7月号
<追悼>「洋菓子業界のカリスマ 比屋根毅さんを偲ぶ」
兵庫県洋菓子協会会長 福原 敏晃
6月4日、兵庫県洋菓子協会の名誉顧問・比屋根毅さんが82歳で亡くなられました。比屋根名誉顧問は、ご自身も洋菓子職人であると同時に、アンテノール、ヴィタメールなど人気ブランドを有する株式会社エーデルワイスを創業、一代で興してこられた経営者でもあります。
すばらしいお弟子さんも多数育ててこられ、カリスマ性があり、業界での影響力、求心力は計り知れないものがありました。比屋根名誉顧問を失ったことは、兵庫県洋菓子協会のみならず、日本の洋菓子業界にとっても大きな損失です。残念でなりません。
比屋根名誉顧問は沖縄県の石垣島のお生まれで、大阪で修業をへて1966年に尼崎市立花でエーデルワイスを創業されました。阪神・淡路大震災前は大阪府洋菓子協会の副理事長もされていたのですが、震災の後、兵庫・神戸の洋菓子業界をいわば助けていただくために兵庫県洋菓子協会にご加入いただきました。当時、大阪の洋菓子業界の重鎮でおられたのに、兵庫県に来られた際は「理事の末席で汗をかかせてください」とおっしゃったことを、今でも覚えています。
平成14年から28年までの14年間、兵庫県洋菓子協会の会長としてさまざまなことにご尽力いただきました。まず、海外に洋菓子の研修生を送る「海外研修制度」を新たに創設されました。毎年ベルギーに研修生を送られているエーデルワイスさんとともに兵庫県洋菓子協会からも研修生を送らせていただくことになったのですが、これは比屋根名誉顧問が海外修業のルートをお持ちだったから実現したことです。また平成17年には、兵庫県洋菓子協会の会員数が1,349名と東京を抜いて全国1位になりました。
平成20年に、姫路市で行われた「第25回全国菓子大博覧会」では、兵庫県、姫路市、兵庫県菓子工業組合のみなさんとともに多くのイベントを盛り上げました。結果、入場者数、収益ともに大幅に増え、これまでにないほどの記録となりました。翌年、世界的な洋菓子のコンクール「世界パティスリー2009」が東京で行われました。日本で初めて行われた世界大会で、日本が優勝したのですが、これも比屋根名誉顧問のご尽力が大きかったからです。兵庫県洋菓子協会65年記念史を私が編集委員長として作らせていただいた際には、「すべての高校の図書館に置きたい」という私の願いを、「洋菓子業界の発展、人材育成のためになるなら」とご快諾いただきました。
現在、比屋根名誉顧問のもとで修行した多くのお弟子さんたちが、独立して活躍をされています。比屋根名誉顧問は、厳しい面もたくさんありましたが、多くのお弟子さんに愛情をもって育ててこられました。お弟子さんたちも、卓越した技術を持つ職人でありながら、経営者としても成功しているのは、比屋根さんの背中を見て育ったからだと思います。
近年では、数百年前の洋菓子作りの器具や書物など私財を投じて収集され、現在は尼崎にあるエーデルワイス本社内に洋菓子ミュージアムとして展示されています。「洋菓子のまち神戸に、それらのコレクションを集めた洋菓子ミュージアムを創り、人材育成に努めたい」というのが比屋根名誉顧問の最後の願いでした。その願いは我々がぜひ継承していかねばならないと考えています。