2021年
2月号
2月号
神戸で始まって 神戸で終る ⑬
5年ばかり住みなれた神戸を離れて、東京に移ることになったが、この5年間の神戸時代を、この辺で、もう一度回想してみたい。郷里の西脇高校を出て、神戸新聞社に入社したのが1956年、20才の時。23歳でグラフィックデザイナーの登竜門である日宣美に入賞、会員に推挙。ここまではまだアマチュア的なデザイナーで、これといった野望も野心もない、その日が楽しければ、それで充分満足している、やや極楽トンボ的などこにでもいる呑気な若者のひとりだった。まだ20才の新入社員でありながら、何故か事業部の催事関係の重要なポスターのデザインをまかされることになったが、社内には先輩や同僚の優秀なデザイナーが何人もいるというのに、この田舎言葉が抜け切れない高卒の若者になぜ花形デザインであるポスターの仕事を与えられたのかは、どう考えてもわからなかった。幸運の女神に愛されたとしかいいようがないが、他の社内のデザイナーのように専門学校の経歴もなく、また年季の入ったキャリアーのあるデザイナーがゴロゴロいるというのに、「なぜ?」と考えても明解な答えは出せなかった。運がよかったとしかいいようがない。しかも、神戸でNO.1という灘本唯人さんが高く評価してくれて、神戸のデザイナー集団の中でも最前線に押し上げてくれた。
美術家 横尾 忠則
プロフィール
よこおただのり 美術家。 1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、小説「ぶるうらんど」で泉鏡花文学賞、「言葉を離れる」で講談社エッセイ賞受賞。愛知県美術館にて「GENKYO 横尾忠則」展を開催。(4月11日まで)
http://www.tadanoriyokoo.com