2024年
6月号

未来を駆ける神戸の新風 VOL.12|六甲山の木材を 新たな神戸の ブランドに!

カテゴリ:神戸, 経済人

神戸のシンボルとして、市民に親しまれている六甲山。そこで育った木材を、新たな神戸のブランドとして広める取り組みを10年以上に渡って行っているのが、今回取材した「SHARE WOODS.」代表の山崎正夫氏。
山崎氏は現在、六甲山の手入れから出た樹木の有効活用を通して、ワークショップやプロダクト開発、ブランディングを手掛け、 地域材の流通、経済循環の仕組み作りに取り組んでいる。
実は、神戸市役所1号館のロビーに設置されたベンチや「こども本の森 神戸」の椅子やベンチ、名谷図書館の閲覧室に設置された、丸太や角材を組み合わせたベンチは「SHARE WOODS.」が手がけたものだ。
近年、日本全国で人工林の放置などが問題になっているが、神戸から、その解決策に挑戦する取り組みについて伺った。

SHARE WOODS.

狙いは、地域の木材が地域で循環するサイクルを作ること

「SHARE WOODS.」を、なぜ創業されたのかお聞かせ下さい。
もともと、私はドイツ木材メーカーの輸入代理店でサラリーマンをしていました。そこでは、世界中の銘木を扱っていて、やりがいがある仕事でしたが、環境とかエコといったことを考えたときに矛盾を感じたんです。木材は、自然のもので環境に良いものではあるんですが、世界各地のものを、燃料を使って船で何か月もかけて運ばれてくるわけなんですね。それってどうなの?日本の自分たちが住んでいる地域の山にも木があるのに、それをなぜ使えないの?といった素朴な疑問を抱きました。そこから日本の林業の課題を知り、日本の山のこと、木のことを知ったんです。実は、仕事で木を扱っていたのに日本の林業のことなんて全く知らなかったんですね。

林業の課題というと、やはり担い手不足などでしょうか?
担い手不足は、どの産業でも起こっていることなので原因の1つでしかないと思うんですが、私が、一番問題と感じているのが、“山と街が繋がっていない”ということなんです。

「山と街が繋がっていない」というのは?
皆さんおそらく、自分たちの地域に山があって木があるのは分かっていても、そういう山の資源を使って何か作れるとも思っていなくて、DIYなどで木を使おうと思ったらホームセンターに行って外材を買ってますよね?もちろん、山の人も木を通して街の人と出会うきっかけが無い――。
そこで、会社勤めの傍ら「カホン・プロジェクト」というものを始めたんです。カホンとは、板を組み合わせた箱型の打楽器なんですが、全国各地で、これを現地の間伐材で作るワークショップや演奏会を開いたんです。

カホンを通して、林業とその地域の人を繋いだわけですね。
はい。地域の木材が地域で循環するサイクルを作ることが狙いでした。
そして、この活動を重ねるうちに、日本の山には、こういう風に山と街を繋ぐ人が本当に必要だと感じて、2013年に独立し、「SHARE WOODS.」を設立しました。

特殊な六甲山の課題。神戸市との二人三脚

神戸で、「六甲山森林整備戦略」が計画され、地域材活用に動き出していた時期ですね。
起業したときは、カホン・プロジェクトのように、本来、木材で使うために植林した木々が、需給関係が悪く放置林になってしまっている、といった地域の課題を解決したいと思っていました。
その解決策の一つとして、木が切られて、製品になるためのコミュニティを作ったんです。
山と街を繋げるためには、木を切る人や製材する人、製品を作る設計士、そして消費者までが繋がっていないといけないのに、それぞれの接点がなく、分断されてしまっているので、接点を作るために皆で集まって、山のことについて議論したりする場を作ったんです。
これがきっかけで、神戸市が相談に来られて、六甲山の木材を扱うことになりました。

六甲山ならではの課題などもありましたか?
実は、六甲山には、他の山にはない問題があったんです。というのも、六甲山は江戸時代に樹木の伐採が進みはげ山と化していたところ、明治時代に防災のために植林されて、いまの姿になっているという背景があります。そして、今度は木が育ちすぎて、山崩れを起こす可能性が高まっているので伐採整備をしなければならないのですが、林業のために植林したわけではないので、製品にするために、木を切って製材するというプレーヤーが神戸市にはいなかったんです。そこで我々が目に留まり、二人三脚での挑戦が始まりました。

