2月号

神戸で始まって 神戸で終る 68 『大横尾辞苑 これであなたもヨコオ博士!?』 ~横尾忠則現代美術館~
なんて面白い展覧会を企画したものだろうと、思わず拍手をしてしまいました。
題して『大横尾辞苑』展です。
「横尾」の頭に「大」は不必要だけれど、この「大」は修辞で「大辞苑」の規模の大きさの表現と考えましょう。
この展覧会のキュレーションは山本淳夫さんだけれど、サスガ!と言うしかないです。が、ご本人は現実に取り組んでみたものの、「シマッタ!」と後悔されたのではないでしょうか。きっと、「もうやるしかない!」の精神で、この見事な企画をついに全うしてしまったのです。
本展にあわせてカタログ(鑑賞ガイド)として出版された『大横尾辞苑』は、英文に訳していただければ、この一冊で、海外の取材時にいちいち説明する必要がなくなるので、ぜひ翻訳していただけると嬉しいです。というのは、このままで伝記にもなっているからです。もし僕が自伝を書くことになれば、きっとこの「大辞苑」を参考にすることでしょう。
でも、ここまで事細かく内面外面を暴かれると、実は困るのです。秘密がなくなってしまうじゃないですか。その「大辞苑」は、まるでシャーロック・ホームズか明智小五郎で、秘密を暴いて「どうだ、マイッタカ!」と言わせているようで、わたくし怪人二十面相としましては、仕事の営業妨害をされてしまった気分です。「お前の秘密はこの一冊で全部暴いてやったぞ!」と言われているようで、隠れる場所がなくなってしまったのです。
作家は、秘密の蒐集家みたいなところがあって、如何に多くの秘密を有するかがその作家を神秘化し、謎の存在になるのです。
キュレーターの山本小五郎氏は、怪人二十面相を演じているこの僕を如何に分析、解析したかと、どこかでほくそ笑んでおられるようですが、そうは簡単に化けの皮は現しませんよ。この「大辞苑」は、私の表面を撫でているだけです。
という意味では、山本小五郎氏は、AIなんです。AIは、予言者でも占い師でもなく、与えられた、あるいは露出したデータを巧妙に計算して提示するだけのものです。AIは、本当の「私自身」を暴露する能力はありません。AIの知性と感性では、この世界の全てを解析することはできません。
この世界は、二つの世界から成り立っています。われわれは、この世界を一つのものでできていると思っています。つまり、知性と感性の世界です。
しかし、残念ながら、もうひとつの隠蔽された世界があるのです。露出された世界と隠蔽された世界の二つから成り立っているのです。
その隠蔽されたもうひとつの世界とは、霊性の世界です。
仮に、この二つの世界があると気づいた人でも、“実在”の世界では、知性と感性の世界しか知ることはできません。もうひとつの霊性的世界は、“非存在”の世界で、観念的であると同時に空想の世界です。霊性偏重主義者の頭の中にだけあるものと思っているはずですが、実際にこの霊性の世界は、ちゃんとした実在性を伴ったものなんです。
ところがAIは、そこのところがわかっていません。AIは、対象のものの中からチョイスして、それを組み立てて、「どうだ!」と言うことで精一杯なのです。つまり、芸術家それ自体がAIなのです。だから巷のAI信奉者が「どうだ!」と突きつけるAI知識は、たいしたことがないのです。AIを信奉する芸術家がいたとしても、その芸術家がAI以上のAIであることを知らなければ、単にその芸術家はAIの虜でしかないのです。
だけど、話を元に戻しますが、この「大辞苑」をAIだと思って見るのも面白いと思います。山本AIによる、一種の「横尾論」と考えれば、この「大辞苑」は、とても役に立つのです。辞書は考えたり、探したりのメンドーくさいことを全て代行してくれます。
これからの時代は、努力する必要のない時代になっていくでしょう。全てAIが人に代わって努力してくれます。この「大辞苑」のカタログは、山本AIによって編集された書籍です。僕にとっては、この「大辞苑」が、僕のための予言者や占い師になってくれることを期待しています。
僕のこのエッセイが、ややこしいことを言って、何もかもをかき乱してしまったかと思いますが、僕の言葉など無視して、この「大辞苑」を手にしながら、展覧会を、ぜひ、辞書の森の中を歩くように奥へ奥へと迷い込んでください。その時、あなたは、この世界のもうひとつの世界である霊性を手に入れられることでしょう。

ポスター(デザイン 横尾忠則)

三島由紀夫とR.ワーグナーの肖像 1983年 横尾忠則現代美術館蔵

Kumazawa(熊沢印刷工芸)1997年
横尾忠則現代美術館蔵

丑年から寅年へ 1973年 横尾忠則現代美術館蔵
美術家 横尾 忠則
1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、東京都名誉都民顕彰、日本芸術院会員。著書に小説『ぶるうらんど』(泉鏡花文学賞)、『言葉を離れる』(講談社エッセイ賞)、小説『原郷の森』ほか多数。2023年文化功労者に選ばれる。

撮影:横浪 修
横尾忠則
現代美術館では『大横尾辞苑 これであなたもヨコオ博士!?』
開催中!
https://ytmoca.jp/












