9月号
「自分らしく」を叶える ビスポークシューズの夢|La Rificolona
紳士服と婦人服と分かれているように、洋装アイテムのほとんどは男女別に発展してきた。体型や用途が異なるからそれに合ったデザインや製法が求められてきたのだろうが、異性へのアピールという役割も大きなポイントだったに違いない。男性は雄々しく格好良く、女性は艶やかに美しく。つまり男らしく、女らしく…。
しかし、いまファッションに求められているのは「自分らしく」だ。靴も紳士靴・婦人靴と分かれているが、その壁を軽やかに乗り越え自分らしさを叶えてくれる靴工房が神戸に誕生した。
「こだわらぬ」こだわり
昭和なビルの階段を上り詰めると、「La Rificolona」はあった。ナチュラルな雰囲気とアンティークの家具にギャラリーかと見紛うが、木型や工具が整然と並んでいる。
笑顔で迎えてくれたのは、中田吐夢さん、真弓さん夫妻。二人ともイタリアで研鑽を積んだ新進気鋭の靴職人だ。
一番の魅力は、こだわらないことへのこだわりだ。ビスポークシューズの工房では伝統の製法を重んじ、手で一針一針縫う昔ながらのハンドソーンウェルテッドで製造しているところが多い。「糸が解け難いなど手縫いの良さはありますが、予算やデザインなどお客様の要望に応じて機械縫いも臨機応変に対応しています。お客様が似合うのが前提ですが、用意しているサンプル以外でも希望のデザインを自由にカタチにします。お客様から教わる事も多いですし、作り手の押し付けはしたくないので」と吐夢さん。
もちろんハンドソーンウェルテッドも可能だが、道は一つではない。イタリアで主流のマッケイ、ノルウィージャン、袋状に縫うボロネーゼなど8種類の製法を繰り出し、パンプスからトレッキングブーツまで守備範囲が広い。
甲の素材も皮革にこだわらず、布のオーダーもOK。実際にファッションブランドSINA SUIENの有本ゆみこさんとコラボし、その靴を雑誌「Kurashi」にて女優の山口智子さんが着用した。製法も素材も多彩だから可能性は無限に。
メンズとレディスという区別にもこだわらず、基本的にユニセックス。夫婦や恋人で服のペアルックは気恥ずかしいが、靴ならさり気ないからむしろセンスの良さが煌めきそうだ。
何足も、いつまでも
そしてもう一つの魅力はコスパ。自由なカスタマイズと確かな品質を兼ね備えながら、パターンオーダーで製法を工夫すれば10万円以下でも手に入る。「特に女性は何足も持っていたいですよね。何足もある方がローテーションで履けるので靴を休ませ長持ちする事ができますから。高いとそうはいきませんから」と、吐夢さんは顧客目線を忘れない。
一方でフィッティングにも抜かりはない。人によって足の大きさも形も違う。さらに言えば同じ人でも左右で差がある。それぞれの足にぴたりと合いつつも、見た目も同じにすべきという相矛盾した条件を満たす訳だが、丹念な調整を重ねてそれを実現。足と一体化するような快適な履き心地は、既製品では味わえない。より完璧なフィットを目指すなら、自分だけの木型を。費用はややかさむが一度つくると一生もので、さまざまな靴に対応可能だ。
吐夢さんは底付師で、真弓さんは甲革師とある程度の役割分担はあるが、デザインを一緒に考えるなど共同作業で仕上げていく。また、長く愛用し続けてほしいと修理や再調整などフォローも的確に。真弓さんはイタリア時代に修理工房での勤務経験もあり、数多くの無理難題を解決してきたという。
時を重ねるとともに味わいを増し、長く愛用できる自分だけのための一足。誂える喜びや楽しさをここで味わおう。
フィレンツェに学ぶ
吐夢さんは徳島、真弓さんは神戸出身で、子どもの頃から絵やクラフトが好きだった二人は神戸芸術工科大学のキャンパスで出会い、やがて結婚。吐夢さんは自転車輸入業のデザイナーとして腕を振るい、真弓さんも会社で働きながらぬいぐるみ作家として活動(本誌2007年2月号で紹介)してきたが、共通の趣味として一緒に靴づくりを学びはじめたらその面白さ、奥深さの虜になってしまったという。人生は一度きり。ならばこれを一生の仕事にと本格的に靴づくりの世界へ飛び込む覚悟を決めるが、ここで大阪とイタリアという2つの選択肢が浮かび上がる。
選んだのは大胆にも、海の向こうの未知の世界。不安も大きかったが、一緒ならば何とかなると2013年、おしどりの翼はフィレンツェへ翔んだ。語学からスタートし、日常会話はもちろん、靴の専門用語も必死に覚えた。やがて靴の専門学校へ通いしっかりと技術を学び、基礎を一通り会得したらこんどは修行と実践だ。
「働かせてほしい」と掛け合ったのは、フィレンツェでも大御所の靴職人、シニョーレ・カロジェロ・マンニーナ氏。誰もが「親方」と敬う彼は、二人でつくったスクエア型のトレッキングブーツに見入り、「この靴をここでつくりなさい」とインターンとして契約、さらにその後職人として給料を頂けることに。残念ながら彼はその後逝去、二人は〝マンニーナ最後の弟子〟となった。
ヴェッキィオ橋にほど近い老舗の工房で2年間、昼も夜もなく働いた二人は引き留められたが帰国・独立を決意。「でも資金がなかったので」とまずは吐夢さんの祖父が住んでいた家を工房に改築、徳島のあふれる自然の中で3年間腕を振るい、そしてこの春念願叶って故郷の神戸へ。
店名はフィレンツェで千年以上続く華やかな祭の名にちなむという。イタリアや徳島での暮らしを通じさまざまな文化を吸収した吐夢さん・真弓さんは、左右の靴のように揃って一足。仲睦まじい夫婦が〝履き倒れ〟の街で、何気ない日常をハレの日に変えるビスポークに愛情と情熱を注ぐ。
La Rificolona
神戸市中央区多聞通1-3-5 3階F室
TEL/070-4100-5480
e–mail/10601tom@gmail.com
www.instagram.com/la_rificolona/
9:00~18:00 不定休
※要予約