2021年
8月号

「神戸の本質的な豊かさを伝えていきたいです」

カテゴリ:神戸

小泉 亜由美さん 一般社団法人KOBE FARMERS MARKET理事

地産地消の新しいプラットフォーム「EAT LOCAL KOBE」。東遊園地で開催している朝市「FARMERS MARKET」では、市内の生産者から直接農産物を購入したり、神戸産の野菜を使った朝ごはんを楽しんだり。神戸の暮らしにすっかり定着したこの活動も、今年で7年目に突入。生産者と消費者をやさしく結びながら、ますます進化中です。

東遊園地を飛び出してキャラバンがスタート

週末の朝は、ファーマーズマーケット。神戸の日常にすっかり馴染んだこの朝市が始まったのは、2015年のこと。食を軸とした神戸市の都市戦略「食都神戸2020構想」のもと、神戸市の農村と都市の融合を目指した取り組みの一環として始まりました。その運営を担うのが、小泉さんです。
「これまではほぼ毎週土曜日に東遊園地で開催してきましたが、公園再整備の工事に伴って移転することに。そこで〝キャラバン〟と題して、毎月神戸のあちこちでマーケットを開くことになりました。今年6月は須磨海岸へ、そして7月には旧居留地・浪花町筋へ。ファーマーズマーケットを共催する市の農水産課のみなさんとは、立ち上げからずっと一緒に汗をかいて、みんなで場を守り育んできました。またこの度はまちづくり推進課さんも応援してくれて、会場には中央区のキャラクター・かもめんも来てくれました。応援してくださるお客さまも含め、みなさんのサポートがありがたいですね」
初めての場所でのキャラバン。お客さんや出店者の皆さんの反応も気になるところです。
「須磨海岸のマーケットは、神戸の西側に暮らす方々にとても好評でした。旧居留地では、周辺で働く方がわざわざ来てくれることも。近隣店舗の方が事前に野菜を購入してくださって、この日に合わせてお店で神戸産野菜のランチやスムージーを提供していただいたりもしました。ロケーションが変わる不安もあったので、新しい反応に農家さんたちもとても喜んでいましたね。でも一番は、地域の皆さんが歓迎してくださったこと。とても安心しました」
緑に囲まれた公園でのゆるやかな雰囲気から一変、人が行き交うアーバンな路上へとキャラバンは旅します。
「多くの人に少しずつ存在を知ってもらいたいですし、『また戻って来てほしい』と言ってもらえるような内容にしていきたいです」

8月は、初となるナイトマーケットに挑戦

次にキャラバンが耕す場所となるのは、神戸メリケンパークオリエンタルホテルの西側。これまで出会えなかった人たちにも、夜のマーケットとしてローカルを届けていくチャレンジが始まりました。
「ファーマーズマーケットとしては初の夜型マーケットですが、実は昨年夏に、ポートタワー下でウェンズデーナイトマーケットを開催しています。この時はコロナ禍の飲食店を支援しようと、毎週水曜の夜に外で食べて飲むという新しい夏の楽しみ方を提案しました。地産地消を盛り上げるために農家さんと飲食店さんは支え合っていますが、普段はそれ以上の関わりを持つことはありません。ですがこの時は、農家さんが食事にきてくれて、〝お互いにありがとう〟の気持ちで支え合ったイベントとなりました」
夏の夕涼みも兼ねて野菜を買って帰れるという、神戸で暮らす人にとっても嬉しい存在になりそうなナイトマーケット。
「土曜の夜に、お友達やご家族と一緒にぶらりと来ていただけたらと思っています。農家さんたちは『本当に夜に野菜が売れるのか!?』と、みんな不安になっていますけどね(笑)」

「種まきができてきたかな」 まちを耕すことを実感

ナイトマーケットを開催するエリアは、昨年10月の特別企画「ファーマーズマーケット オーシャンフロント」から数えると二度目。今回も海の神戸らしい内容になるのでしょうか。
「オーシャンフロントのときには、東須磨から漁師さんをお呼びしました。次はいろいろな港から来てもらえるように計画しているところです」
マーケットに、神戸の海の幸がやって来る。この新たな発想が実現したのも、「ウェンズデーナイトマーケットがあったおかげなんです」と小泉さん。
「今となれば、毎週毎週、暑くても赤字でも、必死になってやって来たあの時にこそ『自分たちで種をまいていたんだな』と感じます。やっているうちに良い部分も課題も見えて来て、『海側で何かできるんじゃないか? ここに漁師さんが来てくれたら、めっちゃ楽しいはず』と気づいたんです。漁師さんもすぐに快諾してくれました。神戸の西側の漁師さんが、街のど真ん中の海まで漁船で行き来する姿もお客さんには新鮮だったようです。単なるおしゃれな観光の港ではなくて、『本当に神戸の海で魚を獲ってるんだ。じゃあ神戸の魚を、適正な価格で購入して食べよう』といった気持ちが芽生えるきっかけになれば。そのためには、まず神戸の魚のブランド価値を上げていかないといけません」
神戸には農業も漁業もあり、目の前に本質的な豊かさがある街。「神戸市民が自らローカルエコノミーを回していけるような、そんな気風が生まれたらいいなと思います」

