9月号
近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトを学ぶ|Chapter 4 ユーソニアン住宅|平尾工務店
平尾工務店がお届けする「オーガニックハウス」の基本的な理念や意匠を編み出した世界的建築家、フランク・ロイド・ライトについて、キーワードごとに綴っていきます。
「ユーソニアン」とは一般的な言葉ではなくフランク・ロイド・ライトによる造語で、アメリカ合衆国=USAと、理想郷=ユートピアを掛け合わせたものです。ゆえにユーソニアン住宅という言葉を解釈すると、理想的なアメリカ合衆国の住宅ということになるでしょうか。
ここで注意しないといけないのが、「アメリカ合衆国」にとって理想的であるという点です。単に北アメリカ大陸中部の気候風土に合うというだけでなく、国家としてのアメリカ合衆国の社会や文化にとっても好適であることが、ユーソニアン住宅において大切であるのです。
ユーソニアン住宅の第1号にして代表作のジェイコブス邸をライトが手がけたのは1937年。つまりアメリカ合衆国で大衆消費文化が浸透した頃です。ライトはまさにその大衆をターゲットとし、時代のニーズに沿いつつ、ガラスなどの近代的な素材を用い、より快適で合理的な住まいを体現したとも言えるでしょう。
その建築としての特徴を、現在は世界遺産にもなっているジェイコブス邸を例にご紹介すると、プランでは庭を取り込むような広いリビング、キッチンやダイニングとリビングの一体化、バスルームと寝室を離す構成などが挙げられます。また、換気や断熱に配慮し、床暖房を備えて、健康的な室内環境を実現しています。一方でそれまでの住宅で当たり前だった高い屋根、車庫、地下室、ペンキ塗装、樋などが省かれて、十分な機能性を担保しつつ建設費や維持費の低減を図り、経済性を追求しています。
ユーソニアン住宅について、著書で「どこにも〝大仰な〟ところのない、住むための場所で」と述べているライト。若き頃に編み出したプレイリースタイルを発展させ、円熟の70代にしてたどり着いたのは、心地良く慎ましやかな住まい、ユーソニアン住宅でした。そしてその哲学やエッセンスは、現代の家づくりにも息づいています。
FRANK LLOYD WRIGHT
フランク・ロイド・ライト
1867年にアメリカで生まれたフランク・ロイド・ライトは、91歳で亡くなるまでの約70年間、精力的に数々の建築を手がけてきました。日本における彼の作品としては、帝国ホテルやヨドコウ迎賓館、自由学園明日館が有名です。彼が設計した住宅のすばらしさは、建築後100年経っても人が住み続けていることからわかります。
これは、彼が生涯をかけて唱え続けてきた「有機的建築」が、長年を経ても色褪せないことの証明でしょう。フランク・ロイド・ライトが提唱する「有機的建築」は、無機質になりがちな現代において、より人間的な豊かさを提供してくれる建築思想なのです。