2月号
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兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第161回
垂水区医療介護サポートセンター NPO法人エナガの会
市民フォーラム「裕次郎さんの防災」について
─NPO法人エナガの会とは何ですか。
中村 垂水区内の医師、看護師、歯科医、薬剤師、ケアマネージャーなどの多職種連携の会として、2009年に発足した団体です。その後2016年神戸市の委託を受け各区医師会に「医療介護サポートセンター」が設立され、現在、協働して様々な連携事業を進めています。
─今回のフォーラムはいつどこで開催されましたか。
中村 そのような活動の中で2012年の市民フォーラムでは会のメンバー自身が演じる自作自演の劇「裕次郎さんの退院。:::私たちが支えます」に挑戦。台本はもちろん、衣装も小道具もすべて手づくりで、脳卒中で緊急入院した「石ケ原裕次郎さんの退院:::私たちが支えます」と題して在宅を支える介護保険の仕組みやそれぞれの職種の役割を分かりやすく劇を行いました。その後、「介護予防、介護施設」「認知症」「終活」などデリケートな問題も「みんなで考える」をコンセプトに、それぞれの専門職が大切なことをわかりやすくメッセージとして伝えるという取り組みを毎年続けてきました。
今回が8作目でしたが、2024年10月14日にこれまでと同様垂水駅前のレバンテホールで開催しました。コロナ禍などで4年ぶりのフォーラムでしたが、多くの来場者があり定員500席が満席となりました。
─どのようなテーマでしたか。
中村 「裕次郎さんの防災~医療・介護の防災六か条~」がテーマでした。2024年は元日に能登で地震があり、夏には南海トラフ地震臨時情報が出ました。また、2025年は阪神・淡路大震災から30年を迎えます。フォーラムを通じて市民のみなさまの防災意識を高めてもらおうと、日頃からの備えや被災時の行動などを盛り込んだ演劇をおこないました。垂水区3師会、区行政およびエナガの会のメンバーを含む日頃の生活を支援する方々約80名が出演し、脚本制作、音響、道具作成、動画撮影などで計100名以上が関わりました。
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「NPO法人エナガの会」は、垂水区内の多職種連携の会として、2009年に発足。会のメンバー自身が演じる演劇で、それぞれの専門職が大切なことをメッセージとして伝える取り組みを続けている
─どのような内容でしたか。
中村 神戸市医師会副会長の久次米健市先生が演じる裕次郎さんの一家が、専門家から医療や介護の災害対策を学び、お隣の要援護高齢者の避難計画を話し合ったことをきっかけに地域ケア会議や避難訓練が行われました。その後裕次郎さんは2054年の病院へタイムスリップしてそこで地震に遭遇、垂水区が一番早く避難を完了したのは30年前から避難訓練を続けてきたからだと告げられるストーリーで、ジュニアコーラス「ティンカーベル」による唄「しあわせ運べるように」のエピローグで終わりました。
─裕次郎さんは専門家にどのようなことを学んだのですか。
中村 久保清景垂水区医師会長から生存可能性が低下する「72時間の壁」、若松謙一垂水区長からハザードマップと垂水区の防災対策について学び、避難時に起きやすいエコノミークラス症候群の対策や災害時のメンタルケアについては医師からの解説がありました。災害時の対応については、災害対応病院に指定されている神戸掖済会病院のスタッフが出演してトリアージなどについて説明し、本物の救急隊員も災害時に使われる体制機材で救護の実際を披露しました。
─災害への備えについての学びはありましたか。
中村 また避難持ち出し品について、ワイドショー形式で笑いを交えながら楽しく学びました。避難者の把握や支援にも活用されるマイナンバーカード、持病などが記載されたあんしんシート、災害関連死で多い誤嚥性肺炎の防止に繋がる口腔ケア用品、阪神・淡路大震災をきっかけにできたお薬手帳、災害対応の内容が盛り込まれたケアプランやケアマネージャーの名刺も持ち出しましょうということでしたが、口腔ケア用品については秀有剛垂水区歯科医師会長、お薬手帳については厚東哲治垂水区薬剤師会長が自ら出演、解説しました。なお、お薬手帳はスマホアプリがおすすめで、また紙の手帳をスマホで撮影しておくのも便利なようです。また、ペットの避難についても、普段からキャリーやケージでごはんを食べさせるなど慣れさせておきましょうと獣医師からアドバイスがありました。
