11月号
ここに来た動機はみんな違うけど、感想はみんな同じ。 「畑って楽しい!気持ちいい!」
| EAT LOCAL KOBE Presents
神戸の農水産物の地産地消化を推進するプラットフォーム『EAT LOCAL KOBE』から生まれた『MICRO FARMERS SCHOOL』は農のある生活の入口を、そして今回ご紹介する『MICRO FARMERS YOUTH』は “若者に”農のある生活の入口をつくるために生まれた“畑塾”です。
神戸では農との関わり方が変わりつつあります。
MICRO FARMERS YOUTH
久保さんのきっかけは
海の向こうの貧困問題
秋晴れの日曜日、午前10時。神戸市北区淡河の畑にMICRO FARMERS YOUTHの学生たちが集まる時間です。三宮からバスで30分、バス停の往復は地域の力も借りて。鳥の鳴き声と風の音しか聞こえない静かな場所が一気ににぎやかになります。何か楽しいことが始まるような雰囲気に、「元気でしょ?」とスタッフの久保陽香さんが笑います。「晴れの日も曇りの日も、雨が降った次の日のドロドロの日でも、いつもあのテンションで来てくれるからいいなって思うんです」。神戸市北区に「神戸市版地域おこし協力隊」として移住し、EAT LOCAL KOBEのメンバーとして農村とまちをつなぐ活動をする久保さん自身も数年前に農に興味を持ち、農に携わる道を選んだと話します。
「きっかけは貧困問題です。経済学部で学びながら『豊かな暮らしとは何か』を知るために海外へ。そこで衝撃を受けました。途上国の貧困を解決しなくちゃと思い込んでいたんですけど。そこには仕事があり、食べることができ、その国が元々持っている『豊かな暮らし』がありました。なんか悶々した気持ちで帰って来たんですよね」。それから休学し様々な経験を重ね、現在、久保さんは土を耕します。知りたいこと、やりたいことが増え、忙しいとか。「悶々してる時間はありません(笑)」。
失敗が当たり前の世界
7月号で森本聖子さんに伺ったMICRO FARMERS SCHOOLでは農業へのハードルを一段階下げて、小さな兼業農家を目指せるような環境をサポート、MICRO FARMERS YOUTHはその名の通りYOUTH、学生が対象です。その目的を理事の小泉亜由美さんに伺うと、「まずここに通うことを楽しんでほしい。そしてお日様の下で仲間と大声で笑い、一緒に汗をかいて、身体を動かして、帰りのバスでは爆睡、夜は大切に育てた野菜を食べてぐっすり眠る。そこに今の世の複雑さや不安はないですよね。小さな子どもの頃のように、ただ無邪気でシンプルな1日を月に数回でも持つことで、心身のエネルギーは明るくなると思うんです。そんな体験がこれからを生きるための一助になれば」。
畑では1人一つの畝を管理。自分の場所となるので好きな野菜を植えてもいい。植えるのは種か苗か、春か秋か、土に合うかどうか。久保さん始め、携わる農家さんにも相談しながら自分で決めていくことから始まります。育て、収穫し、それぞれの食卓に並ぶまで、期間は約半年。全員が揃う活動日は月2回、けれどその日以外にも各々時間を見つけては畑に来るようになるとか。「育てていくうちに愛情みたいなものって生まれてくるんですよね。大雨や強風の日にふと気になったり。そうなると次の活動日を待たずに時間をみつけて確かめにくる」。もともと農業が好きな子だからなのでは?そう聞くと、「ここに来た動機はそうじゃない子も多いですよ。本人たちに聞いてみてください」と久保さん。
学生たちの
きっかけもそれぞれ
蛙があちこちで跳ね回り極太のミミズも現れる畑の中、あちらでは話をしながら、こちらでは黙々と、各々が作業をすすめています。「畑をやっていた祖父が時々届けてくれた野菜は特別美味しかったんです。そのことを思い出して、今なら私にも作れるのかなと思って」とYさん。大学生になり、心にゆとりが生まれたのかも、と話は続きます。友だちと海に遊びに行く機会はあっても、山に行くことはほぼなく、畑を目にすることもなかった。それは農学部で学ぶAさんも同じ。「やりたい研究があって大学に入ったけど、実際、土にも畑にも触れることなく勉強していました。ふと、これでいいのかな」と気になり始めたとか。Aくんも農学部の学生。「“食”を仕事にしたいと思って農学部に入ったけど、農業のこと何も知らないなって」。参加してみてどう?と聞くとみんな同じ答え。「楽しい。気持ちいい」。
野菜は畑で作られている
野菜は毎日のように食べているというのに、どんなところでどんなふうに作られているのか知らない人は多い。それは学生だけでなく大人も同じこと。「それを知ったり思い出してもらうのが私たちの役割。農家さんが余計な心配なく栽培に向き合える社会にしたい」と小泉さん。
YOUTH参加が2年目となるNさんは、畑への興味から食料自給率の問題などにも目が向くように。「海外で働くことを夢見ていたけれどこの数年叶わなかった。自分ができることから始めようと思うようになりました。まずはここの土(笑)」。確かに雨上がりのせいか、畑のあちこちがぬかるんでいる。
理由を小泉さんに聞くと「この畑は最近まで田んぼだったから。水を貯めて育てるお米と、水捌けが必要な野菜では求められる土の状態が違います。田んぼを借りた野菜農家さんたちは、何年もかけて土を変えていく必要があるんです」。畑初心者の学生たちが土づくりから?と驚くと「そこも貴重な経験!土のリアル、農家さんたちの忍耐を知ってる、すごい子たちなんです」。
土が出来上がる頃には現在のメンバーはここを卒業している。けれど、畑を“つなぐ”ことも良き経験となるはず。何もかもお膳立てし楽しいところだけを体験させることもできるけれど、本当の“農”とは何か。“体感”するためのYOUTHを作った、EAT LOCAL KOBEの真髄がそこだと。
第3の居場所がもつ意味
畑での休憩時間。笑い声はひときわ大きい。「今、学校であんなに大きな口をあけて、大きな声で笑えないですよね」と久保さん。普通のことが普通ではなかったこの数年の学生生活で、価値観が変わったと話す子もいる。「毎日学校に行けなくなって、毎日毎日家にいたら、本当に外に出たくなって自然に触れたくなったんです。初めは散歩してたんだけど、ただ歩いててもなぁって思って」。という理由で“農”を選んだHさん。自然の中で過ごすことに辿り着いた、その気持ちは人間本来の欲求なのかもしれません。
「学生たちが“畑塾”と呼ぶこの場所は、学生とサポートする久保さんが主体です。彼らは、自分たちに必要な場所を作りながら、同時にどんな場所を後輩に残すのかを話しながら日々育んでいます。現在だけでなく、未来を向いています。それはきっと、自分はどう生きるか?という彼ら自身の問いにつながっていると思います」。小泉さんが考える“学び”は机に向かうだけでは得られない。“どう生きる”かを考え始めた若者のため、次世代のために大人は何ができるのか、考えなければいけない。
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https://eatlocalkobe.org/