02.07
WEB版 スペシャル・インタビュー|落語家 桂雀々さん
「花道も歩きます!」…独演会で目指す新たな落語
大舞台の壁面に映像が流れ、回り舞台に凝りに凝った照明も…。「スーパー歌舞伎があるならスーパー落語があってもいい」と落語家、桂雀々が7年前から挑んでいる『桂雀々独演会』が2月24日(土)、大阪市天王寺区の新歌舞伎座で開催される。『春待ち、お喋り公演』と銘打ち、昼と夜の部の2回公演。7年目を迎えた今回のゲストは落語会の重鎮、桂文枝だ。
■座布団から離れた〝飛び出す落語〟
――毎回、趣向を凝らした演出が人気ですが、今回は、どんな公演になるのでしょうか?
毎回、どのネタにしようかと頭を悩ませていますが、今回は私が19歳の頃に、先代の五代目桂文枝師匠に稽古をつけてもらった古典落語などを二席披露しようと選びました。昼の部は『天王寺詣り』、夜の部は『猿後家(さるごけ)』です。そして、六代目桂文枝師匠には、師匠が得意とする創作落語を二席披露してもらう予定です。文枝師匠との対談もありで、古典と創作、両方の落語の幅広い魅力を〝大バコ(大会場)〟で堪能してほしいと思っています。
――今回も〝特別な演出〟のアイデアを準備されていますか?
昼の部の『天王寺詣り』の舞台は大阪の天王寺。愛犬の供養のために四天王寺を訪れるという落語で、夜の部の『猿後家(さるごけ)』の舞台は奈良。天王寺や奈良の情景を背景に映しながら進めていきたいと構想中です。落語ではめったに使うことのない会場の花道も使おうと考えているんですよ。『猿後家』は、奈良駅を降りて、東大寺から大仏殿、そして猿沢の池へ…と。私が〝添乗員〟のような役回りで次々と案内していく。座布団の上から離れ、会場を歩き回ろうと思っています。
――聞いているだけで楽しくなってきますね。新歌舞伎座での独演会は2018年から始まり、今年で7回目ですが、毎回、豪華なゲスト陣も話題を呼んでいます。
そうですね。ゲストには落語家だけではなく、根本要さん(スターダスト☆レビュー)や南佳孝さんなどのミュージシャンや、指揮者の佐渡裕さん、明石家さんまさんにもゲストとして出演してもらっています。落語だけでなく歌や演奏に対談あり。もちろん、小さな会場での寄席の魅力もあるのですが、大バコでしか演出できない大仕掛けの落語の魅力を楽しんでほしいと思い、毎回、試行錯誤しながら続けてきました。ゲストも落語の魅力を、より広く知ってもらうために選んできました。
――指揮者の佐渡さんのゲスト出演は、落語とクラシックという異色の組み合わせですね。
落語好きの佐渡さんは、私の師匠、桂枝雀の大ファンでもあるんです。ある日、私が新幹線の車内で落語の練習をしていたときのこと。『何を一人でぶつぶつ話しているのか?』と不審に思い、私に声をかけてきた人がいたのです。それが、佐渡さんだったんですよ。以来、仲良くなってゲストに来ていただきました。
■世代を超えた落語の〝競演〟
――今回のゲストは桂文枝さん。どういう経緯で決まったのですか。
桂文枝師匠は桂三枝の時代から私がずっと憧れてきたスーパースター。落語の世界を超え、テレビやラジオなどでも人気者として活躍し、落語会を長らく牽引してきたトップスターです。出演を依頼したら、二つ返事で快諾してくれました。後から、実は公演は昼と夜の二回あり、両方出てほしいのですが…と恐々お伝えしたら、「えっ、大きな会場で二回もできるのか!」と喜んでくれ、ほっとしました(笑)。
――落語界の世代を超えた〝競演〟ですね。
文枝師匠は現在80歳ですが、いまだ落語家として第一線で活躍されています。私は今63歳ですが、落語家として、こんな風に年を重ねてゆけたら、と憧れる道標(みちしるべ)のような存在なんです。80歳にして、どんな創作落語を披露してくれるのか。私もファンのひとりとして今からとても楽しみにしています。対談では、文枝師匠と仲が良かった枝雀師匠との思い出も語ってくれると思います。
――この独演会を始めた頃。「10回は続けたい」と構想を話されていましたが。
初めての独演会のとき。こんな大きな会場で、果たして笑いを取り、成功させることができるのか…と、大きな重圧を感じていました。正直、7回も続けることができるなんて当初は想像もしていなかったんですよ。毎回、必死でやってきたら、今年で7回目を迎えていた。それが素直な感想です。
――途中、コロナ禍もありましたね。
コロナ禍の時期は本当に苦しくて、もう落語を辞めようか、と思ったこともあるんです。しかし、そんなコロナ禍の最中の2022年、芸歴45周年記念の独演会のとき。明石家さんまさんがゲストに来てくれ、会場は超満員になりました。公演中、さんまさんはずっとしゃべりっ放しで…(笑)。本当に感謝しています。
――今後の独演会の構想、そして落語家としての抱負を聞かせください。
この独演会では毎回、ネタを変えてやってきましたから、もう次で計14回です。このままネタを変えながら、10年間も続けることができるのか…。そんな風に迷うこともありますが、落語家として、70歳までは全力で突っ走りたいと思っています。まだまだ、若手には負けてられませんからね。
(聞き手 戸津井康之)
プロフィール
桂雀々(かつらじゃくじゃく)
1960年生まれ。大阪市住吉区出身。
1977年、上方落語の桂 枝雀に入門。同年10月に桂 枝雀独演会にて初舞台を踏む。
2010年、『五十歳五十箇所地獄めぐり』を開始、全国を行脚。
2011年、芸歴35年を機に拠点を東京に移す。落語以外でもTV、映画、舞台でなど多方面で活躍中。2017年にはドラマ「陸王」で嫌味な銀行支店長を演じ、話題に。上方お笑い大賞最優秀技能賞(2002年)、大阪府舞台芸術賞奨励賞(2006年)など受賞歴も多数。著書に「必死のパッチ」(幻冬舎)あり。
2017年、芸歴40周年を迎え、明治座、新歌舞伎座など1.000人を超える大舞台で独演会を開き、芝居さながらの照明や回り舞台などを駆使した「スーパー落語」を創り上げる
2019年には、初の全国ツアーを巡回。東京、大阪、博多などを巡る。
2020年、山田洋次原作・脚本のNHK BSプレミアム、連続ドラマ「贋作男はつらいよ」で初めての主役、車寅次郎を務める。
公演情報
▪2024年2月24日(土)
ひるの部12:00開演、よるの部16:00開演
▪全席指定 5,000円(税込)
▪大阪 新歌舞伎座
https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/s20240224.html