11月号
「神戸で落語を楽しむ」シリーズ 昔のことを大切に、新しいことへ挑戦
落語家 林家 染雀 さん
染丸の弟子になるために
生まれてきたんです
─落語に興味を持ちだしたのはいつですか?
高校生の時、八尾から吹田まで一時間半ほどかけて通っていて、友達とワイワイ帰っても一人になる時間が長くて、本をよく読んでいたんです。たまたま『米朝落語全集』を読んで「面白いなぁ、一回見てみよかな」と思ったのが高三の時です。当時は雑誌の懸賞に招待券が多くあって、ハガキを送ったら全部当ってタダで行けたんです。
笑福亭仁鶴師匠が中トリで笑福亭松鶴師匠(六代目)がトリ、桂枝雀師匠が中トリで桂米朝師匠がトリとか、おもしろい寄席を安く見られたんですよ。そんな時に四代目林家染丸(当時は染二)を見たんです。ビビビッときたっていうか。「この人の弟子になるために自分は生まれてきたんだ」って、その時に思ったんですよ。
─それで弟子入りですか?
いやいや。「大学行かんと噺家なろかな」みたいなことを友達に話すと「受験から逃げている」とか言われて、それやったら噺家になるための勉強ができる大学へ行こうと決めて。でも、師匠の追っかけをやっていましたから浪人することになったんですけど。
浪人中は、親に図書館で勉強して帰るからとかウソついて落語会に行ってました。一浪の時に行った落語会は全て記録していて、100回は行ってます。「今日はこれを見た」と克明に感想を書いていましてね。もう一回浪人することになったんですけど。この18、19歳の頃に見たものが血肉になっていると思います。
─大学では落研に?
入りませんでした。大阪大学だったので落研は盛んで、公演は観に行ったことはありました。入ると大阪出身でない人の変なアクセントの上方落語を聞かなあかんでしょ(笑)。プロになるから変なくせをつけないようにしたんです。その代わり学部では演劇音楽学を専攻して、自分の好きなことを思いっきりしていました。
仲間には宝塚が好きだとか、シェイクスピアが好き、歌舞伎が好きとか、みんなが違うことに興味を持っていたので色んな情報交換ができるんです。あのドラマよかったぞとか、こないだの文楽どうやったとか。大学時代に見聞きしたエキスパートとの交流は、今となってはよかったですね。
─師匠との出会いを聞かせてください。
大学の卒業論文のテーマを「落語に関するお囃子」にしたんです。師匠は、三味線も弾くし、鳴り物も堪能でお囃子についての研究書をいっぱい書いていまして。取材で何回か行かせてもらったんです。教えるのが好きな人やから、気さくに接してくれて。その時に「君は卒業してどうするつもり?」と聞かれたんです。
本当は「弟子にして下さい」と言いたかったのに「いや〜」とか、はぐらかして。卒業して四月一日に、師匠のところにお願いに行ってお許しを得たんですけど、「来るやろなとおもてた」と。追っかけしてましたし「いっつもな。白いワイシャツ着てな。黒いズボンはいたやつが隅の方にいてな」って「お前がおったんは知ってた」と言われました。
踊りに鳴り物、マルチに活動
─彦八まつりの住よし踊りなど多才ですね。
生國魂神社の境内で開催される「彦八まつり」も2020年で30周年です。第2回目の実行委員長は師匠で、自分の色を出した目玉をやろうと始めたのが住よし踊り。僕がちょうど入門させてもらった時で師匠に教えてもらい、体調を崩されてからは有志で引き継いでます。
