9月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.35 神戸大学医学部附属病院 泌尿器科 三宅 秀明先生に聞きました。
体の中の余分な水分を外に出すために働いている泌尿器関連臓器にも、他の臓器と同じく悪性腫瘍(がん)ができてしまいます。最先端のロボット手術や薬物療法など高度な医療で全国的にも高い治療実績をもつ神大病院泌尿器科の三宅秀明先生に伺いました。
―泌尿器科の領域は?
一つは男女問わず「尿路」が領域です。腎臓で老廃物を濾し取って尿が作られます。ここから腎盂にしみ出していき尿管へと送られ、膀胱を経て尿道から排泄されます。腎臓については腎臓内科と役割を分担しています。神大病院泌尿器科では、主にがんに対する外科手術、腎移植手術、さらには化学療法や免疫療法などの薬物療法なども積極的に担当しています。
もう一つの領域は「生殖器」です。女性の場合は産婦人科の領域ですので男性に限り、前立腺や精巣、陰茎などが該当します。
―泌尿器の領域にはいくつもの臓器が含まれるのですね。がんはどの場所にできて、それぞれ性質や治療法が違うのですか。
がんは人間の体のあらゆる部位にできるので、全ての泌尿器関連臓器にもできます。一連の管腔臓器である腎盂、尿管、膀胱は同じ上皮に覆われていて、がんの性質も同じです。実質臓器の腎臓がんは異なる性質を持っています。免疫が関係していることが分かっている腎臓がんは免疫療法が治療の中心を占め、膀胱がんには一般的な抗がん剤治療も効果があります。本庶佑先生がノーベル賞を取られた免疫に関する研究を基に開発された新しい治療薬によって、それまでの腎臓がんの免疫療法とは一線を画すほど治療効果が高まり、膀胱がんでも取り入れられるようになっています。前立腺にできたがんは男性ホルモンに依存して成長します。ホルモンをブロックする治療法の効果が高いがんです。
―がんを切り取る外科手術にはロボットが取り入れられているのですか。
2016年に前立腺がんのロボット手術が初めて保険適用されました。それ以来、次第に範囲が広がり現在では泌尿器領域の主要な外科手術は一部を除き全てでロボット手術が保険診療の対象になっています。
―前立腺がんの手術が特にロボット手術に向いているのですか。
前立腺は骨盤の奥にあり開腹手術には高い技術を持って臨まなくては難しく、出血のリスクや尿失禁、性機能障害を起こす場合もあります。鉗子を自由自在に動かせるロボットのメリットを最大限に生かせるがん手術です。他にも、腎臓がんが7センチ以下の場合は部分切除手術が可能で、これにも腫瘍の切除、腎臓の縫合など繊細な技術が必要で、ロボット手術のメリットは大きいと思います。病気そのものを治す目的のためには開腹手術とロボット手術、どちらも大差ありませんが、機能の温存や身体の負担を軽減するという観点からロボット手術は患者さんにとって大きなメリットがある方法です。
―腎移植手術を執刀するのも泌尿器科の先生なのですか。ロボット支援下で行われているのですか。
はい、泌尿器科医が執刀し、他に麻酔科医や腎臓内科医が関わっています。腎移植についてはロボット手術がまだ保険診療の対象になっておらず、今のところドナーさんの腎臓を腹腔鏡手術で取り出し、開腹手術で患者さんに移植しています。保険適用があれば、取り出す手術はロボット支援下で行えますが、移植手術を受ける患者さんにとってロボットはそれほど大きなメリットはないと思います。
―尿道や前立腺では内視鏡手術も可能なのですか。
膀胱内の腫瘍部分だけを取る手術や前立腺肥大症などは尿道や前立腺に内視鏡を挿入して臓器の内部から切除が可能です。前立腺がんや膀胱全部を取らなくてはいけないがんの場合はロボット手術で行われています。
―膀胱は一つしかないので取ってしまうと排尿が困難になるのでは?
