2月号
カフェトーク@ミュージアムロード開催!
カフェトーク@ミュージアムロード開催!
神戸のミュージアムロードの魅力を
地域ゆかりの美術関係者が集って、ゆるゆると語りました。
主催/兵庫県神戸県民センター
横尾忠則現代美術館や原田の森ギャラリー、王子公園からBBプラザ美術館を経て兵庫県立美術館やなぎさ公園を結ぶミュージアムロード。その魅力を伝える動画を「耳で聴く美術館」(以下、耳美)などで知られる動画クリエーターのaviさんが制作・配信している。彼女の動画は特にインスタグラムではアートに敏感な女性が多くフォローし、全国、否、世界中で視聴されている。カフェトークではその映像作品を受けて、長年ミュージアムロードに関わってきた横尾忠則現代美術館の館長補佐兼学芸課長の山本淳夫さん、県立美術館の若手学芸員の武澤里映さん、2022年にミュージアムロードに関するワークショップを手がけたアーティストの田岡和也さんが、この界隈の魅力や未来、アートの楽しさなどについて耳美さんとともにざっくばらんに語り合った。
PR動画はこちらから
ミュージアムロード海側動画
ミュージアムロード山側動画
海と山、街とアート、人と人
―ミュージアムロードがつなぐもの
カフェトーク@ミュージアムロード
2023年12月2日(土)ぱんだかふぇ(横尾忠則現代美術館1階)
街や自然との距離感が魅力
耳で聴く美術館(以下、耳美)
まず、ミュージアムロードの魅力や独自性についてお伺いします。
山本 街の近さですね。以前勤務していた芦屋市立美術博物館や滋賀県立近代美術館は、とにかく周りに飲食店がない。ランチ難民になっちゃうんです。それを思えばここは本当にパラダイスで、特に水道筋商店街とかに安くて美味い店が多く、僕にとってそれが最大の魅力の一つです。まさに絶妙なバランスですよね。下町でありながら、もともと関西学院大学があったところだから文教地区的な雰囲気があり、緑がいっぱいあって、パンダもいて、面白いコンビネーションですね。
武澤 私はミュージアムロードが通勤路なんですけれど、見回してみると公園や広場やベンチが多いといつも思うんです。王子公園から県立美術館って歩くと結構長いのですが、その道中でも休憩できるような、ちょっと立ち止まったり座ったりして休める場所がずっと昔から大切にされているような雰囲気を感じます。「ピース・クラッカー」(「PEASE CRACKER」)は豆の部分がいすとしても使えるので、疲れて帰る仕事終わりに腰掛けてみたことがありますが、本当にすっぽり収まる感じで面白いです。ぜひみなさんも座ってみてください。
田岡 海側から山の方を見るとすごく山が近いと感じますが、実はここからさらにちょっと上がったら青谷川が流れていて、登山口があるんです。本当に山と海の自然と街の「ちょうど良さ」がありますね。青谷川では、なんと蛍がいるんですよ。さらにカジカガエルという、秋の鹿が鳴くような美しい声で鳴くカエルもいます。県立美術館の屋根にいる「美かえる」はそこまで意識してつくられたんでしょうか?
耳美 山本さんは首を振っていますけれど(笑)
田岡 カジカガエルは体に綺麗な模様もありますし「美かえる」(「Kobe Frog」)はぴったり。美しい声を持つカジカガエルを見ているのかなと。そこまで意識はされていませんか。
武澤 きっと意識されていますよ(笑)
耳美 田岡さんがワークショップでこどもたちと制作した「切り絵マップ」がみなさまのお手もとにあります。ミュージアムロードにあるアート作品を描いた切り絵ですが、この中で印象に残る作品は何ですか。
田岡 原田の森ギャラリー前にある柳原義達の鳩のブロンズはすごくいいなと思っています。ワークショップの時に実際に作品を触ってもらったんです。作品は全部手でつくっているので、その作家の指の跡がついていて、どういう工程かがわかる。野外のパブリックアートは触っていいんですかね?
