7月号
竹中大工道具館 叡智の彼方へ|第十回|木組みの小宇宙
組子細工に見る建具職の超絶技巧
「組子」とは、建具に使われる組み木細工のことです。小さな部材を組合せて面を構成していくので、障子や欄間、衝立などに使われます。その発祥は鎌倉時代に遡るといわれ、古くから受継がれてきた技術です。
組子の基本は、「三つ組手」と呼ばれる三角形に組んだ木組です。この中に「八重麻」「桔梗麻」などといった「葉」と呼ばれる小さな部品を差し込み、米糊で接着します。
細くて薄い木材を加工してさまざまな幾何学を構成する繊細な技術ですが、昭和の後半になって、さらに高度に発達しました。通常なら素性のよい桧の柾目板が好まれるところですが、鮮やかな天然木の色彩を積極的に採用し、絵画としての表現力を建具にもたらしました。展示品には、桧、木曽桧、杉、桜、朴、漆、香椿、桧室、神代杉、神代朴、神代栓、神代桂を使い、さまざまな木の色合いを活かして絵を描いているのです。
少し展示品から離れて見ると写真のようにハッキリとした絵に見えます。カメラを通しても同じように見えます。遠くまで幾重にも連なる山並みに囲まれた盆地に川が流れ、集落が描かれています。しかし、実際に組子を間近に見てもまるで違って見えるでしょう。比べるうちに葉を構成する部材の一部に色の違う材がまぜられていることに気づきます。そう、ほんの一材だけわずかに異なる色が配されているのです。まるで油絵を描くかのごとく、同じ技法が使われています。
いろいろな種類の組子を使うのは、実は形の組み合わせだけでなく、葉の密度による光の透過率を操作しているのです。光輝く川の表面を表現するため、できるだけ隙間の空いた組子を選択しています。そして、建具としての強度を満足させるためのバランスも考慮しているのです。
繊細な技に秘められた美の世界をお楽しみ下さい。
(主任学芸員・西山マルセーロ)
竹中大工道具館
TAKENAKA CARPENTRY TOOLS MUSEUM
神戸市中央区熊内町7-5-1
Tel.078-242-0216
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
https://www.dougukan.jp/