2020年
8月号
8月号
ノースウッズに魅せられて Vol.13
サンダーバード
ある夜、寝袋にくるまって湖畔の野営地で眠っていると、眩しい光と、激しい雷鳴に叩き起こされた。
テントの外は星ひとつ見えない漆黒の闇。雷を伴った嵐が、対岸を横切るように移動していく。雨が降る気配はなかったが、空を引き裂くような稲妻が次々と走り、遠くの森へ落ちていった。
ノースウッズで幾世代にもわたって狩猟採集の暮らしを営んできた先住民アニシナベの人々。彼らは、サンダーバードという巨大な鳥の姿をしたマニトゥ(精霊)が、雷雨を引き起こすと考えてきた。
分厚い雲の向こうで翼を打ち鳴らせば、雷が轟き、強風が巻き起こる。瞬きをすれば、その瞳から稲妻がほとばしり、森を焼き払うのだという。
しかし、雷による森林火災は、ただの破壊ではない。むしろ、生態系を健康に保ち、人間の暮らしを守るためにも必要な自然現象である。
例えばブルーベリーは、日当たりの良くなった焼け野でこそ、たくさんの実をつける。新しく芽吹いた草や木々の葉は、獲物となる水鳥やムースを育んでくれる。そしてカンジキウサギは、樹木が密生して隠れやすい若い森を好む。
もちろん、苔むした古い森を必要とする生き物もいる。豊かな森とは、様々な年齢の森が、バランスよく混在する森のことなのである。
写真家 大竹英洋 (神戸市在住)
北米の湖水地方「ノースウッズ」をフィールドに、人と自然とのつながりを撮影。主な写真絵本に『ノースウッズの森で』(福音館書店)。『そして、ぼくは旅に出た。』(あすなろ書房)で梅棹忠夫山と探検文学賞受賞。2020年2月、これまでの撮影20年の集大成となる写真集『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス)を刊行した。