11月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第125回
マイナンバーカードが健康保険証にオンライン資格確認について
兵庫県医師会常任理事
医療情報ICT化委員会担当理事
西口医院 院長
西口 郁 先生
─マイナンバーカードが健康保険証の代わりになるそうですね。
西口 はい。医療機関を受診する際に健康保険証を提示していただいていますが、この10月からオンライン資格確認システム(図1)が本格稼働し、マイナンバーカードをカードリーダー(図2)に置いていただければ支払基金・国保中央会(国保連)のサーバーからネットワークを介して健康保険証の情報が取得できるようになったため、健康保険証の提示は不要になります。もちろん、これまで通り健康保険証の提示でも受診できます。
─どこの医療機関でもマイナンバーカードを健康保険証の代わりに利用できますか。
西口 いいえ、オンライン資格確認システムを導入しカードリーダーを設置している医療機関でしか利用できません。
─マイナンバーカードを利用すると、患者にどんなメリットがありますか。
西口 大きく2つのメリットが挙げられます。1つは受付時間が短縮され混雑緩和に結びつきます。健康保険証を提示していただくと、医療機関では患者さんが加入されている健康保険証の情報を照会し確認する資格確認の作業をおこないます。これまでは受付事務職員が健康保険証の情報を電子カルテやレセプトコンピュータに手作業で入力していましたが、マイナンバーカードを利用すればカードリーダーに置くだけで資格確認が自動で瞬時におこなわれるため時間がかかりません。もう1つはより正確な診断や治療に結びつくことです。患者さんの同意があれば過去に服用したお薬や特定健康診査の情報が閲覧できるため、お薬の重複や飲み合わせの副反応を避けることができ、検診データも活用できます。特に災害時には利用価値が高いでしょう。このほか、転職や退職、結婚などで健康保険証の切り替えが必要な場合でも、新たな健康保険証の発行を待たずに受診できるようになるのも利点ですね。
─でも、マイナンバーカードを渡したら、大切な個人番号を見られないか心配です。
西口 受付職員はマイナンバーカードをお預かりしませんので、個人番号が見られることはありません。患者さん自身がマイナンバーカードをカードリーダーに置くと、カードリーダーがICチップの情報を読み取るとともに顔認証をおこない、本人確認ができるようになっています。
─医療機関にはどのようなメリットがありますか。
西口 患者さんが失効した健康保険証を持参された場合、医療機関は医療費を健康保険組合に請求することができず未収になってしまいます。また、主な保険証のほかにも限度額適応認定証や子ども医療費受給者証、生活保護受給証などの書類を確認する煩雑さもあります。しかし、マイナンバーカードを用いオンラインで資格の有無が確認できれば、これらの課題が解決され、事務の省力化にも結びつきます。
─オンライン資格確認の普及状況はいかがですか。
西口 このシステムの利用には、患者さんがマイナンバーカードを所有し、医療機関がオンライン資格確認システムを導入していることが必要です。今年8月時点でマイナンバーカードの人口に対する交付枚数率は全国で36%、兵庫県で40%ほど、9月時点でオンライン資格確認の準備が完了している医療機関は5%ほどと十分に普及しているとはいえません。私の診療所では6月下旬に導入しましたが、9月現在までマイナンバーカードで受診された患者さんは一人もおられません。オンライン資格確認が広まるには、まずマイナンバーカードが普及しなければなりませんね。
─スタートしたばかりですし、普及が進むのはこれからでしょうね。
西口 厚生労働省はオンライン資格確認システムをデータヘルスの基盤と位置づけて積極的に導入を勧めており、(表1)のように今年2月時点での機器申込割合は3割程度ですが、今年10月の開始時点で6割程度、再来年3月末にはほぼすべての医療機関等でのオンライン資格確認システムの設置を目指しています。カードリーダーや資格確認端末などのシステム導入には費用負担が発生しますが、整備されるオンライン資格確認回線は全国の医療機関等を結ぶネットワークの基盤となり、今後さまざまなサービスが提供されます。
─どのようなサービスが提供される予定ですか。
西口 厚生労働省が推進するデータヘルスの集中改革プランによると、来年夏を目途にオンライン資格確認回線を活用した電子処方せんシステムが構築される予定で、紙の処方せんを薬局へ持参することなくお薬を受け取ることが可能になります。当初は医療機関や薬局で閲覧できる情報は薬剤情報と特定健康診査の情報のみですが、職場検診や学校検診など対象になる情報が拡大する予定です。また、マイナポータルというインターネットサイトで自身の保健医療情報を確認することができますが、今後、民間のパーソナルヘルスレコード(PHR)事業者が提供するサービスを活用することで、医療専門職と円滑なコミュニケーションが可能になると期待されています。将来は電子カルテ情報や交換方式の標準化により、医療機関の間でカルテのやりとりも可能になるように計画されています。
─医療のデジタル化にはどのような課題がありますか。
西口 医療のデジタル化は遅れているといわれていますが、デジタル庁の発足を受け、今後、急速に進むと思われます。しかし、デジタル機能を導入し利用するだけで、質の高い医療を提供できる訳ではありません。情報の取得や交換が容易になる一方で、同時に情報漏洩のリスクも高まります。ICTリテラシーを高め、システムを上手に活用したいですね。