2022年
6月号

映画をかんがえる | vol.15 | 井筒 和幸

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 文化人

1978年は、「普通の女の子になりたい」と言った少し年下のアイドル3人娘、キャンディーズが後楽園球場で最後のコンサートをして解散した年だ。無職者のボクは仲間らと2作目の小さな成人向け映画を企画しながら、もう普通の人生には戻れそうにないなと思っていた。
その初夏、東京の配給会社に企画を売り込みに上京したついでに観たのが、『ローリング・サンダー』(78年)だった。国鉄の夜行バスであんまり寝ていなくて売り込みもうまくいかなかった所為か、気分がすぐれなかった時だ。その年の初めにスピルバーグの『未知との遭遇』(78年)なんぞを観た所為もある。円盤や宇宙人に出くわすはずがないと思う者には恐ろしく退屈だった。そんなことも元から承知で観たのは女友達に誘われたからだ。おまけに、『北陸代理戦争』や『県警対組織暴力』と実録タッチで気を吐いていた深作欣二監督の、スペースオペラと謳った『宇宙からのメッセージ』(78年)という、タイトルからしてピントのズレた東映らしくないSFモノも評判が悪く、友人が前の年にアメリカで先に観ていた『スター・ウォーズ』(78年)の陳腐なモノマネだと言うので、「深作は何をしとんねん!」と観る気も失くなった矢先だった。そんな様々なストレスから、その『ローリング・サンダー』に狙いをつけて、気を晴らしに行ったのだ。
ベトナム戦争から帰還した兵士の後遺症モノが次々に封切られていた。主人公の空軍少佐もテキサス州のサンアントニオという田舎町へ帰ってくる。ウィリアム・ディヴェインというまったく知らない俳優だが、その心の病んだ表情に圧倒された。何年間もの捕虜生活で凄い拷問を受けたのか、鋭く険しい顔にすぐに同情できた。共に帰還した部下の伍長役のトミー・リー・ジョーンズという無名の新人も心に穴が空いた異様な感じが出ていて、邦画にこんな自然体の役者はいないなと思った。2人は町の英雄として迎えられ、千枚の銀貨と赤いキャデラックを贈られる。少佐は家に帰るが、妻は長い年月を待ちきれずに新しい男とデキてしまっていて、一人息子もなつかなくなってしまう。ある日、銀貨のニュースを知ったメキシコ人の強盗団が押し入り、母と息子は射殺され、少佐も片手をぐちゃぐちゃに砕かれてしまう。この酷い運命に、ボクは両手両足があっても思うようにいかない自分を重ねてしまい、主人公と一緒に「光る稲妻」となって早く悪党どもをやっつけに行きたくなった。付けた義手で銃に弾を込める練習をする場面も忘れられない。凄まじい復讐劇が待っていた。観た後、ボクも少し心が軽くなったのか、また出直そうと東京駅から夜行バスに飛び乗っていた。主人公の心が分かる孤独なウエイトレスの女がいい。ボクもそんな人を求めていたのだが。
夏になるとテレビで、 サザンオールスターズというバンドが『勝手にシンドバッド』をがなっていた。ボクはその調子良さが判らなかったが、代わりに、アメリカのザ・バンドの解散コンサートを記録した『ラスト・ワルツ』(78年)に孤独を慰めてもらえた。あんな最高に切ない音楽モノは初めてだ。24時間テレビの「愛は地球を救う」という番組も現れた頃だ。テレビ娯楽に邦画は駆逐されそうだった。
9月になると、マックィーンの『ブリット』(68年)以来のスリリングなカーチェイス映画『ザ・ドライバー』(78年)に出会った。これも拾い物だった。主演はライアン・オニール。あの甘い顔立ちから一転して、夜のロサンゼルスを駆け抜ける無口なアウトローを初めて演じた。ノータイで黒い背広姿が粋だった。役名もドライバーだ。銀行強盗の逃走を助ける彼を追うディテクティブ(刑事)、強盗、密告屋、イタチ野郎、そして、美女のプレイヤー(賭博師)、絡む市井の徒たちが全員、渾名で登場した。誰もが孤独を生きていた。自分も一緒だなと安心した。映画という娯楽芸術、いや、有り体に言えば、気を取り直す装置と向き合えただけでもうれしかった。