武澤 どんどん触っていただいてしかるべきなのではないでしょうか。県立美術館では視覚に障害のある方含め、あらゆる方に作品を触っていただける展覧会を毎年開催していますよ。
楽しみは展示室を超えて
耳美 初めてミュージアムロードを訪ねる方に、おすすめの過ごし方を教えてください。もし関西以外の知人が観光で神戸を訪問した際に、ミュージアムロード近辺を案内するとしたらどのような過ごし方を提案されるでしょうか。
山本 神戸を訪れる人にとって、ミュージアムロードは結構穴場だと思います。仕事で外国の美術館に作品を貸し、その展示の立ち会いで1週間くらいその街に滞在することがあるのですが、観光地には行かないけれど、その街に生活している人に近い体験をする。観光よりむしろ面白いんですね。これは願望なんですけど、完全に仕事を忘れて1泊2日でこの界隈をうろうろしたい。「ゲストハウス萬家」という、歯医者さんを改装したすごく独特な宿泊施設に泊まって、この界隈の美術館を全部制覇して、晩は水道筋で飲んだくれて、っていうのを一度やってみたいですね。
武澤 ミュージアムロードは一本道のようで寄り道がすごくしやすいんです。いろいろな寄り道をして、最後に美術館に行くみたいな過ごし方があってもいいと思います。それこそBBプラザ近くの大きな道路に「灘の名物」って書かれた大きな看板が出ているたこ焼き屋さんがあるのですけれど、実はすごく美味しいんです。
耳美 県立美術館へは展覧会をめがけて行く方がすごく多いと思うのですけれど、海側の「サン・シスター」(「Sun Sister)」があるところまでは行かなかったという人も結構多くて。美術館のまわりをぐるりと回ってみると意外な作品があったりするので、そういう時間を持てるように余裕を持って行くのがいいのではないかと思いました。
武澤 展示室だけで終わらないのがミュージアムロードの大きな魅力だと思います。
田岡 初めて訪ねる方には1泊2日でここに来てほしいと思っています。大きいリュックを背負って、歩きやすい靴を履いて。ミュージアムロードを歩いて美術館でアートを鑑賞したあとは、そのまま山に行って2時間で摩耶山に登る。テントとシュラフとマットももちろん持ってきていただく。摩耶山から西の新神戸方面へ行くと、キャンプ場ではないけれど河川敷で「市ヶ原」というちょっと宿泊できる場所がある。そこで、灘のお酒とおつまみを拡げて一泊する。そして布引の滝を見て下りてきて、そのまま新神戸駅から新幹線に乗って帰る。
山本 美術館へ行かなくてもいい(笑)。ケーブルカーで下りてきて、水道筋の名物銭湯「灘温泉」もいいですね。
田岡 そうですね、「灘温泉」も最高です!
