12月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.5 神戸大学医学部附属病院 小児外科 大片 祐一先生に聞きました。
赤ちゃんや子どもの手術には、最善の方法や時期の手術判断と繊細な技術が求められます。子どもたちのこれからの人生に思いを馳せながら日々、優しい笑顔で見守る小児外科医の大片先生にお話を伺いました。
―大片先生は小児科のお医者さんですか。
私は小児外科医で、手術でこどもを治す外科の医師です。小児外科は、外科のなかのひとつの専門分野であり、小児科とは異なります。私は外科医として、若い時から大人の外科も含めて修練してきました。兵庫県立こども病院でも勤務し、その後神戸大学病院にうつりました。こどもの患者さんは小児科の先生と一緒に診療することがほとんどです。大学病院に設置された「小児医療センター」にて、こどもの診療を専門にするさまざまな職種の人たちと一緒に働いています。また、大学病院の産婦人科ではリスクのある妊婦さんの診療を手掛けているため、体重の小さい赤ちゃんが早産で生まれることがあり、そのような未熟な赤ちゃんの手術を行うこともあります。また、生まれつきの病気が分かっていたら、出産に立ち会って、生まれてすぐ診療することもあります。小児科や産婦人科の先生方と協力し合って、注意深くこどもの診療を行っています。
―お母さんのおなかの中にいるときから診断しているのですね。
胎児超音波検査やMRI検査の機能と診断精度が非常に高くなっていますので、産まれる前に診断がつくケースは多くなっています。緊急性が高いと判断されている場合は、すぐに手術が可能なように準備をして、赤ちゃんが産まれる瞬間に小児外科医も立ち合います。
―小さな体の小さな患部の手術ですね。
産まれてみたら手術は必要なかったというケースもありますし、新生児の手術がそれほど多いわけではありません。が、中には早産で体重がとても小さく産まれて、すぐに手術をする場合もあります。赤ちゃんの臓器は小さくて柔らかく、ちょっと触れるだけで損傷することもあります。短時間で手術を終わらせる必要もあり、非常に繊細な技術と迅速な判断が必要です。
―小さな器具を使うのですか。
基本的な手術器具や装置を使うことが多いですが、特別なものに関しては大人用のものを工夫して使っています。
―どんな病気がありますか。
最も多いのは鼠径ヘルニアや急性虫垂炎です。新生児ではほとんどが「発生異常」といわれるものです。
私の専門の胸部外科で例を挙げると、食道閉鎖症があります。空気が通って肺へと送られる「気管」と、食べ物が通って胃へと送られる「食道」は元々一つの管で、お母さんのおなかの中にいるときに次第に壁ができて前が気管、後ろが食道と分かれていきます。ところが何かの原因で気管と食道が途中でつながってしまっています。他にも、十二指腸が閉じていたり、膵臓が十二指腸の周りに巻き付いていたり、胆のうの管が異常に膨らんでいたり、肛門の開口部が狭かったり無かったり、肺に嚢胞ができていたり、非常に多岐にわたります。
―大人の手術と違う点、難しい点は。
同じ疾患名でも先天性の病気は患者さんにより全く病状が異なり、患者さんに応じて手術方法も変えなくてはならないという点です。また、大人でがんが見つかった場合などはすぐに「取り除く」手術をすることが最善の方法ですが、小児外科は一部を除いて「再建する」手術で、診断されてすぐ手術することが最善とは限りません。成長するにつれて状況が改善したり、時には支障がないまま大人になったりして手術の必要はないかもしれません。一人一人の成長を想像しながら手術のタイミングを見極めるところに難しさがあります。機能の発達や社会生活への支障の程度も含め、その子にとって最善の方法と時期の判断は、小児科や各分野の専門の先生方と十分に相談して親御さんやご家族にお伝えします。
―日頃から心掛けておられることは?