PROFILE
井筒 和幸

1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD、2021年11月25日発売。

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • ジャガー・ランドローバー西宮 / 神戸中央 / 姫路
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2022年6月号〉
トアロードデリカテッセン|デリカ[KOBECCO Selection]
ビスポークシューズ|il Quadrifoglio(クアドリフォリオ)[KOBE…
ゴンチャロフ製菓|洋菓子[KOBECCO Selection インスタグラム]
若者たちに託す 地域メディアの未来
映画をかんがえる | vol.15 | 井筒 和幸
天井からキラキラと降る 歌声に憧れて
Movie and cars |フェラーリ360モデナ
ノースウッズに魅せられて Vol. 35
絵本は 優しい気持ちを 共有する力がある
平尾工務店|目次[PR]
BMW 駆けぬける歓び[PR]
最高の神戸ビーフ|ビフテキのカワムラ|扉 [PR]
南京町をぶらり|曹さんぽ|扉 [PR]
神戸で始まって 神戸で終る ㉘
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.19 大友 直…
私の神戸みやげ|塩海苔|菊屋商店元町店
[ 広告 ] 平尾工務店
ノースウッズに魅せられて ―大竹英洋フォトコレクション
神戸偉人伝外伝|扉
NEKOBE|扉
[ 広告 ] JAGUAR & LAND ROVER
永田良介商店|オーダーメイド家具[KOBECCO Selection]
マキシン|帽子専門店[KOBECCO Selection]
il Quadrifoglio(クアドリフォリオ)|ビスポークシューズ[KOBE…
マイスター大学堂|メガネ[KOBECCO Selection]
ボックサン|神戸洋藝菓子[KOBECCO Selection]
北野ガーデン|フレンチレストラン[KOBECCO Selection]
神戸御影メゾンデコール|オートクチュールインテリア[KOBECCO Select…
フラウコウベ|ジュエリー&アクセサリー[KOBECCO Selecti…
アレックス|トータルビューティーサロン[KOBECCO Selection]
ブティック セリザワ|婦人服[KOBECCO Selection]
㊎柴田音吉洋服店|ハンドメイド ビスポークテーラー[KOBECCO Select…
御菓子司 常盤堂|和菓子[KOBECCO Selection]
ガゼボ|インテリアショップ[KOBECCO Selection]
STUDIO KIICHI|革小物[KOBECCO Selection]
亀井堂総本店|瓦せんべい[KOBECCO Selection]
ゴンチャロフ製菓|洋菓子[KOBECCO Selection]
南京町をぶらり|曹さんぽ|12|4月21日のおさんぽテーマは…
期間限定のグランピング施設 「UMU淡路島 RESPECT YOU, au」オー…
KOBECCO 訪問|雪月風花 本店
旧湊山小学校の複合施設 NATURE STUDIOが プレオープン
元町映画館 vol.6|終わらない戦争の内実
有馬温泉史略 第五席|有馬で極楽~ YOUは何しに温泉へ? 室町時代
神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~26前編 鬼塚喜八郎
木のすまいプロジェクト|平尾工務店|瓦編|Vol.5
“究極の軽さ、涼しく、シワになりにくい” 夏もオシャレを忘れない紳士たちに贈る …
唯一無二の学内プロダクションが始動!!『神戸電子スポーツ新聞』
オルセーが認めた典麗と精妙 アトリエ ユ・トーム ポーセレンレースドール展
“心技一体”の医療をめざして
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第132回
神大病院の魅力はココだ!Vol.10 神戸大学医学部附属病院 呼吸器外科田中 雄…
harmony(はーもにぃ) Vol.52 癌遺伝子は 生命誕生の恩人か
神戸のカクシボタン 第一〇二回 イラストレーター・西山アユミの遺作を動画化 『コ…
〝夢プログラム〟ビッグゴールへ向けて決意を新たに
国際ロータリー 第2680地区|病理医の研修を通じて カンボジアの医療の発展を
連載エッセイ/喫茶店の書斎から73  田辺聖子さんの異人館
翠風の地、六甲エリア 〜そのあゆみと価値〜
NEKOBE|vol.44|元町サントス