5月号
企業経営をデザインする⑦|健康お役立ち おもてなし企業をめざして
兵庫ヤクルト販売株式会社 代表取締役社長 阿部 泰久 さん
創立60周年を迎えた「兵庫ヤクルト販売株式会社」。健康促進はもちろん、ここまで大きく育ててもらった地域のために役立つ企業として、阿部泰久社長と共に社員・スタッフが創意工夫しながら、さまざまな活動を続けている。
乳酸菌の力で人々の健康を守る
―兵庫ヤクルト販売60年の歩みをご紹介ください。
阿部 「乳酸菌 シロタ株」を発見した代田稔博士が「予防医学」、「健腸長寿」を提唱し、乳酸菌飲料「ヤクルト」を誕生させ、手頃な価格で販売しました。私の父親である阿部克己が、地域の健康に貢献するという博士の考えに賛同し、神戸市兵庫区で1956年に創立したのが兵庫ヤクルト販売の前身、ヤクルト兵庫営業所です。当時はヤクルトの存在など誰も知らない、まして菌を飲んで健康になるなど考えられない時代でしたが、60年を経た現在では、約160万人の営業エリア内で約14万人のお客様にご愛飲いただいています。これは先代をはじめ多くの先輩スタッフの努力のお陰ですが、何と言っても私共は、地域のお客様に育てていただいた企業だと考えています。
―ヤクルトの健康効果とは?
阿部 代田博士が提唱した「生きた乳酸菌を飲んで腸に届ける」という健康法は世界に広がり、ヤクルト商品は国内で毎日900万本、世界32の国と地域で2700万本が生産されています。整腸作用はもちろん、乳酸菌 シロタ株には、全体の60~70%が腸内にあるといわれる免疫細胞を活性化し、インフルエンザなどのウイルス感染予防効果も期待されています。乳酸菌 シロタ株は生菌製剤や飲料として医療現場でも用いられ、手術前に免疫力を高めるために飲用する例もあります。
―60周年記念には社員とスタッフ、その家族もそろってお祝いをしたそうですが、その趣旨は?
阿部 私は「社員は家族、その家族も私の家族」と思っていますので、感謝を込めて家族みんなに集まってもらって創立60周年にあたる2月27日にパーティーを開きました。普段はお客様対象の健康チェックを実施したり、イベントで楽しんでもらったり、この日に限り社員・スタッフは招待客だったのですが、お土産やメッセージカードなどは自主的に手づくりしてくれました。家族向けに取り組みや事業の紹介も行ったところ、子どもさんから、「お母さんの仕事を初めて知りました」「勉強になりました」「私もヤクルトに入りたい」などお礼状が届きました。嬉しかったですね。
育てていただいた地域の皆様のお役に立てる事業
―ビジョン「健康お役立ちおもてなし企業」とは?
阿部 創立50周年当時、既に兵庫ヤクルト販売は宅配、直販、化粧品などあらゆる事業が枝分かれした木のような会社にまで成長していました。しかし「ここまで大きく育ててくれたのは?」という問いかけをいただいたのです。創業者をはじめ、諸先輩方の努力はもちろんですが、50年前に蒔いた小さな種に水や栄養を与えてくださったのは地域の皆様です。大木は木陰を作り、実を結び、人や自然に貢献してこそ大切にしてもらえます。何の貢献もできず役に立たない大木は伐採されるだけ。会社も同じ。「最大の会社を望まず、最良の会社を目指そう」という創業者の思いに立ち返り、100周年に向けて「健康を通じて地域のお役に立てる企業」というビジョンのもと、それを実現していくために「健康お役立ち事業」を中心事業として位置付けました。
―お役立ち事業とはどういったことですか。
阿部 まず始めたのが、兵庫三木工場と神戸工場(のちに移転先の岡山和気工場)を見学し、近隣の観光地を専用バスで巡る「工場見学健康ふれあい会」です。ヤクルトスタッフのお客様、地域の各種団体様を対象に、今では年間約300回実施し6千人以上の参加を得て喜んでいただき、結果的にそれぞれに地域のヤクルト広報員のごとくなっていただいています。商品を売り込むのでなく、商品の価値を出来るだけ広く知っていただくことが重要な時代です。将来的にはエリア内160万人全員にこのツアーに参加していただき、全員にヤクルトファンになっていただくのが夢です。
