2月号
JR三ノ宮駅前の賑わい創出
〜民間団体との取り組みで見えた新たなかたち〜
JR三ノ宮駅周辺の再開発に待ったをかけた新型コロナウィルス。新ビル建設は計画の見直しを迫られ、予定地はぽっかりと空いた。この一等地を舞台に「地域の未来のためのサスティナブルな実験空間」として、動き出したのが「Street Table 三ノ宮」だ。地域団体と共に前例のない挑戦を試みたJR西日本の担当者に経緯と寄せる期待をお聞きした。
震災から26年、新たなステージへ
―震災から26年という節目、神戸の現状をどのように感じておられますか?
平瀬 震災時は、福岡で新幹線の業務に携わっていたのですが、時間と共に伝わる惨状に驚くばかりでした。当時の神戸を直接目にすることはなかったのですが、ここまで復興したことに、神戸市の方々はもちろん市民のみなさんの努力やご苦労に、頭が下がる思いでいっぱいです。人口や神戸港での取扱量など、震災前の水準にほぼ戻っている事を思えば、都市機能の復興という面では、一定の成果を果たしていると見ています。反面、「魅力あるまちづくり」や「活気あるまちづくり」という点では、まだまだ課題が残っているように感じています。
西村 私は大阪から出てきて3年目ですが、地域共生担当として接する人たちから、神戸への愛着や熱い思いを日々感じています。震災から復興してきた町の力強さでしょうか。知るうちにどんどん好きになっていく町です。
―Street Table 三ノ宮が始まりました。どのような経緯だったのでしょうか。
平瀬 三宮ターミナルビルの解体工事が、ほぼ終わるところでのコロナ。正直、JR西日本としても経営的に非常に厳しい状況です。新駅ビルの計画は、周辺事業との兼ね合いも含め見直しを迫られ、駅前の一等地が半年以上も空くことになりました。また、支社だけではなく会社全体として、神戸市や周辺事業者らで取り組む「えき≈まち空間」のニーズに合致した何かをできないかという機運が高まっていましたので、スモールスケールでの実証実験に取り組むことになりました。
そこで、東遊園地などの空間作りや場作りに実績があるLCI(一般社団法人リバブルシティイニシアティブ)様にお声がけをしたのがきっかけです。地元の団体に中心となっていただき、場作りを進めていくというのは、弊社の中でも、特に駅前の一等地では事例がない取り組みでした。
西村 三宮エリアに憩いの空間が不足しているという認識は、以前からありましたし「みんなが集って愛情を持てる場所を作っていこう」というLCI様の思いに共感し、一緒に良いものを作りましょうと。JRとして、その思いを形にするため、どうすれば実現できるかを考えながら進めてきました。
平瀬 堅いところがある会社なので、自分たちだけでは決してできなかった、おもしろい場所になっています。
―第一期と第二期、段階的に進めていると聞きましたが。
西村 神戸らしい食事と音楽が楽しめる場所ですが、コンセプトとして「いろんな人に愛着を持っていただける空間になりたい」というのがあります。第一期は、昨年12月中にプレスメイキングウイークとして、市民参加を呼びかけるコンテンツを用意し、会場作りから始めました。舞台をはじめテーブルやイス、音響設備など、寄付や再利用品、図面からの手作りなど、業種の垣根を超えた多くの市民の皆様に協力をいただいています。私も舞台やテーブルになる木材をヤスリで磨く作業などに参加しました。都市の只中にいながら、山で作業しているかのような貴重な体験でした。
1月からの本格始動でも多くの方に参加して頂けるようなコンテンツを計画しつつ、3月後半から第二期として、よりバージョンアップしたことをやりたいと考えています。詳しいことは、コロナウィルスの影響などを考慮しながら、検討をしていきます。
Street Table 三ノ宮がもたらす可能性
―Street Table 三ノ宮に寄せる期待をお聞かせください。
西村 神戸に住んでいてよかった、やっぱり神戸は良いところだと感じていただける場所になればと。神戸に訪れた人にとっても、三ノ宮駅に着いてすぐに神戸の魅力に触れ合える場になっています。このアットホームな空間は、そこにいるだけで心が安まり、温かい気持ちになれる場所として位置づけできると思っています。
平瀬 今後、神戸市との駅ビル計画でも、駅前空間全体をどうしていくかという検討課題があります。次のステップに向けての大きな期待があり、今回の実績が次につながると考えています。
―新駅ビルは、神戸の町にとってどうありたいとお考えでしょうか。
西村 神戸らしさが感じられる駅でありたいと思います。神戸には、いいところがたくさんあるにもかかわらず、その玄関口としては、まだまだ足りないと感じています。三ノ宮駅に降りれば神戸の良さが伝わってくるようなエリアにしていきたいです。
平瀬 人が集まってくる魅力あるまちづくりが課題と思っています。鉄道事業者として三ノ宮駅という玄関口には、駅を核とした周辺の町との結びつきが大切です。特に神戸は、海や山があり多様性に富んだ文化や歴史など、ポテンシャルの高い町です。駅ビル計画は、もう一度見直しながら進めることになりましたが、沿線駅や百貨店、周辺事業者らと一緒に精いっぱいできることをやらせていただきたい。今回、Street Table 三ノ宮で得られた実績は大きく、これを活かし、神戸の活性化にお力添えできればと思っています。