9月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第九回
予防接種~ インフルエンザにそなえて
渡辺 志伸 先生
兵庫県医師会理事
渡辺内科小児科クリニック院長
─今年の冬もインフルエンザには注意が必要なのでしょうか。
渡辺 2009年から流行していたいわゆる「新型インフルエンザ」は、厚生労働省により今年4月から通常の季節性のインフルエンザと同様に取り扱うことになりました。しかし、インフルエンザは伝染性が高く、毎年のように1~2月を中心として冬に流行し、社会活動にも影響を与えます。しかも、インフルエンザは普通の風邪と違い、38℃以上の高熱やせき、のどの痛み、全身の倦怠感や関節の痛みなど全身症状があり、重症化すると生命に関わる病気なので注意が必要です。
特に65歳以上の高齢者、乳幼児、妊婦、呼吸器系・循環器系に慢性疾患を持つ方や糖尿病患者などはインフルエンザにかかると入院を必要とするような重症化、さらには死亡する危険が高くなります。このような方々をハイリスク群とよびますが、高齢化が進んだ現在、高齢者を中心としたハイリスク群の健康被害を減らすことがインフルエンザ対策の大きな課題になっています。
─インフルエンザの予防にあたり、ワクチン接種はどのような効果があるのでしょうか。
渡辺 今冬のインフルエンザワクチンには、A/H3N2(A香港型)、A/H1N1pdm(ブタ由来インフルエンザ)、B型の3種類の抗原成分が入っていますので、どの型が流行してもほぼ対応できるようになっています。インフルエンザにかかりにくくすることはもちろんですが、ワクチンの効果として最も重要なのは、特にハイリスク群の重症化を防ぐことにあります。
─インフルエンザワクチンの副作用について危険はありませんか。
渡辺 昨年度の推定接種者は最大で2283万人と考えられています。その中で副反応報告は推定接種者の0.01%、そのうち重篤な症例は0.002%と計算されています。この結果は概ね前回と同様です。効果と副作用のリスクを比較すると、特にハイリスク群の方は接種するべきではないかと思います。
また、学童に関しては接種しなければ学校で感染が拡大し、全国的な大流行を引き起こす要因となるので、流行を防ぐためにもワクチン接種は効果的です。現在、学校での予防接種は基本的に集団接種ではなく、一人ひとりの健康状態がよくわかっているかかりつけ医による個別接種となっています。副作用を防ぐために、体調をみながら一人ずつ診断していねいに接種をおこなっています。
─ワクチン接種にあたり注意すべきことはありますか。
渡辺 37.5度以上の熱がある人、急性の病気にかかっている人、当該予防接種の成分によってアレルギーをおこしたことがある人は接種不適当者になります。また喘息をもっておられる方や、重い基礎疾患をお持ちの型は慎重に判断していただきたいですね。現在日本のインフルエンザワクチンは、微量ですが卵由来の成分が残存していますので、卵アレルギーの人はワクチン接種を避けるか、注意して接種する必要がありますので必ず医師に相談してください。
─ワクチンは接種後どれくらいたてば効果が出ますか。
渡辺 インフルエンザウイルスに対する抗体ができるのには、接種してから2~4週間ほどの時間がかかります。また、効果の継続は接種後4~5ヶ月です。流行の時期は年によって違いますが、インフルエンザは年明けないし年末に流行することが多いので、10月から11月にかけて接種をおこなえば効果的です。また、13歳未満の子どもは1回の接種では十分に免疫がつかないので、2回受けるようにしましょう。
─ワクチンを接種すればそれだけで予防は十分なのでしょうか。
渡辺 前述のとおり、ワクチン接種で一番期待される効果は重症化を防ぐことです。ワクチンを接種すればインフルエンザにかかりにくくはなりますが、100%インフルエンザにかからないとは限りません。予防接種を受けたからといって油断せずに、普段からマスク、手洗い、うがいなどの予防対策を怠らないようにしましょう。栄養と睡眠をしっかり取って、抵抗力を高めておくことも予防の効果があります。
万が一インフルエンザの症状が出た場合はすみやかに医師の診察を受けるとともに、感染拡大を防ぐためにマスクを着用し、せきやくしゃみをするときはほかの人から顔をそらせ、ティッシュなどで口と鼻を覆うなど「せきエチケット」をしっかり守り、ほかの人にうつさないように注意しましょう。
渡辺 志伸 先生
兵庫県医師会理事
渡辺内科小児科クリニック院長