4月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.19 神戸大学医学部附属病院 心臓血管外科
岡田 健次先生に聞きました。
とても怖いものと認識していても、他人事と思いがちな心臓や血管の病気。体の中でどんなことが起きているのでしょうか。詳しいお話を岡田健次先生に伺いました。
―心臓と血管の働きについて教えてください。
心臓は1回の収縮で70~80mlの血液を送り出します。1分間で約5ℓの血液が動脈を通って体中へと供給され、静脈を通って心臓に戻ります。動脈の中でも最も太い大動脈は心臓からアーチ形に走行し背部を通り腹部に向けて血液を送り、両足へと分かれて脚の先まで血液が届きます。大動脈からいくつもの分岐する血管に向けて血液が送られ、脳をはじめ体中の臓器が働いています。
―心臓血管外科の役割は?
ところが様々な理由で動脈硬化が進むと血管が傷んできて狭い部分ができ血流障害が起きます。心臓血管外科ではそのような理由で血液供給量が足りなくなって起きる虚血性心疾患や動脈瘤に代表される大動脈に関わる疾患を扱っています。これら疾患は命に直結するものであるため、24時間対応し早急に外科治療を行うことが我々の重要な役割です。
―動脈硬化によって起きる大動脈に関わる主な疾患は?
大動脈が膨らむ大動脈瘤があります。ある程度の大きさになると破裂する危険性が高まるため、それを予防するための手術が必要になります。破裂すると大変で緊急手術しか治療法はなく命にも関わることになります。もうひとつの代表である大動脈解離は高血圧を有する方に多くみられ、血管の内壁の層に傷が入り血液が流れ込み血管の壁が縦方向に裂けていきます。発症時には肩から背中にかけて激痛が走り、破裂の危険性や、様々な臓器への血流障害を引き起こすこちらも非常に危険な状態を引き起こします。
―心臓の疾患にはどういうものがあるのですか。
大動脈から起始し心臓の表面を走行し心臓の筋肉に血液を供給する血管を冠動脈と呼びます。その冠動脈に動脈硬化が進行し狭くなり血流障害をきたす病気が狭心症で代表的な心疾患のひとつです。痛みを感じながら放置していると心臓の筋肉が壊死する心筋梗塞へと進行し、ポンプ機能が著しく低下します。心筋梗塞を起こしていない他の部分で血液供給を補おうと頑張っても、次第に体中のさまざまな臓器へ必要な血液を供給できず、最悪の場合は死に至ることもあります。カテーテル治療がまず行われますが、時に血管をつなぐ冠動脈バイパス術が必要になります。急性心筋梗塞、大動脈解離、肺の血管が詰まる急性肺塞栓症は突然死の危険性が高い頻度が高く危険な病気です。
―心臓血管外科には他にも大きな役割があるのですか。
最近治療頻度が上昇している弁膜症治療があります。心臓には4つの逆流防止弁がありますが、年齢を重ねるにつれて硬くなり傷んだりすると、心臓の出口をふさいだりします。弁置換術は硬くなった弁を人工弁と取り換えます。また弁の接合が悪くなり逆流をきたす場合には可能な限り人工弁は使わず自身の弁を修復する弁形成術を選択します。より高度な技術を要しますが、術後の患者さんの遠隔期の生活の質向上につながります。
―外科手術のほかにも選択肢は広がっているのですか。
胸骨を縦向きに切開し、人工心肺を使用することで心臓を停止させ、その間に傷んだ血管や逆流防止弁を治療するのが従来の外科手術です。それに対して低侵襲のカテーテル手術は足の付け根あたりから大動脈に細い管を入れ、レントゲンやCT画像を確認しながら行い随分早い回復が得られます。また胸部や腹部大動脈瘤のカテーテル治療ではバネが付いた人工血管であるステントグラフトを丸めてカテーテルの中に押し込み、血管内で広げて血液の通り道を作り動脈瘤壁に圧がかからないようにします。弁膜症の外科手術で多く取り入れられている小切開低侵襲手術「MICS(ミックス)」は肋骨の隙間を切開して内視鏡を併用する手術です。傷が小さく日常生活復帰までの時間を短縮できます。従来と比較し様々な選択枝が増えています。