寄席のお囃子は、太鼓は我々噺家の担当で、三味線は女性のみがそれ専門に受け持ちます。上方落語は「ハメモノ」といって落語の中でお囃子が入るのですが、タイミングや速さが演者によって好みがあるんです。これってなかなか説明しにくいんで、師匠は自分で三味線を勉強して、こんな風にして欲しいと注文を出していました。そのうちに楽譜も独自に採譜して、資料としてまとめ、希望者に教え出しました。今は現役の人だけでも7人の三味線の弟子が喜楽館で演奏していますから、これは大きな業績だと思います。僕は師匠から三味線は習っていませんが、太鼓の薫陶は受けました。今は入りたての人に鳴り物教室を月に2回くらいやらせてもらっています。
そして、姉様キングス
─姉様キングス、結成20周年ですね。
桂あやめさんと1999年の彦八まつりの「落語をしない落語会」という色ものの会で、白粉を塗った芸者姿の音曲漫才をしたのが始まりです。昔の小唄や端唄、都々逸などですが、歌詞は時事的なもので時には過激にね。最近では見かけないスタイルですが、昔のことを大切にしながら、新しいことに挑戦しています。
一応僕は女装していますが、相方のあやめさんも含めて、男でも女でもない「芸者」という「生き物」になって、ジェンダーフリー&ボーダレスを目指しています。男女共同参画の仕事やイベントに呼ばれることも。海外へは「国境なき芸能団」という海外に住む日系人で日本に来たいけど来られない人へ日本の芸能を届けるボランティアに誘われ、何回か参加させてもらったこともあります。
─芸者姿に白塗り、誕生のいきさつは?
歌舞伎役者の先代・市川猿之助さん主催のワークショップで、女形をさせてもらったことがあるんです。それを見ていた知り合いの芸者さんが、同僚で辞める人があるからと、その人のカツラをくれたんです。でも、地金を僕の頭にあわせ直すのに15万円かかりまして。
その頃、あやめさんも無声映画の仕事が入って、漫画の『はいからさんが通る』のような大正ロマン風に日本髪のカツラで着物着てブーツを履いた格好で弁士をしたいと、知り合いにカツラ屋さんを紹介してもらい15万円で作ったものの、その仕事がなくなってしまって。使いもしない15万円のカツラが2つあるから、かぶって何かしようってなったんです。
テーマソングで始めたいとあやめさんから言われましてね。最近はほとんど無いでしょ。テレビは5分や6分でネタをやるんです。かしまし娘さんの「ウチら陽気なかしまし娘」は、あれだけで1分、終わりも入れたら2分くらいかかりますから。
今は違うものですが、浪花小唄の歌詞をアレンジして「島田かぶって白粉はけば、違うあなたと本当の私」で始めたんです。白く塗るのは仮面。見た目が変わり違う私になることで、普段言えない本音も言える。姉様キングスのテーマです。
─12月26日に喜楽館で「クリスマス夜会」がありますね。
前半は落語、後半は姉様キングスの音曲漫才と洋装に着替えてシャンソンショー。いろんなものを寄せ集めています。
過剰なサービスで吐くほど見せるのが信条で、「もうええねん、おなかいっぱいやねん」言うてるところに「これでもか!」とデザートバイキングが出てくるような内容です。天満天神繁昌亭では、ファミリーで訪れてくれる人も多いんです。中にはちょっと「大人な」内容もあるんですけどね。
今年は喜楽館だけのスペシャルゲストとして、ガリガリ君のCMソングなどを歌っているコミックバンド「ポカスカジャン」が出演します。リーダーはワハハ本舗の座長さんで、音楽的にもすばらしくオシャレな歌も歌いますし、面白いんです。
─最後に喜楽館へ来たことがない人へ。
「寄席って古典落語とかで難しいんやろ」と笑いのシャッターを閉めずに来てください。「今日なぁ喜楽館行ってきてん」「どうやった?」「おもしろかったぁ!」「どんな話やったん?」「…忘れた」って感じでいいんです。今日一日、芸人と一緒にいて楽しかったと思ってもらえたら、それが一番なので。芸者姿の白塗りで唄う二人も、たまにいますので。
神戸新開地・喜楽館
TEL.078-576-1218
新開地駅下車徒歩約2分
(新開地商店街本通りアーケード)