12月号
「神戸1923プロジェクト」で神戸に新風を ~ カルチャーを通して、街をデザインする ~
Culture × Town development
クロシェホールディングス沼部美由紀さんを進行役に、街をデザインシリーズ4回目をお届けします。
今回は、2023年に創業100年を迎える企業の次の時代を担う2人。
100年前の創業時のことから、今とこれからの会社経営のこと、やりたいことや作りたいもの、神戸の未来のことまで、話はどんどん広がります。
そろって創業100周年
沼部 お2人はどこで知り合ったのですか?
道満 東京で開催される「神戸のつどい」で昔からMCCさんのそばめしにオリバーのどろソースをかけてお客さんに提供していて、6年ほど前、僕が初めて行ったとき水垣さんにお会いしました。
沼部 私と水垣さんは、美味しいものを食べる会で紹介されて知り合い、次に連れてきたのが道満さんでした。このメンバーもコロナで最近は美味しいものを食べに行っていませんね。餃子を食べに行ったのはもう1年半ぐらい前かな。
水垣 高架下のお店、美味しかった。
沼部 今日は神戸の食を担うお二人に創業100周年についてお話を伺いたいと思います。
水垣 僕たちの共通のテーマは「創業100周年、何しよう?」かな。
沼部 そろって創業100周年ってすごいですね。
道満 1923年創業、どちらも再来年100周年を迎えます。
その前に、新工場をPR
沼部 100周年記念の計画は始めていますか?
水垣 100周年記念事業の一つとして、今ポートアイランドに新工場を建てているのですが、そのPRについて良いアイデアが出てこない。
沼部 いつオープン?
水垣 社内での竣工式が12月3日、来年1月29日に仮稼働、半月ほど試運転して、3月14日から本格フル生産に入る予定です。
沼部 生産をポーアイに集約するのですね。
水垣 そのつもりだったけれど、コロナの影響で深江浜にある甲南工場の家庭用の生産が間に合わなくなってきて、新工場はそれにあてることにしました。
沼部 今後BtoCとBtoBどちらを増やしていくつもりですか?
水垣 半々でいくつもりです。それについては1923年に遡るのだけど…。
道満 創業当時の長田工場では缶詰を作っていたと聞きました。
水垣 缶詰は兵隊さんの食料だったので、海外に複数の工場を持ち、供給していました。創業者が「三菱・三井・水垣で3M」などと言うほどの勢い。ところが終戦と同時に状況は一変。そんな経験を基にどんな時代でもバランスが取れる「和戦両面の考え」で再興し、現在に至っています。今は冷凍とレトルトが半々で、業務用と家庭用も半々にしようとしていたところにコロナがきて偶然半々に。この状態を維持していこうと思っています。
沼部 選択と集中の反対路線を行っているのですね。
一緒にやりましょう!神戸1923プロジェクト
沼部 オリバーさんの100周年は何か決まっていますか?
道満 一つだけ決まっているのは、アーカイブとして歴史をまとめたものは必要だけど、「分厚い社史を作るのはやめよう」。それと新商品を出す予定で、10年ほど前から仕込んでいる原料を使うソースと、もう一つは…まだ詳細は決まっていないので発表はこの程度にしておきます。今日は同じく1923年創業企業としてご提案をしたいなと思っていることがあるのだけれど…。
水垣 ぜひ聞かせて下さい!
道満 調べてみると、この年に神戸で創業した会社は結構多いんです。〝1923〟をテーマにしてみんなでつながって何かできないかな?「神戸1923プロジェクト」を立ち上げて、「神戸のまちを丸ごと〝1923〟で染めませんか?」と神戸市に提案してみたらどうかなあ。「078KOBE」とも何か一緒にできるんじゃないかなあ。
沼部 うん、何かできそう!何でも協力します。具体的に話を詰めていきましょう。
実現したいのは小ロット製造
沼部 次の時代を担う2人の野望は?
水垣 小ロットのビジネスをやりたい。いろんな人と話をすると、「うちのカレーを300食だけ作ってもらえないかな」という類の相談をよく受けます。うちはこの業界では小ロット規模とはいえ、最低ロットで5千食。スタートアップの人たちには恐らくキツイ。今のところ泣く泣く断るしかない。例えば、「5千作ると200円だけど、150なら350円」となると、ちゃんとしたビジネスとして成立する。そうすれば地域の企業や飲食店のお役に立てて、全国的にはスタートアップの方々を掴める。「MCCさんで150缶を作ってもらったところから始まりました」なんて言ってもらえたら嬉しいじゃないですか。
道満 まさしくそれ!すごくよく分かります。最近、例えば神戸の有名中華店で使用されている中華ソース、東京のとんかつ屋さんのタレなどなど、「作ってください」というお話をたくさん頂きます。必要なことの一つが小ロット化ですがいろいろ問題があり難しい。そこで、調味料というマーケットをターゲットにした新事業を展開するという構想を持っています。
沼部 ソース関連の調味料?