―低侵襲の手術が最良とは限らないのですか。
カテーテル手術は傷が小さくて患者さんの負担は軽くてすむ一方、新しい治療法であることが多く遠隔期の成績が不明であり注意を要します。従来の手術では高齢の患者さんには侵襲が大きいこともありますが、通常の手術は確実で出血などの不測の事態にも対応でき、さらに遠隔成績が明らかです。例えば従来の大動脈弁置換術では人工弁の耐久性は15年程度見込めますが、カテーテルで施行する大動脈弁手術ではその耐久性は8年程度といわれています。80歳を超えた高齢の方の場合は弁の耐久性より侵襲の少なさを優先しカテーテル手術が選択されることが多くなるわけですが、我々は内科の先生と相談し治療方針を決定し、最終的には患者さんそれぞれに十分説明しご希望を鑑み決定します。
―他科と連携しながら治療方針を決定するのですね。
循環器内科と心臓血管外科は週2回カンファレンスを行い、特に高齢の患者さんでは体の脆弱性(フレイル)の度合いや認知機能を含め詳細に検討し、ご自身やご家族の意向を考慮しながら治療方針を決めています。血管内治療を専門とする放射線科との連携も欠かせません。主にこの3科がチームを組んで患者さんにとって最良の治療方針を決定し実際の治療に当たっています。
―近隣の病院とも連携しているのですか。
神大病院は緊急を要する場合には画像情報を共有するためにICTを活用して県内の病院と連携し速やかに治療を進めています。心臓血管外科ではいち早く取り入れ、従来は患者さんと検査結果データが同時に搬送されていたのですが、クラウドに保存されたデータを共有して到着前に治療方針をより正確に相談できるようになりました。患者さんが到着した時点ですぐに手術室に搬入し時間を無駄にすることなく治療を開始できるようになります。患者さんの個人情報を伏せたデータは、例えば自宅にいてもスマホやタブレットで確認ができます。投薬のみで治療が可能なケースでは急ぎ病院に駆け付ける必要がなくなりました。患者さんにとって大きなメリットがあるだけでなく、医師の働き方改革にも貢献する先進的な取り組みです。
―心臓血管の病気は予防できないのですか。
血管が傷んでいく過程では症状はほとんどなく痛みなども感じません。糖尿病や高血圧、高脂血症などはその代表で縫治療で放置していると、心筋梗塞を発症したり大動脈瘤が大きくなり破裂するまで気付かず最終的に命にも関わってきます。食生活の不摂生や加齢、運動不足による動脈硬化の進行が原因ですから予防には「日頃からの生活習慣に対する配慮と健診が大事」のひと言に尽きます。
岡田先生にしつもん
Q.岡田先生はなぜ医学の道を志されたのですか。
A.幼稚園のころに先生から聞かせてもらったシュバイツァー先生の話がきっかけで、何となくお医者さんになろうと思っていました。一生懸命勉強をしなくてはいけないなどと当時は考えていなかったので(笑)。
Q.外科医、その中でも心臓血管外科を選んだ理由は?
A.まず手先を動かすことが好きでしたし、私が医学生のころは外科が人気だったこともありますね。中でも心臓血管外科の患者さんは命の瀬戸際におられます。研修医の頃、治療を終えて歩いて帰って行かれる様子を見ると嬉しくて、とてもやりがいを感じ心臓血管外科を選びました。
Q.患者さんに接するに当たって心掛けておられることは?
A.コミュニケーションの取り方です。私が研修医のころ、患者さんを和ませながら丁寧にお話をされる先生に出会い、その姿を見て学びました。今は学生たちにも学術的なテクニカルスキルはもちろんですが、患者さんとの接し方などノンテクニカルスキルを診察や回診時の私の姿を見て学んでくれたらいいなと思っています。
Q.先生ご自身の健康法は?
A.今のところは犬の散歩ぐらいかな。犬と私自身の健康のために家の周りの坂道を一緒に歩いています。ところが最近は犬が高齢になって歩くのをいやがり、私も運動不足になり困っています(笑)。体を動かすことは好きでジムにも通っていたのですが、コロナで行きづらくなっていました。そろそろ再開したいと思っています。