5月号
桂 吉弥の今も青春 【其の二十四】
バーベキューの話
四月の初めの日曜日、今度一年生になる娘を連れて近くの桜の名所まで写真撮影に出かけた。その場所では五年前にも息子の写真を撮っている。新しい制服を着てピカピカのランドセルを背負った娘と、六年生になる息子。満開の桜の下で何枚もカメラのシャッターをきった。「ああこのアングル、5年前と同じや同じや」「ほんま大きくなったなあ」と何度もつぶやきながら。
写真を撮り終わって帰ろうと歩いていると、お花見している皆さんがたくさん。お弁当を広げてる人も多いが、バーベキューを楽しんでる人たちもいてはる。ぼちぼちお昼の時間やし、せっかくの気候やし、「よし!うちもバーベキューやろか」ということになった。いつかこんなチャンスがくるだろうとバーベキューコンロに網、炭に着火剤に軍手に炭ばさみまで用意してある。途中のスーパーマーケットで肉や野菜など食材を買い込んだ。バーベキューセットと食材を入れたクーラーボックスをキャリーに乗せて歩く私は、これぞ日曜日のお父さん。それもかなりのアウトドア上級者という雰囲気を漂わせている。
さて到着、シートを広げて家族四人で座った。「よし火をつけようか」と炭をコンロに組み、着火材も用意して点火。しかし着火剤は勢いよく燃え上がるのだが、肝心の炭に火がつかない。「おかしいな、空気の通り道は十分確保してるから燃えない訳ないんやけど」と待つこと一時間、どんどん継ぎ足す着火剤が燃えきってしまっても炭には何の変化も生まれない。嫁さんが火がつかない時の為にと用意してくれたおにぎりと、火を通さなくても食べられる焼鳥を食べてしまうと子どもはキャッチボールをやりだした。隣のグループはじゅうじゅうと焼きそばを焼く美味しそうな音を出している。
結局開始から三時間、炭に火はつかなかった。とてつもない敗北感。
私は今年厄年なのに、何も焼くことが出来なかった・・・彼女が家に取りに帰ってくれたカセットコンロで、上にフライパンを乗せて肉やソーセージを焼いた。風で火力が安定しないので家族四人でカセットコンロを囲みながら。お湯もなかなか沸騰しなかったが、なんとか作った固めのカップラーメンでお腹を満たすことができた。「ごちそうさまでした」と片付けを始めたが、炭は冷たいままだったので楽チンだった。
冷静になって調べると、私が用意していた炭は『オガ炭』といって非常に着火しにくいらしい。名前にあるようにおがくずで出来ているがとても固く、真ん中に穴が開いている。火は無茶苦茶つきにくいが火持ちが良く、よく焼肉店で使われている。「点火しにくいので、火のつきやすいバーベキュー用の木炭を燃やすか薪を燃やして、その火の中に置いて点火してください」ってオガ炭の箱にも書いてあるやないか。そんなことも確認せずに意固地に三時間も火をつけようとしていたなんて。自分のうぬぼれと頑固さに呆れ果てた出来事だった。
もっと調べると、普通の炭でも調理出来るようになるまでに二時間は必要らしい。家族で一緒に行かずに、準備の為に二時間先に父ちゃんは現場に行くべしと書いてあった。
今度のバーベキューは私が二時間前に乗り込んで、見事に肉を焼いてみたいと思っている。いろいろ機転を利かせてくれた嫁さんにまずは熱々の上ロースなんぞを食べさせたい。
KATSURA KICHIYA
桂 吉弥 かつら きちや
昭和46年2月25日生まれ
平成6年11月桂吉朝に入門
平成19年NHK連続テレビ小説
「ちりとてちん」徒然亭草原役で出演
現在のレギュラー番組
NHKテレビ「生活笑百科」
土曜(隔週) 12:15〜12:38
MBSテレビ「ちちんぷいぷい」
水曜 14:55〜17:44
ABCラジオ「とびだせ!夕刊探検隊」
月曜 19:00〜19:30
ABCラジオ「征平.吉弥の土曜も全開!」
土曜 10:00〜12:15
平成21年度兵庫県芸術奨励賞