2021年
2月号
(実寸タテ16·5㎝ × ヨコ5·5㎝)

連載エッセイ/喫茶店の書斎から 57 二人部屋

カテゴリ:文化人

今村 欣史
書 ・ 六車明峰

コロナ禍の中で二度の入院体験をした。いや、コロナに罹ったわけではない。長年の持病、不整脈の治療である。二十数年前に初めて不整脈に襲われて一泊だけの検査入院をしたことがある。その時は「悪性のものではありません」とのことでひとまず安心したのだった。しかしその後、いつのころからか心房細動という質の良くない不整脈になってしまっていた。
今回は主治医から、「脳梗塞のリスクが高いので、今のうちに治療しておかれたら?」との忠告を受け、決断したのだった。
アブレーション術というカテーテルによる手術。その専門医からは「あなたのは慢性ですので一度の手術では治らないと思います。じっくりと取り組みましょう」と。
その一度目が10月。
入院手続きの折り一人部屋を希望した。第二希望として二人部屋。というのも二年前の救急車による入院では四人部屋だった。それはそれで周りの人の人生模様が見られて非常に興味深かったのだが、少し困ったこともあって今回は一人部屋をと。
入院当日、「申し訳ありません。一人部屋はふさがってしまって」と言われ、あちゃ、それじゃあ二人部屋かと思った。ところが、「空いてるのが特別室しかありません」と。うわっ、それ高いのでは?と思ったら、「お申し込みの部屋の金額で」と。これはラッキーだった。
案内された部屋は広々としていて、バス・シャワー・トイレ室も完備。デスクに応接セット、洗面所と至れり尽くせり。テレビもカードなんて要らない。まるで知事、市長さんクラスが利用するような部屋。壁には小磯良平の絵画までかかっていて、思わず「本物か?」と額の裏を調べてしまった。わたしは貧乏根性です。
ということで一回目の入院は貴族気分での一週間だった。
そして二回目が12月。これで仕上げというわけだが、三回以上の施術を必要とする場合もあるとのことで多少の不安を抱えての入院。
今回も第一希望は一人部屋。もしかしたら、この前のようにビップルームに入れないかな?と思って行くと、「一人部屋がただいまいっぱいで」と。ほら来た、と思ったが、「第二希望の二人部屋に」とのこと。そんなにうまくいくわけがない。
案内されて行くと、隣のベッドはまだ空いている、と思ううちに入ってこられた。
二人部屋の相方はどんな人かが気になる。ということで、偵察がてらご挨拶に。するとその人、O形さんは明るい感じの如才ない人だった。年齢はわたしより六歳下。話しやすいのだ。すぐに気が合って仲良くなり、カーテン越しにおしゃべり三昧。これは四人部屋ではかなわないこと。二人部屋ならではである。だれに遠慮も要らない。
ということでわたしは妻に電話して、拙著『完本コーヒーカップの耳』を氏に進呈するため届けてもらった。
あ、書き忘れてましたが、昨今のコロナ騒動で入院中の面会はすべて禁止。家族でさえも直接会うことができず、洗濯物など物のやりとりも看護師さんを通してであった。
氏、喜んでくださった。パラパラと読みながら、その内容が話題になったりと。
すると今度は氏から一冊の本をいただいた。『ホセ・ムヒカの言葉』(双葉社刊)。
ホセ・ムヒカとは、ウルグアイの元大統領で、世界一貧しい大統領といわれた人。2012年、リオ会議でのスピーチが世界中で話題になり、日本でもテレビで紹介されてわたしも気になっていたのだった。この本は、そのホセ氏が世界各地で行ったスピーチなどから感動的な言葉を集め、解説したもの。
そのような感動的な話ではないが、こんな箇所がある。

《(略)アメリカの記者が、ムヒカのことを“ラテ  ンアメリカのネルソン・マンデラ”と呼ぶと、彼は  クスクス笑ってから言った。「いえ、彼は刑務所  の中で28年も過ごしたんですよ。でも、わたし  はたったの14年」。》

表紙の人懐こい笑顔からは想像できない過酷な刑務所暮らしを経験した人なのだった。
読んで感じたのは、今の人類にとって大切な人ということ。「日本にもこんな人欲しいですね」とO形さんに言うと、「日本の政治家に、彼の足の爪の垢を煎じて飲ませたい」と。

二人部屋、思いがけず楽しいものだった。

(実寸タテ16·5㎝ × ヨコ5·5㎝)

■六車明峰(むぐるま・めいほう)

一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。

■今村欣史(いまむら・きんじ)

一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。

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