9月号
1000年前にも 1000年先にも飛んでいける。 小説だからできること。 小説家 河野 裕さん|
『愛されてんだと自覚しな』(文藝春秋)
最新刊『愛されてんだと自覚しな』は、全国の書店員からの「面白かった!」という声が多く、発売即重版! 前作『君の名前の横顔』では、『第3回 読者による文学賞』を受賞! “書店員”“読者”という本好きな人たちに愛される作家、河野裕さんにお話を伺いました。河野さんご自身は、“愛されてんだと自覚”しているのでしょうか??
Q.この小説は神戸三宮駅からスタートします。神戸を知る人は風景を思い浮かべながら読むことができますね。
最近の私の小説の舞台は、だいたい神戸です(笑)。普段見ている町だからっていうのがあるのですが、今回は理由がもうひとつあって、主人公・岡田杏のイメージが神戸に合っていたんです。
私が神戸に感じているイメージは、レトロとモダンが入り混じっていて、新しいけど古い。古いといっても、浮世絵じゃなく油絵のような…。杏はもしかしたらこの町のどこかにいるんじゃないかと。ならばきっと阪急電車で通勤しているはずだと思って、阪急六甲駅近くに住んでもらいました(笑)
Q.杏に限らず、登場人物が、みんなそのあたりに普通にいる気がします。
みんなわがままなんです。それぞれ自分の好きなものがあって、基本そんなに成長しない(笑)。そこが普通なんだと思います。
数年前、ちょっと疲れた時に何か読もうと自分の本棚を見ていたのですが、好みの本が並んでいるはずなのに、読みたいと思う本があまりなくて。テーマのしっかりした本は「今はあまり考えたくないな」と避けてしまいました。“伝える”ことを目的としてしまうと、「あ~面白かった」では終われない。“考える”ことを求めてしまうのだと気づきました。
そんな経験があったので、純粋に楽しく読める本を書こうと思いました。読んでいる間は、普段のごちゃごちゃしたことを忘れてハッピーでいられたらいいなと思って。現実逃避っていう表現はネガティブになってしまうけど、そんな本も必要だと思ったんです。
Q.杏は1000年分の記憶をもつ23歳の女性。輪廻転生のお話です。意味としては深いですね。
今回は、輪廻転生の深い意味はあまり考えていなくて。記憶にない輪廻より、現実に見えている親の影響の方が深いと感じています。子どもを育てていると、うちの子は確実に私の影響を受けている。私は父の、父は祖父の、と過去にさかのぼりますが、高祖父の価値観を私がめちゃくちゃ受け継いでいたりする。会ったこともないのに。いないはずの高祖父を感じるって、不思議で面白い。
創作の根底に何時も「家族」があるのは、そんな理由からです。
Q.兵庫県に住む(?)八百万の神様たちも登場します。
神話を読んでいると、神様が人として魅力的に感じて…人と言ってはいけないかな(笑)。八百万ですから、本当に色々な神様がいます。例えば、古くなった鍋に神様が宿るみたいな話、私はすごく好きです。懐が深いですよね。
登場してもらったオモイカネさんという神様は、国譲りの話に名前が出てきますが、作戦を2度失敗します。神様なのに(笑)
伊和大神は、出雲大社の主祭神である大国主命と同じ神ともいわれていて、播磨一帯で信仰されていたはずなのに、現在は山を分け入った静かな場所に祀られている。出雲の賑わいと比較すると、一体何があったんだろう…と。日本神話ってあやふやな部分もけっこうあって、好きに理解させてくれる。作家としては興味深いです。
Q.人も神様も時代を越えて、一冊の古書で繋がります。最後は「あ~面白かった!」でした。
よかったです(笑)。
みんな、その『徒名草文通録』という古書のどこかを愛しています。その愛に忠実で、その愛があるから自分の人生も愛することができている。「愛」は「苦しみ」になることもあるけれど、何かを愛すると、相手への愛だけでも幸せを感じられる。そんな純粋な愛は、身近にいっぱいあふれていると思います。自覚、したいですね(笑)
MOKUBA’S TAVERN にて
河野 裕(こうの・ゆたか)
1984年徳島県生まれ。2009年角川スニーカー文庫より『サクラダリセットCAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY』でデビュー。15年『いなくなれ、群青』で第8回大学読書人大賞を受賞。20年『昨日星を探した言い訳』が第11回山田風太郎賞候補となる。22年『君の名前の横顔』で第3回読者による文学賞を受賞。「サクラダリセット」シリーズ、「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズ、「階段島」シリーズ、『ベイビー、グッドモーニング』など著書多数。23年5月最新刊『愛されてんだと自覚しな』刊行。