていたらいいな」、お店を描くときも同じ、「お店での時間を楽しく過ごしていたらいいな」。絵を見てくれる人へ向けて、ボクなりの気持ちを込めて描いていますよ。
絵を描くってそういうことだと思う。平和のための使命をもって描く。1番大切なことです。
ピカソはゲルニカを描きました。彼は攻撃する作品を描くことで平和を願った。ボクは、恋する2人を描くことで平和を願っています。平和だから人を愛し、笑うことができる。ボク自身もそうありたいと思っています。

二都こよみ12月「事始め」

さんちか開業60周年記念イラスト(2025年10月)
わたせせいぞうの世界展
~手塚ワールドとの出会い~
会場:宝塚市立手塚治虫記念館
会期:3月6日(金)~
6月7日(日)
サイン会:4月11日(土)予定
https://www.city.takarazuka.hyogo.jp/tezuka/

わたせせいぞう
1945年兵庫県神戸市生まれ、北九州小倉育ち。小倉高校卒業。早稲田大学法学部卒業後、サラリーマン生活を送りながら漫画の制作を始める。1974年『ビッグコミック』の第13回コミック賞入選を皮切りに1983年より代表作『ハートカクテル』、日本の美しい風物の中で暮らす夫婦の愛の物語『菜』など、大人のラブストーリーを描き続けている。また官公庁広報用ポスターおよび企業広告用イラストを数多く制作し、イラストレーターとしても国内外において展覧会を開催し好評を博している。北九州市漫画ミュージアム 名誉館長。
「なつのの京」ビックコミック増刊号(小学館)に連載中。