小児外科医は、その子のこれからの長い人生を保証しなくてはいけません。病気を治すことはもちろん、性格や人生を大きく変えてしまう可能性もある傷跡をできるだけ残さないようにすることにもとても気を使っています。また、親御さんやご家族に説明するにあたっては、子どもにとって一番いいことは何かを最優先に考え、事情や考え方を考慮しながらお話をするようにしています。
時に、お母さんは「自分自身に責任があるのではないか」とご自身を責めてしまうことがあります。発生異常は遺伝的な要素も一部解明されていますが、「偶然」としか言いようのないものがほとんどです。責任を感じる必要はないということをお伝えできるように心掛けています。
―メスを使わない手術をするケースもあるのですか。
子どもに対する低侵襲手術は世界的に進められています。神戸大学病院では、新生児の食道閉鎖症や十二指腸閉鎖症、胆道拡張症の手術に腹腔鏡、肺葉切除術に胸腔鏡を取り入れています。私自身は低侵襲手術のほか、ロボット支援手術にも携わり、先進的に行っている米国シアトル・ボストン両小児病院、韓国のセブランス小児病院、ベトナムの国立小児病院に留学し学んできました。手術器具と同じく、ロボットも子どもの手術に適したサイズのものがないという問題がありますが、神戸大学小児外科としては積極的に取り入れる方向で進めていきたいと思っています。
―子どもはやがて大人になり、ずっと大片先生に診ていただくことはできないのですね。
小児医療が抱える大きな問題です。小児科の対象年齢は概ね15歳まで、大人になると子ども病院や小児病棟には入院はしにくい上に、20歳を超えると小児慢性特定疾病対策による支援が打ち切られるなど制度上の問題も発生します。治療が長期に及ぶ疾患が多く、大人の診療科を紹介されて受診しても「対応できない」という理由で断られるケースもあるようです。16歳から20歳になるまでの間、小児医療と成人医療をオーバーラップさせる期間を設け、スムーズに移行させる「移行期医療」に国主導で取り組んでいますが、遅々として進まないのが現状です。
―16歳以降はどこへ行ったらいいのでしょう。
現在、神戸大学小児外科では16歳を過ぎて診てもらえる診療科がなくなり困っている患者さんを受け入れる努力をしています。有志で集まり勉強会を開いて話し合いを重ねていますが、病院だけの努力では限界があります。行政の力もお借りし、「移行期医療」を早急に進めたいというのが今後の課題のひとつです。
大片先生にしつもん
Q.外科医を志されたのはなぜ?
A.あるきっかけで小児医療に携わろうと決め、医学部を目指しました。実家が家族経営の町工場だったので、小学生のころから父の横で見よう見まねで鍛えた手先の器用さには自信がある。そこで外科を専門にしようと決めました。
Q.あるきっかけとは?
A.私が高校3年生のとき、中学生の弟が悪性リンパ腫になりました。元気だった子どもが突然、がんだと言われ余命宣告を受けるのですからそれは大変です。運が悪かったのか、家族の気持ちに寄り添ってくれるお医者さんになかなか出会えず、誰を信じたらよいのか分からなくなり家族全員の生活が一変しました。最終的にすごく優しくて素晴らしい外科の先生に出会い、弟は化学療法と手術で回復しました。こんな苦しみを経験していなければ小児医療を志すことはなく、町工場を継いでいたと思います。
Q.健康法は?
A.大学生の頃から続けている水泳をはじめ、旅行や釣り、自転車に乗るなど、体を動かすことをいろいろ、広く浅く楽しんでいることかな。精神面では、努めて幸せな気持ちでいるようにしています。
Q.確かに、先生は健康で明るい印象を受けます。
A.子どもたちを見ていると意外なことや面白いことがいっぱいで、毎日笑わせてもらっています。子どもは病気になると急にぐったりします。が、ある程度回復すると元気になるのも急激で、突然走り回っていてビックリすることもしばしば。そんな様子を見るのが楽しみです。一番の健康法かもしれません。