11月号
みんなの医療社会学 第二十三回
高齢者医療保険制度は改革されるのか
─現在の高齢者医療制度が成立した経緯を教えてください。
仲原 高齢者の医療保険制度は、昭和36年(1961)に国民皆保険制度の発足により、「防貧より救貧を」を中心思想として出発しました。高度経済成長にも支えられて制度は順調に進んでいたのですが、昭和48年(1973)に老人医療費の無料化が実現したのを契機に、以降、高齢化も進み老人医療費が急増することになります。治療の必要なく長期入院を続ける社会的入院などの弊害や国の財政悪化も重なり、昭和58年(1983)に老人保健法が制定されます。これにより高齢者の医療費一部負担がはじまり、「医療費亡国論」が提唱されて以降の医療保険行政は自己負担と給付制度の繰り返しという状況になってきました。平成9年(1997)に抜本改革の議論がはじまりますが、その2年後には老人保健の拠出金不払い運動などもおこり、平成12年(2000)に老人保険制度に代わる新たな制度の創設を謳います。新たな制度ではどのような方法が良いかさまざまな検討が重ねられますが、高齢者医療に関する制度設計には主に分離独立方式・突き抜け方式・年齢リスク構造調整方式、一元化方式の4つのパターン(図)があり、このうちどれにするかで大いにもめましたが結局は独立方式が選択され、平成20年(2008)に75歳以上を後期高齢者として分離独立する現在の高齢者医療制度が成立しました。
─現在の高齢者医療制度はなぜ批判を集めているのでしょうか。
仲原 高齢者側からは、75歳で線引きされ保険証も別になり、「後期高齢者」という名称も合わせて差別的であると批判されています。また、保険料を年金から天引きするという手法が反発を招いたことは記憶に新しいと思います。さらに、若い世代と比べて医療費の伸び率が高い高齢者医療費の増加に比例して、高齢者の負担量も増加するしくみも問題となっています。費用負担の面からは、それまで被用者保険の被保険者であった人も後期高齢者医療保険に移行するので、被用者保険における事業主負担がなくなるだけでなく、これまで保険料負担がなかった被扶養者にも保険料が発生するようになったことも問題として指摘されています。
─そのような批判を受けて、高齢者医療制度はどのように改革されるのでしょうか。
仲原 実はそれが、非常に問題なのです。民主党の平成21年(2009)とその翌年のマニフェストに「後期高齢者医療保険制度は廃止」「国民皆保険制度を守る」と明記されていますが、政権与党になって3年経った現在も全く改革は進んでいません。もともと民主党が考えていたのは、年齢による差別をやめるということなので、制度的に変えようということです。しかし、改革案は全く「改革」されておらず、具体性に欠け、「国民の信頼を高める」といった抽象的なスローガンだけが虚しく掲げられているばかりです。しかも、東日本大震災が発生してそちらに関心が移ってしまい、全く動かなくなってしまいました。いろいろな状況が重なったとは思いますが、全く改善されておらず、新しい意見すら出せていないのが実情です。マニフェストでは平成25年(2013)に後期高齢者医療制度を廃止すると言っていたのですが、これを棚上げして今年、自民公明に歩み寄って一部を微修正するだけにとどまっています。
─どのような高齢者医療制度が望ましいのでしょうか。
仲原 兵庫県医師会でも1年かけて議論を交わしましたが、実際に良い意見は出ませんでした。というのも、前述の4つのパターンは一長一短だからです。どれを選択しても、反発や批判は出てくるでしょう。ですから国民がしっかり考え歩み進んでいかないといけない問題だと思います。いずれにせよ根本にあるのは保険者機構の再構成と、保険者間の財政調整で、これらを合わせて今後の方針を立てなければいけません。高齢化は今後も進み、高齢者医療費は増加していきますが、財源として若年層の負担を増やすべきではなく、公費を拡充し充当すべきではないでしょうか。
元兵庫県医師会医政研究委員会委員 仲原医院院長
仲原 弘 先生