11月号
神戸から届ける、世界の絵本の魅力。
神戸市兵庫区にあるBL出版(株)は、幼児教材、知育玩具の販売を行うブックローン(株)から、ブックローン出版(株)として1974年に創立された。知育絵本「チャイクロ」シリーズは現在まで続くヒット商品に。捨てられた犬のさすらいの一日を描いた文字のない絵本『アンジュール ある犬の物語』(ガブリエル・バンサン作)など、常に新しい絵本のスタイルを発信し続ける落合直也さんに、代表作にまつわるお話や絵本への想いを伺った。
人生の転機となった一冊の絵本との出会い。
―編集者を志望しておられたのですか。
実はそうではなかったんです(笑)。私は76年に入社したのですが、翌年からグループ企業に出向してフランスの書店にいました。
80年、リチャード・スキャリーの『ハックルとローリー ものしりえほん』の制作を機に、それまでの訪問販売から、書店販売も始めようということになり、初の書店営業担当になりました。当時、営業は一人でしたので、書店の児童書担当の方から教えてもらいながら、ひたすら絵本を読み続けました。
―神戸の出版社から、全国に営業する難しさはありましたか。
神戸から営業に来たと言うと、神戸=国際都市、港があって異人館もあって、おしゃれなイメージがある。そこに外国の絵本を紹介しにいくので、当時は、どこに行っても受け入れてもらえました(笑)。
―“神戸”と“翻訳絵本”が見事にマッチしたわけですね。
はい。そういった意味で神戸から発信できたのは強みでした。東京でやっていたら、きっと埋もれてしまっていたと思います。
―落合さんが手がけられた『アンジュール ある犬の物語』は代表作ですね。
86年かな、編集部に行くとベルギーの絵本作家、ガブリエル・バンサンの『アンジュール』の原書があったんです。すでに『くまのアーネストおじさん』は人気シリーズでしたが、『アンジュール』は絵だけの作品でしょう。編集部では扱うつもりはないようでした。でも私は好きでね。書店さんに見せて歩いたら、どの担当者も「これはすごいね」って言ってくれて。社内では「本当に売れるのか」と危ぶむ声もありましたが、当時の社長に直談判して出版にこぎつけました。
おかげさまで大きな反響をいただき、絵本の原点とも評され、現在61刷と、当社のロングセラーとなっています。
BL出版 代表取締役社長
落合直也さん
1976年、ブックローン株式会社に入社。1981年ブックローン出版株式会社(現BL出版)に出向し、営業担当として全国を飛び回る。1985年から編集にも携わり、ガブリエル・バンサンの作品や海外の秀作絵本を積極的に紹介するとともに、創作絵本の編集にも力を注ぐ。2012年1月、社長に就任。