2020年
5月号
5月号
珈琲飲みながら……「昔の神戸ほど素晴らしい所はなかったネ。」|野坂 昭如 さん (作家)|月刊神戸っ子 アーカイブ集
昔の神戸は山、川、海、そしてハイカラな町
神戸ってのは昔は本当によかったんですよ。まぁ、全く僕の郷愁にすぎないんだけどもね。僕は灘区にいたから、ちょっと歩けば山に入っちゃうし、反対にちょっと行けば海に出ちゃう。山へ行けばヘビだとかがいるし、川へ入って石をこう、上げると、カニがいっぱいいる。海は本当の海。真っ白な砂浜があって、魚も釣れるし、ヨットもボートもいくらでも乗れるしね。向こうの方に神戸商大、今の神戸大学経済学部だけど、あすこの連中のヨットが走ってて、僕らはそれを見ながら泳いで、上がって来ると、甘酒屋で甘酒飲んで。
それでいて、阪神でも阪急でも、電車で5分か10分くらい行けば、今度は当時の日本の最先端を行く文物があるわけね。トア・ロードなんて今どころじゃないですよ。もっと豪華だった。で、元町があって。三宮から大丸の方へ来る市電の角に、ユーハイムがあって。元町の裏側が南京町で、中華料理の美味しい店があった。今のグルメなんていうのじゃなくて、レストランにしても本当に美味しい店が多かった。今も“ハイウエイ”とかありますけどね。山手の方へ行けば、父親が友達である外国人の家がたくさんあって、今、風見鶏の館がどうとか言われるけど、あんな所には年中行ってたね。
1988年6月号