5月号
年々増える膵がん 早期発見で予後の悪さを 克服できます
神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座 消化器内科分野
教授 児玉 裕三 さん
助教 塩見 英之 さん
り患者数が年々増えている膵がんは、がんの中でも最も予後が悪いといわれています。特徴的な自覚症状がない上に、一般的な検診では見つけにくく手遅れになっているケースが多いと、専門の先生方は警鐘を鳴らしています。
胃痛や腰痛と思い込みがん検診でもスルーされ
―膵臓はどういう働きをする臓器ですか。
児玉 膵臓は胃の後ろ、背中側にあり、食べたものが胃で消化されて十二指腸に入ってくるタイミングで、いくつもの消化酵素を含む膵液を分泌します。また、主にインスリンというホルモンを作って血液へと分泌しています。
―膵がんの患者さんは多いのですか。
児玉 私たちが医者になった二十数年前には膵がんの患者さんを診ることは少なかったのですが、胃がんはピロリ菌、肝がんはウイルスが原因と分かって減少してきた一方で、膵がんは年々増えてきています。死亡者数はがん全体の中で4位。皆さんも記憶に新しいと思いますが、星野仙一監督や千代の富士関、八千草薫さんが膵がんで亡くなっています。アメリカでは死亡者数が2030年までに2位になるだろうといわれ、日本でもいずれそういうときが来ると考えられます。
―増えてきた理由は。膵がんの原因は。
児玉 理由は一つではなく、食生活や環境の変化など、さまざまな要因が重なっていると思います。原因も限定はできませんが、糖尿病や肥満、喫煙や大量の飲酒、親族に膵がんがいる場合などはリスクが高く、注意が必要です。
―自覚症状にはどんな特徴があるのですか。
塩見 ほとんど自覚症状がないのが特徴です。強いて言うなら、腹痛や腰痛。膵臓はみぞおちあたりにあるため、胃の痛みだと思い胃カメラの検査を受け、「異常はない」と言われるケースが多いようです。胃薬を飲んでも痛みが治まらず、大学病院に紹介され、CT検査などの詳しい検査を行なって、進行した膵がんが見つかり治療を始めることになります。胃薬が効かないというときは膵臓の異常を疑ってみる必要はあるかもしれません。また背骨の近くにある膵がんが神経へ浸潤し、腰辺りに重苦しい鈍痛が続き、実は腰痛ではなく膵がんだったというケースもあります。初期の段階ではスルーされてしまうのが膵がんの特徴です。
―一般的ながん検診では見つけられないのですか。
塩見 血液検査で腫瘍マーカーの値が高くなった時点では既に進行している状態が多いです。また腹部超音波検査は簡便な検査ですが、膵臓の前にある胃の中の空気が邪魔をして大きなものは見つけられたとしても小さなものはなかなか見つかりません。CT検査も、造影剤を使用し、かなり薄い撮影方法でなければ小さなものは、やはりスルーされてしまいます。
初期の段階で見つければ5年生存率はグッと高まる
―発見して治療すれば完治するのですか。
児玉 困ったことに、膵がんの5年生存率は全てのがんの中で最も低く約10%と言われてます。つまり、り患した人のほとんどが5年以内に亡くなってしまうということです。しかし、腫瘍が10ミリ以下で見つかれば約80%、20ミリ以下であれば約50%の5年生存率となります。つまり私たちが、お伝えしたいのは、腫瘍が小さい段階で発見できれば命が助かる可能性が、他のがんと同じだということです。
―がん検診ではスルー。どうすればいいのでしょうか。
児玉 疑わしい患者さん全ての精密検査ができればいいのですが、残念ながらシステムが十分に整っていないのが現状です。たとえ5ミリの小さながんでも私たちの施設では診断できます。そこで、「膵がん精密検診」コースを設立し、希望される方に受けていただくことにしました。
―一般のがん検診とはどう違うのですか。
塩見 小さな膵がんを見つけるのに役立つのが「超音波内視鏡検査」です。従来の胃カメラの先端に超音波装置を備えていて、体外からの腹部超音波検査では見にくい膵臓を、胃の内部から観察しようという検査です。胃カメラとほぼ同じ検査ですから安全性が高く、麻酔をしますのでほとんど苦しくなく、同時に胃の検査も可能です。膵がん精密検診コースではこの超音波内視鏡検査を行います。1日コースではさらにMRI検査、2日コースではPET︲MRI検査の組み合わせで、より詳しく膵臓を検査することができます。
児玉 膵がんは、り患者数がそれほど多いがんではありませんから、精密検査を受けて次々見つかるというものではないと思います。精密検診で、膵がんにつながる可能性が高い慢性膵炎や膵のう胞などの異常を発見できれば、がんを予防できますし、何も異常がなければ安心です。例えば検診で大腸がんや乳がんの疑いがあれば、精密検査を受けます。一般的なこういった流れを、将来的には膵臓についても作りたいと動き始めています。今のところは、膵臓に不安を抱えておられるのならまず膵がん精密検診を受けていただくことをお勧めします。
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