膀胱と同じく管腔臓器である腸を切り取って代用膀胱を作り尿管とつなぐことは可能で、この場合は尿道から尿は出せます。ところが通常は膀胱に尿が溜まると信号が脳に伝わり尿意を感じますが、残念ながら腸を使う膀胱にはそういった機能が備わっておらず定期的に排尿を促す必要があります。患者さんの意向に沿って行いますが、必ずしもお勧めできる方法ではなく、膀胱全摘手術と同時にロボットで実施可能な、直接尿を体の外の採尿袋へ常時排出する方法が一般的です。
―治療法について重要な選択が必要なときは患者さんの意向に沿うのが基本ですか。
もちろん患者さんの意向をお聞きします。しかしご高齢の場合などは医学的に非常に難しい内容を詳しくお話しするとかえって患者さんを混乱させてしまいます。予め患者さんの年齢や体力など考慮した上で選択肢をお話しするようにしています。
―泌尿器系のがんは他の臓器のがんに比べて少ないのですか。予防法はあるのですか。
決して少ないとはいえません。生殖器も含む男性に関しては、がん患者さんの約四分の一が泌尿器系のがんです。がんは基本的に遺伝子異常が原因で、そこに他の要素が相まってできるものですから、全ての原因をクリアにすることは難しいですね。膀胱がんに限定して言えば、喫煙との因果関係はデータ上でもかなり明らかになっているので、禁煙はすぐにできる予防法の一つです。
―自覚症状や早期発見の方法はありますか。
腎臓や前立腺は症状が出にくいがんで、症状が出たらかなり進行した状態です。膀胱がんでは血尿が出たらすぐ受診してください。検診の尿検査で潜血反応があり膀胱がんが発見されたり、検診のオプション項目の腹部超音波検査で腎臓がんが発見されたり、腫瘍マーカーで前立腺がんが発見されたりするケースがあります。他の病気の疑いがあってCT検査を受けたところ、泌尿器系のがんが見つかったというケースも多くあります。定期的にCT検査を受ける機会があれば早期発見につながると思います。
三宅先生にしつもん
三宅先生はなぜ医療の道を志されたのですか。
A.中高が進学校で文系科目が苦手で、周りに医学部志望者が多く、つられて受けたようなものです。特別に高尚な理由などなくて(笑)、でも今はすごくやりがいが感じられるこの仕事を生業(なりわい)にできたことは良かったと思っています。
泌尿器科を専門にされた理由は?
A.神戸大学腎泌尿器科の雰囲気がとても良かったので、何の迷いもなく選びました。全国的に見てもハイレベルな治療で高い評価を受け、歴代教授の先生方が日本泌尿器科学会で大きな役割も果たしています。誇りを持って仕事ができ、選択に間違いはなかったと思っています。また、私が入ったころは腹腔鏡手術もまだないころでしたがそれでも開腹手術や内視鏡手術といった外科治療の選択肢が多く、その上、薬物療法のような内科的治療も実践できて、泌尿器科医は出来ることの範囲がとても広いという理由もありました。
病院で患者さんと接するに当たって心掛けておられることは?
A.患者さんに対して優しく、分かりやすく、気持ちよく治療を受けていただくという当たり前のことは大前提とした上で、患者さんに良い治療を享受してもらって「病気を治す」ということに対して結果を出すことが最も重要と思っています。
大学で学生さんに接するに当たって心掛けておられることは?
A.教科書を読んで分かることは学生が自分で学べばよいことですが、現場を見ないと分からないこともたくさんあります。そこで、手術見学などできるだけ実体験を重視した教育を充実させたいと思っています。
ご自身の健康法やリフレッシュ法は?
A.自分では体力はあると思っているので特に健康のためにやっていることはないですね。リフレッシュは旅行です。海外から近場の温泉まで合間を見つけて出かけています。