六甲山の木材の魅力はありますか?
商業的な観点から言うと全くありません(笑)。
というのも、木材にするために木を植えた山ではないので、スギ・ヒノキといった針葉樹ではなく広葉樹が主な種類なんですが曲がったりしたものが多いので、山から下ろすのも大変ですし、加工するのも大変。ただ、個性や色んな表情の木材ばかりなので、そこが魅力だと思います。また、均一ではないので、先に作る製品を決めるということができず、木材の形や表情を見てから製品を決めるというものづくりになるのですが、その点も面白いですね。

2015年からは「Kobe もりの木プロジェクト」が立ち上がりました。
はい。六甲山って保安林があったり、触ったらいけない山みたいな感覚があると思うんですよ。木を切れるんですか!?みたいな。そこで、「六甲山の木は使えるんですよ」ということを知ってもらうための活動としてワークショップをやっていきました。
加えて、小学生ですと、木を切ることは自然破壊みたいに思ってしまう子どももいるので、「そうじゃなくて、適度に木を切ってあげて山を育てることが大事なんだよ」ということを伝えていきました。
この活動では、六甲山の木と聞いて、“使いたい”という人が多く、街への愛着が強い神戸ならではだなと感じました。

付加価値を上げながら、地域の人々が恩恵を得られる仕組みを作りたい

改めて、御社の社会的な役割をどのように考えられているかお聞かせ頂けますか?
六甲山を資源として見た時に、大規模な会社さんに木をたくさん買ってもらえば良いのか?というと、そうではないと思うんです。原材料を搾取されているだけで、地域の利益にはならない。
小さなローカルの循環の中の仕組みの中で、山が地域の資源として色んな人に恩恵をもたらすものでないといけないと思うんです。それが、山を枯渇させずに、かつ放置させない一番の方法であると、私は今のところ結論付けていて、それを色んな山と地域に横展開していくことを使命だと考えています。イメージとしては、我々をモデルにして、広島県なら広島県の、長野県なら長野県の、といったようにローカルごとに、その地域に合わせた循環の仕組みを広げていってもらえたらと思っています。
改めてになりますが、小さな規模でも付加価値を上げながら、地域の人々に恩恵があるような仕組みを作りたいと考えています。

デザイン・クリエイティブセンター神戸 (愛称: KIITO)

神戸市役所市民ロビー

神戸市立名谷図書館

捨てられるはずだった木材を使用し、新たな生命を吹き込んだ六甲山鉛筆

ケルン三宮店

フェリシモが運営する都市型ワイナリーの「f winery [エフワイナリー] 」

兵庫ヤクルト販売1階ロビー


「SHARE WOODS.」代表
山崎やまさき 正夫まさおさん

1970年生まれ。大学卒業後、ドイツの木材メーカーの輸入代理店勤務をへて、2009年に間伐材を使用した打楽器「カホン」を製作する「カホンプロジェクト」を立ち上げる。全国各地の地域材を活用したプロジェクトなどに参加し、2013年に、地域材を活用したデザイン、製作、販売を行うプラットフォーム「SHARE WOODS.」を設立。六甲山の木材を使用した数多くの空間設計や商品開発を手掛ける。神戸を拠点に、全国の森林の活用、地域材を活用した新たな価値の創造などを通して地域のブランディング化を促進する。

SHARE WOODS.

工房兼倉庫 (MARU)
神戸市兵庫区西出町1-2-8
シェアウッズ工房兼倉庫
TEL.0120-492-690

SHARE WOODS.
工房兼倉庫 (MARU)

神戸市兵庫区西出町1-2-8
シェアウッズ工房兼倉庫
TEL.0120-492-690
http://www.share-woods.jp

〈プロフィール〉
蔭岡翔(かげおか しょう)

放送作家・脚本家
神戸市東灘区在住。関西の情報番組や経済番組などを企画・構成。日本放送作家協会関西支部監事。日本脚本家連盟関西地区総代

〈取材を終えて〉

いわゆる表六甲は市有林であり、ここの手入れから発生する樹木は「市有財産」であるため市場に流通するにはいくつかのハードルがあるそうだ。一方で、私有林が多い裏六甲は山崎さんが見てきた各地の課題と共通点が多く、昔からスギ・ヒノキを自分達の手で間伐したり、手入れをしてきているにも関わらず、搬出コストが合わず間伐された丸太は切り捨てたまま放置されていたそうだ。 
そんな裏六甲の木材を「SHARE WOODS.」では製品に変えるとともに、去年から丸太置き場を作って、買い取ったり、製材して持って帰ってもらうという取り組みを始めたそうだ。
枝も葉っぱも全部使えるような仕組みを目指す山崎さん。身の回りで、身近なものを必要な分だけ消費していく、そんなライフスタイルの提案によって、持続可能な街と山の関係が、少しずつ近くなっていくのかもしれない。

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