8月号
神戸鉄人伝 第80回 友定 聖雄(ともさだ まさお)さん
剪画・文
とみさわかよの
神戸芸術工科大学 芸術工学部 教授
友定 聖雄(ともさだ まさお)さん
光を浴びて輝く、不思議な形の透明な物体…近付くと、それが板状のガラスを重ねて作られているとわかります。使われているのは一般的な「積層ガラス」ですが、緻密に計算された精巧な細工は、ガラス工芸作家・友定聖雄さんによるものです。「まずラフを描き、原寸大の図面を描く。コンパスで寸法を取ってガラスを切り、特殊な接着剤で着けて研磨します」と手順を明かしてくださいましたが、誰にでもできる技ではありません。大学で教鞭を執りながら制作を続ける友定さんに、お話をうかがいました。
―なぜガラス工芸を手掛けるようになったのですか?
実家がガラス施工会社だったので、ガラスは一番身近な素材でした。ガラスを用いた作品作りを学びたかったのですが、当時の日本ではガラス工芸を教えてくれる学校もありませんでした。それで大学では染色を専攻し、卒業時にガラス工芸関係の企業を捜して、アメリカ系のフランチャイズ店に就職しました。ガラス工芸関連の材料販売の仕事を1年半程した後に、独立して工房を構えました。
―独立後はどんなお仕事を?
工房での仕事は建築に関連した依頼が多く、ステンドグラス、エッチンググラスなどを受注生産していました。これはお客様の要望を聞いて仕上げる、コミッション・ワークです。紆余曲折ありましたが工房の経営を続けながら、今は教員の仕事をメインに、美術展に出品するための自身の作品も制作しています。
―現代の造形表現や手法は様々ですが、工芸分野はいかがでしょうか。
やはり絵画などと同じで、伝統にこだわらない自由な表現が主流です。スプレーで彩色した花器を陶芸作品と呼んでいいかは疑問ですが。そしてフィギュアなどのサブカルチャーが今やメインに台頭してきており、教育現場でも彫刻ではなく「フィギュアを作りたい」という学生が多くいます。さらに3Dプリンターなどの、ハイテクによる作品も見過ごせません。パソコンは技法や表現を人間が議論するより速く、結果を出してしまう。ここ20年は、こういった問題が焙り出されてきた時代と言えるでしょう。
―この先はどうなっていくとお考えですか。
これほど新しい技法や価値観が席巻すると、反動で手作業に回帰するのではないかと思います。歴史的建造物の修復や復元が国家プロジェクトとして進められたり、伝統工芸が見直されたりするなど、その兆しが見えている。日本人は手先が器用と言われ、繊細な感性で懐の深い、優れた作品を生み出してきた。日本はぜひとも、伝統的な技法、奥の深い手技を強みにしていくべきです。
―確かに日本人が手作業で生み出す工芸品は、世界で高く評価されています。
20世紀は世界的にグローバル化が進みましたが、これからは改めて個別の国が個性を発揮する時代になっていくでしょう。日本人が手仕事を取り戻す時代に備えて、今は伝統的な工芸の手技を、細々とでもいいから次世代につないでおく必要があります。ただその前に、手作業を支える「道具」を作っている職人が減っていることに警鐘を鳴らしたい。日本の文化を守り伝えるためにも、工芸に関与する人たちが生活できるしくみを作る必要があると、常々感じています。
―これから、ご自身のお仕事としてはどんなことを?
これからも地道に作品制作、コミッションワーク、教職をやっていきます。自身の作品作りは、自分の中から出てくるもので制作するので苦しいこともありますが、楽しい仕事です。テーマを与えられて制作する受注制作もまた楽しく、ライフワークと言えます。大学の仕事はいろいろな人と関われる。これらをバランスよく続けて行ければ、理想的ですね。
(2016年6月11日取材)
広い視野で工芸界を見詰める友定さん。これからのお仕事の展開が楽しみです。
とみさわ かよの
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。