昨年秋からはスクールも 農業に挑戦できる環境作りへ

ファーマーズマーケットを始めてから驚くほど多く寄せられたのは、意外にも「どうやったら農家になれるのか?」という声だったそう。そこで昨秋立ち上げたのが「マイクロファーマーズスクール」です。
「スクールがあるのは、北区・淡河地区。農業を学んでみたい人や、農業以外の仕事と両立させるマイクロファーマーを目指す人、それよりももっと小規模であっても農業で収入を得たい人。いろんな人が、とにかくチャレンジできる場所を作りたくて」
農業をしながら自分の飲食店を持ちたいという人もいれば、リモートワークになったことで野菜を育ててみたくなった人など、参加の動機はさまざま。最終的には淡河地域での就農を目指してもらい、自ら田畑を借り、周囲の管理もできるようになるまでサポートします。
「たとえ農家にならなかったとしても、ここで野菜の作り方を学んで、自分で野菜を作れる人が神戸中に増えるのが理想。その人がリーダーとなり、街なかでも農業を教えられるようになれば『神戸っ子は野菜が作れる』というのが当たり前になるかもしれない。豊かな食があるだけじゃなくて、自分たちも生み出せる。育てることで大変さもわかります。売られている野菜が安すぎることにも気づいたりもできるでしょうし、三方よしだなと思いますね」

学生のユースサポートも開始 多面的な形へ進化中

スクールには、もう一つ、大学生の活動から生まれた「マイクロファーマーズユース」も。これからの多様な生き方として、「農」に対してリアルな興味を持つ学生が増えてきたと小泉さんは感じています。
「食の状況に対して、自分ごととして危機を感じている子が今は多く、とても強い思いを持った個人が集まってくれています。土に触れるだけで学生たちもリフレッシュできて、また街での生活を頑張れる。そんなきっかけにもなっていますね。若い世代は未来の街を作ってくれる存在。みんなでサポートする意識が広まればいいですよね」
学校とはまた違った角度からの農業へのアプローチとして、淡河の古民家「ケハレ」での農業民泊も。農家と一緒に畑仕事をしたり、ごはんを作ったり、手仕事のワークショップをしたりと、農的な暮らしを体験することが目的だそう。
「街から30分くらいで体験できるのも神戸らしい。ここで農業に興味を持ってもらったり、農村の良さを感じてもらえたらなと思います。料理上手なケハレの農家さんが、漬物などの加工品の作り方をスクールやユースでもレクチャーしてくれたりと、それぞれが結びつきながら共生しています」
ファーマーズマーケットを起点に、毎日野菜が買えるグロッサリーショップ&カフェ「ファームスタンド」やスクール、農家民泊も誕生。小さな点から網の目のように派生していった7年目の今も、小泉さんの軸はぶれることはありません。
「表現方法が異なっていても、神戸の本質的な豊かさを伝えていきたいという気持ちは一緒。みんなで手を取り合って、今後も発信を続けていきたいです」

6月、須磨海岸での様子。マーケットを通して、神戸西側の街も耕しています

リアルショップ「ファームスタンド」では神戸野菜を使った日替わりランチも登場

NEWS

FARMERS MARKETや学生の活動・MICRO FARMERS YOUTHといった、ローカルの小さな取り組みを、サポートしてくださる方を募る、新しい寄付窓口ができました。くわしくは、HPからご覧いただけます。
http://eatlocalkobe.org/

小泉 亜由美(こいずみ あゆみ)さん

一般社団法人KOBE FARMERS MARKET理事として、毎週土曜日朝に開催する「ファーマーズマーケット」のほか、リアルショップの「ファームスタンド」、農家を目指す人のための「マイクロファーマーズスクール」、「マイクロファーマーズユース」などの運営に携わりながらまちづくりに取り組む。

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

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