11月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.15 神戸大学医学部附属病院 精神科神経科 青山 慎介先生に聞きました。その2
「こころの病気」とも言われる精神疾患について、10月号に続き青山慎介先生に伺います。うつ病や躁うつ病、依存症など、耳にすることも多くなった「こころの病気」ですが、私たちは正しく理解できているのでしょうか。
―10月号は〝精神科受診者が右肩上がりに増えている〟というお話がありましたが、どのような病気が多いのですか。
増えているのは認知症やうつ病、躁うつ病などの気分障害、ストレス性疾患などです。以前に比べて精神科の敷居が低くなって受診しやすくなったこともあるでしょうし、高齢化や社会的な状況の変化、様々なストレス、いくつもの要因があると思います。認知症については脳神経内科と連携し、早期診断・治療に努めています。
―気分障害は、誰しもがかかる病気なのでしょうか。
うつ病や躁うつ病は、誰にでもかかる可能性のある病気です。性別によってかかりやすい年代に違いはありますが、若者からお年寄りまで広い年代でかかる可能性があります。前の回でもお話ししたように、治療には心理的な働きかけや、その人を取り巻く環境への働きかけと同時に薬を用いた治療も行うことが多いです。
―薬の依存性を心配する声を聞くこともあります。
確かに薬の依存性を心配される方は多いですね。睡眠薬や不安を鎮めるようないわゆる安定剤の中には“依存”だけでなく、使用しているうちに効果が弱まってしまう“耐性”を起こしてしまう薬が少なからずあります。強い薬を長い間使用していると、ますます依存や耐性が強まります。ですからこのような薬は必要な時は必要最低限の量で使用して、回復に合わせて減量し中止することが望まれます。
最近は依存性や耐性のない睡眠薬もいくつか出てきていますから、お医者さんとよく相談して服用することが大切です。一方で気分障害の治療に使われる抗うつ薬や、統合失調症の治療に使われる抗精神病薬には依存性や耐性はないと考えられています。とはいえ副作用のない薬はありませんし、その人との相性もあります。お薬はその人が自分の回復のために用いるツールですから、どんな薬が自分に必要で、どのような注意が必要なのか、やはりお医者さんとよく相談することが大切です。
―自殺者増加のニュースを聞きます。精神科受診者の増加と関係はありますか。
ここ数年の傾向では、明らかにコロナ禍で自殺者が増加傾向にあること、これまで比較的少なかった女性や20歳代の若年層の自殺が増加していることが分かっています。コロナ禍では、学業や仕事の仕方も、人間関係のあり方もずいぶん変化が求められました。家族関係にも大きな影響があったと思います。世の中のムードや気配に誰もが否応なく影響されました。そういったことが自殺者数の増加に繋がっているのだと思いますが、今の時点ではっきりした因果関係は分かっていません。
精神科を受診される方の増加は、コロナ前から続いている傾向ですから、直接的な関係はないのではないかと思います。
―「ストレスがたまる」「メンタルが弱っている」など、会話の中で普通に使うこともあります。現代社会はストレス社会?
社会や仕事や人間関係は、自分を支え守ってくれるものでもあり、自分を傷つけ消耗させるものでもありますよね。それはきっと今も昔も変わらないでしょう。でも今自分が弱っていること、参っていることを「ストレス」や「メンタル」と言う言葉を使って表現できたり、助けを求めたりできるようになったことは良い事だと思います。
―言葉にすることは悪い事ではないのですね。
そうです。ただ、そういう声を上げることもできず、助けを求めることすらできない方も多くいらっしゃって、そういった方たちの中にこそ深く傷つき疲れ果て、助けや支援が必要な方がいらっしゃることに、私たち医師も社会も目を向けるべきでしょう。最近では、例えば虐待の問題やヤングケアラーの問題などがそれに当たると思います。
―ストレスと依存症は関係していますか。インターネット、ゲーム、スマートフォンなど。特にスマートフォンを手放せない人は増えているのでは…。依存症との境界線はどこですか。
人間誰しも多かれ少なかれ何かに依存して生きているものかもしれません。また、「〇〇がなくては困る」、「〇〇なしでは日常生活が立ち行かない」という意味では私たちの生活は多くの部分でスマートフォンやインターネットに依存しています。
一方で私たちが診断する病的な依存との違いは「〇〇をする(使う)ことでかえって日常生活や人間関係に支障を生じる」という点です。ストレス発散や日々の楽しみとして、お酒を飲んだりパチンコや競馬などのギャンブルを楽しんだりする方もいらっしゃるでしょう。そういった方にとってお酒やギャンブルは、ストレス発散や気分転換のためのツールであったはずが、病的な依存状態になると、お酒やギャンブルがかえって気持ちや生活を不安定にして、不眠や焦燥感、うつなどの気持ちの症状につながり、身体的な健康も害する結果に至ってしまうという、目的と結果が本末転倒になって悪循環が生じてしまうことが1番の境界線と言えます。
例えばお酒を飲みすぎて気分が落ち込む、気分の落ち込みを紛らわそうとしてまたお酒を飲む、お酒が切れて眠れなくてまたお酒を飲む、だんだん頻度も量も増えていく。ギャンブルなら勝ったり負けたり楽しんでいたのに、結局できた借金の返済のためにより高額のお金を使って取り返そうとする、そしてさらに借金が膨らむというようなことです。
―依存症を、気づかずに放っておくとどうなりますか?困ったことが起きないと気づかないこともあるのでは。
そうですね。お酒にしてもギャンブルにしても「やめようと思えばいつでも止めることができる」とご本人は考えておられることが多いですし、生活に支障をきたしていることについて過小評価します。そばで見ているご家族も「お酒(ギャンブル)さえしなければ良い人だから」と問題を先送りしたり、そのうち自分でコントロールしてくれるだろうと期待したりします。早い段階で病院を受診される方は少なくて、多くの方はいよいよ仕事ができなくなったり内臓を壊したり、返済しきれない借金を繰り返したりするなどの破綻をきたしてから病院にかかることになるんですね。先ほどお話しした、本末転倒が悪循環に繋がってしまっているようなら、依存症の心配があります。
―最近話題になっているゲーム依存はいかがでしょうか。
同じような側面があります。ゲームは本質的に多くの人に面白いとか楽しいと思ってもらえるように作られているものですから、多くの人が面白いと思うしハマってしまいます。時には夜更かししたり休みの多くの時間をゲームに費やすことがあるかもしれません。けれどそれが高じて、朝も決まった時間に起きることができずに遅刻や欠席するようになったり、やるべき宿題ができなくなったり、食生活も不規則になったり、場合によっては途方もない金額を課金したりするなどの問題を生じることもしばしばあります。
不安に感じることがあれば、専門医にご相談されることをお勧めします。
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