―その他にもいろいろな地域イベントを実施していますね。
阿部 春先にはヤクルトスタッフ約200人が参加して、いかなごの釘煮を作り、一人暮らしのお客様を中心にお届けしています。スタッフが手づくりグッズやヤクルトを使ったデザートなどを用意して年1回お客様をご招待する「センターふれ愛イベント」や誕生日会、上得意様をお招きする「感謝の会」など、社員やスタッフ自らが楽しみながら企画しています。実はその様子を見て、共通するのが「おもてなしの心」だと気付き、「健康お役立ち企業」に「おもてなし」をプラスしました。
子どもから高齢者まで健康で安全な暮らしをサポート
―健康に関する教室や食育にも力を入れていますね。
阿部 お客様対象の「ふれ愛ミニ健康教室」、保育園・幼稚園でエプロンシアターやクイズで楽しくおなかの仕組みや正しい排便の習慣などを伝える「おなか元気教室」、当社の管理栄養士が生活習慣や食事、腸の健康や腸内細菌についてお話しする、小中学校での「出前授業」、地域の団体や取引先様向けの健康教室などを実施しています。
―志賀和夫先生の健康セミナーが始まったきっかけは?
阿部 「志賀医院の志賀院長先生からの推薦でヤクルト400を注文します」とお客様からの声を度々いただき、お礼も兼ねて先生に直接連絡しました。各営業所での健康セミナーをお願いしたところ快く引き受けていただき、「自然免疫療法~がんと闘うための生活習慣」の実施に至りました。先生は、スタッフの手づくりグッズ以外のお礼は何ひとつ受け取っていただけない実直なお人柄で、お話はユーモアを交え分かりやすく、とても好評をいただいています。
―地域の見守りやがん検診啓蒙活動にも協力しているそうですね。
阿部 ヤクルトを毎日お届けしていると、人の生死に関わる場面にも遭遇することがあります。そこで、9名が救命インストラクターの資格を取り、弊社は「民間救急講習団体」に認定されています。社員、スタッフの多くが市民救命士講習を受講し、いざという時にお役立ちできるよう備えています。地域のお客様に健康をお届けするヤクルトスタッフがまず健康でなくてはいけません。そこで、女性社員と社員家族には婦人科検診、スタッフには基本健診受診を促進しています。併せて、がん検診受診促進のチラシを配ったり、自販機に貼ったりして、地域での啓蒙活動にも努めています。
―働きやすい職場環境づくりは?
阿部 女性が働きやすい環境づくりとして1985年から企業内保育所事業をスタートして以来、5千人を超えるスタッフの子どもさんをお預かりしてきました。昨年4月1日、「ヤクルトキッズスクール東加古川」が加古川市から、さらに今年4月1日、「ヤクルトキッズスクール須磨」が神戸市からそれぞれ認可を受け、地域のお子様も受け入れる認可保育所としてスタートしています。
―今後の展望について。
阿部 今後を担う若い社員対象に社長塾を実施し、「健康お役立ちおもてなし企業」というビジョンに沿って歩んできた会社の思いを話しています。「地域を一番大切にし、地域から一番大切にしたい会社と言っていただける事業」を継続することには変わりはありませんが、時代に合った形でどう継続していくか、地域にいかに寄り添うか、事業の見直しも含めどんどん提案してほしいと話しています。若い人たちの発想を大事にして今後へのビジョンを柔軟に見直しながら、次の世代へと引き継いでいきたいと思っています。
阿部 泰久(あべ やすひさ)
1956年神戸市生まれ。1978年甲南大学経営学部卒業後、株式会社ヤクルト本社へ入社。1982年兵庫ヤクルト販売株式会社取締役、1995年代表取締役社長に就任。1994年神戸青年会議所第36代理事長。2010年より神戸商工会議所小売商業部会部会長・常議員