道満 いいえ、もっと幅を広げます。先代がオリバーソースの歴史の中で築き上げてきたものをドラスティックに変えるのは失礼過ぎるけれど、「ソース会社からの脱却」というターニングポイントは確実に来ると僕は思っています。そこには競合他社がたくさんある。そこで、継続できなくなったお店の人気の味を買い取ったり、人気店とライセンス契約を結び、レシピを貰って作る調味料をネット販売し売上の一部をお店に還元したり、特徴のある調味料を作る総合的な調味料会社に変わっていく。設備投資が必要なので長期でみる将来的なビジョンです。
水垣 うちなら得意なスープ、カレー、ピッツァ、ハンバーグ、他社にもそれぞれ得意な分野があり、価値観を共有できる何社かで集まってグループで実現できたらいいなあ。
道満 食品業界は基本的に安全第一だし、食はなくならない産業だから保守的な会社が多いんじゃないかな。ITツールをうまく使えばいいものを発信できるはずなのに、他の業界より一歩遅れている。食品専門の展示会に行くと素敵な商品がたくさんあって、試食してみるとめちゃくちゃ美味しいのに世の中に出ていない。それは発信力が足りないから。僕たちなら埋もれているいいものを発掘して流通にのせられると思う。なぜ優位性が高いかというと、発信ツールと営業力を持っているのはもちろん、歴史で裏付けされた目利きをもっているからです。
水垣 うん、そうだね。歴史は揺るぎないもの。すがったらダメだけど、上手に活用しなくてはいけないものだね。
今や「閉鎖的」と言われてしまう神戸
沼部 千年以上の歴史を持つ京都は伝統を守りながら新しいものをアグレッシブに取り入れています。神戸は開港以来150年ぐらい、新しいものを取り入れてきたはずなのに、だんだんそれがなくなってきて。バランスよく取り入れていくにはどうしたらいいでしょうか。
道満 神戸は多様性で栄えてきた街。例えば、外国船のコックさんたちが陸に上がって始まった洋食文化を神戸の人たちは柔軟に取り入れてきたはず。ところが今、外から客観的に神戸を見る人たちから「すごく排他的な街」と言われる。何故そうなってしまったのか。
沼部 多様性を取り入れてきた150年の資産がまだ残っていますけど、開港200年に向けての神戸を考えたとき「このままじゃあかん」とみんなが分かっているのですが。
水垣 〝他所者〟の僕が考える「閉鎖的」はちょっと違う。神戸モトマチ大学に集まる人たちってほとんど神戸の人じゃない。僕も川西生まれで今は芦屋の住人だけど神戸について熱く語れます。でも「あいつ神戸ちゃうしな」と言う人は一人もいない。「神戸が好き。愛してる」と言って行動すると仲間に入れてもらえると思う。
道満 うーん、なるほど。
目に見えないところで大きな変化が起きている
沼部 私の肌感覚ですけど、この先5年で大きく変わると思います。というのは、神戸市新産業課に行くと全国有数のイケてる人材が集まっていて、すごく期待できる。
道満 僕も神戸市さんとお仕事をする機会が多いので肌で感じます。面白くて〝とんがった〟人が役所にたくさんいて、ひらけていて、いろんな情報を取り入れています。若手が多いのかな。
水垣 以前は神戸市は「若手や民間に迎合し始めている」と思っていたけれど、「そうじゃないな」と思い始めています。
沼部 今までは行政から一方的だったのが市民を巻き込むというスタイルに変わってきているのがよく分かります。コミュニケーションができるようになってきていますね。
道満 震災復興から再建へというのは目に見える変化、目に見えない変化も確実に始まっていると思いますね。
水垣 最近、民間から提言をする立場の人たちと知り合える機会が増えたけど、提言が形になってきていると実感できるようになりましたね。
沼部 パッションのある人たちからの提言が増えてきています。このパッションがもっと広がればいいですね。
道満 神戸っていいところが多すぎてコンテンツの絞り込みがやりにくい。あちこちでいろんなことに着目して提言するのはいいけれど、前には進みにくいんじゃないかな。
沼部 神戸というより、大阪・京都・神戸が今よりももっとシームレスになったらいいですね。
話がちょっと広がり過ぎたので、この続きはまた美味しいものを食べながら…。
エム・シーシー食品株式会社
常務取締役
営業本部長 水垣 佳彦 氏
1973年生れ。関西学院大学経営戦略研究科卒。15年間在職した六甲バター(株)ではチーズの魅力にとりつかれ、チーズプロフェッショナルの資格を取得。エム・シーシー食品(株)入社後は「味の感動を伝える」というミッションの下、おいしいのアンテナを拡張中。大阪支店リテールディビジョンマネージャー、東京支店長を経て2015年より現職。
オリバーソース株式会社
取締役
企画室 室長 道満 龍彦 氏
オリバーソース創業家の一人。1985年生まれ。甲南大学卒。趣味でもあった旅行でニューヨークの街の活気に刺激を受け、大学在学中、1年間ニューヨークへ留学。大学卒業後は他ソースメーカーの製造部署に2年間従事。オリバーソース入社後は神戸支店、東京支店の営業部配属の後、2020年に取締役就任。現在は商品企画やマーケティング業務を手掛ける。
株式会社クロシェホールディングス
代表取締役社長 沼部 美由紀 氏
阪神・淡路大震災の翌年に、美術品、食器のバイヤーから独立。「ここち良さを、あたらしい視点から」をポリシーとして事業を展開し、自社ファッションブランドを立ち上げる。現在、クロシェのサステナ宣言「Redraw the Circle(循環を描きなおそう)プロジェクト」を発表し、無駄なものはつくらない「受注生産」への転換を試みている。