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8作目となる今回は、「裕次郎さんの防災~医療・介護の防災六か条~」をテーマに開催。
4年ぶりのフォーラムとなり、定員500席が満席となった
─お隣さんの避難計画の話し合いや地域ケア会議では、どんな話題が出ましたか。
中村 避難計画の話し合いはケアマネージャーが主導し、理学療法士、訪問介護士、訪問看護師、薬剤師、栄養士といった専門職を交え実践的に行いました。地域ケア会議では本物の警察官が特殊詐欺の啓発をおこなったほか、助けが必要な人の名簿作成、訪問や声かけなどをおこなっている千代が丘地域の取り組みを防災福祉コミュニティの代表者が紹介しました。また、医療的ケアが必要な子どもや障がい者への対応や配慮についても解説がありました。
─医療・介護の防災六か条をご紹介ください。
中村 ①ハザードマップを確認しよう、②72時間耐えられる準備をしよう、③あんしんシートを書こう、④医療・介護の緊急バッグを準備しよう、⑤自助、共助、公助で安心の町を作ろう、⑥地域の人とつながろう、避難訓練に参加しよう、以上の6つですが、これらについて、まずはできることをやっていくことが大切だと思います。
─観衆の反応はいかがでしたか。
中村 アンケートでは「すぐハザードマップや安心シートを確認したい」「地域でこんなにたくさんの人たちががんばっていると思うと感謝でいっぱい」「楽しく勉強したので続けてほしい」「プロの人たちが演じているのでひしひしと防災の大切さを実感した」といった回答を頂きました。
─多職種が参加する劇にはどんなメリットがありますか。
中村 多職種間で顔の見える強い連携を作ることができる、市民によりわかりやすく伝えることができるといった利点があります。またこれまでの垂水区医師会館は狭く、稽古で大勢が集まるとぎゅうぎゅう詰めでしたが、昨年1月に同じ敷地内に新しい新会館が完成し、ホールも広く駐車スペースも十分でアクセスも良く、「断熱」、「省エネ」をテーマにデザイン、コスト、環境性能が共存する素晴らしい会館(㈱松尾設計室松尾和也様設計)となっています。
実は昨年の3月頃から皆さんが集まってテーマを考え、何度も関係職種の方の意見を聞きながら、社会福祉士の木村和弘氏がシナリオを完成させて行きました。それに合わせて配役を決め、そして本番の2ヶ月前からは毎週水曜日の夜に沢山の方が集まり、監督の山本哲也薬剤師の下、厳しい?練習が始まりました。毎回夜遅くまで続きましたが、自分のセリフを忘れても笑ってごまかし、アドリブで相手を困らせながらも皆さん和気あいあい結構笑顔で仲良くなっていきました。またプロジェクターも設置されているので、出席できないメンバーはオンラインで参加することもできるようになりました。
新しい医師会館には神戸在宅医療・介護推進財団の施設である西部しあわせ訪問看護ステーション、医療介護サポートセンターに加え区の歯科医師会、薬剤師会にも新たに入って頂きました(写真)。このように医療介護関係事務所が1つの建物に同居するケースは全国的にもあまり例がないと思います。これもこれまで垂水で培った三師会はじめ関係職種の強い絆のお蔭だと改めて感謝申し上げます。これからも関わる多職種の方が集い多くの事業を進める地域のセンターとして、更なる役割を担って欲しいと願っています。
─次回はいつですか。
中村 2025年11月30日(日曜日)の予定ですが、詳細が決まり次第ホームページなどでご案内します。なお、今回の劇の動画はエナガの会のホームページでご覧いただけますので、ぜひアクセスしてください。
エナガの会ホームページ
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昨年1月に新しい垂水区医師会館が完成。多職種の方が集い、多くの事業を進める地域のセンターとして、更なる役割を担うことが期待される
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