徒歩以外の移動手段を
耳美 次はエリアの将来像、このエリアにあったらいいなと思うもの、足りないものがあればぜひ。この地域が抱えている課題でもいいですし、将来こうあってほしいというお話でも結構です。
山本 やっぱり移動手段だと思います。天気が良くて元気だったら県立美術館から横尾忠則現代美術館まで1.2km、歩きとしてはちょうどいいです。だけど寒かったり暑かったり、ちょっと体力も落ちてきたりすると正直きつい。だからスポットを回ってくれるモビリティがあるといい。以前、期間限定でバスが出たこともあるんですけど続かなかった。何かうまい交通手段があるといいな、と切に願います。
武澤 やっぱりミュージアムロードにいすや広場などの公共スペースがずっと残っているというのはすごく重要なことだと思います。排除アートといった話題もありますし、公共的なスペースは徐々に減っている傾向にあると思うのですが、その中でもミュージアムロードにはこれからも公共的で誰でも座れて休める空間を保ち続けてほしいですし、立って歩く以外の行動を提案できるようなオブジェや作品がどんどん増えていったらより面白いのではないかと感じます。
山本 武澤さんの話を聞いて思ったのですが、ミュージアムロードという縦軸があって、横方向に水道筋商店街、そして阪急の高架下があり、ここにおしゃれなギャラリーや家具工房、ダンススタジオなどの面白いスポットが入っているんですね。ちょっと前までは東京とここにしかないハンドメイドの日傘の専門店があったのですけど、コロナで撤退してしまって。阪急の高架下はきれいにしたいのでしょうし、王子公園もリニューアルが議論されていますけれど、全部つるんとしてしまうのも味気ない。時間の蓄積によって生まれる魅力もあると思います。
田岡 歩ける人は歩いたらいいんですけれど、そうじゃない人には貸し出し用の電動キックボードや何人かで乗れるカートを用意するなど、このエリアにあったらいいなと思うのはそういう交通の便に関してだけですね。その他に関してはもうすべてがここにあるので、これ以上の観光のものはいらないと思います。何だったらもう、コンクリートを剥がして土に戻すくらいの方向に行ってほしい(笑)。もう一つ、アートの周りにベンチを1つ置くのがいいなと思っています。新宮 晋さんの「遥かなリズム」という風で動く作品があります。いまは海辺にあるのですが、もとは兵庫県立近代美術館(現・原田の森ギャラリー)にあったそうで、私の知人が幼い時にお父さんと一緒に作品の前のベンチに座って見ていたのをよく覚えていますという話をしていました。各アート作品の周辺にちょっと休憩できるスペースがあればいいのかなと。
気負わず自分なりの解釈を
耳美 最後に、普段の生活でのアートの楽しみ方や付き合い方のコツについて、簡単にアドバイスをいただければ。
山本 いきなりすごく大きなテーマで焦るんですけど(笑)。美術館に赴任してきた新しい総務のスタッフは、たいてい「私美術はよくわからないんです」とおっしゃるんですが、僕はその気持ちがよくわかるんですよ。と言うのも、かつては僕自身がそうで、どちらかといえば美術に興味がなかったから。だから当然、絵の見方なんかわからなかったんです。ところが最初の上司の故河﨑晃一さんが、アカデミックに美術を学んだというより自分でも作品をつくっていて、どちらかというと作家目線、コレクター目線だったんです。そんな人に最初に拾われたのはとても良かったと思います。その当時きれいだと思った作品は今から思えば不正解なことが多い。表面的なきれいさに騙されないというのは、自分の一つの体験として言えます。また、芦屋でお世話になった具体美術協会の人たちにも学びました。まだ嶋本昭三さんもご健在で。絵の具を詰めた瓶をぶつけて絵を描く、だからすごいスピードでどんどん絵が描ける。ただ問題はそれを選ぶときですよ。パッと見ていいなと思ったものは捨て、どう見ても失敗だったものも捨てる。ようわからん、というものを残してずっと見ているんですね。今の自分の価値観で良し悪しが判断できるのは対象外。よくわからないものの中から新しいものが出てくる。そのことを何となく頭の片隅に置いて仕事をしています。
耳美 「ちょっとわからないんです」という総務課の人にはどういう風に教えるのですか。
山本 教えない、「そうですか」って(笑)。教えられるようなものではなくて、でもやっぱりアートは面白いので、自然に興味を持つ人が多いです。
武澤 高校生の時にはじめて現代美術をまとめた展覧会を見たとき、何だか胸がすく感じがしました。「こういう世界があるのか!」みたいな感じで。すごく閉じこもっていたのが、さわやかな気持ちになって、そこから現代美術って面白いかなとなって今に至ります。また、学生の時に展覧会の監視アルバイトをしたのですが、ギャラリーの中で5時間同じ作品を見続けると、本当に見方が変わってきて、自分の中でどんどん具体的になっていき、最終的には「監視面白かった!」ってすごく満足して、そういう楽しみ方もあるのだなと思いました。
田岡 作品を長く見るというのは本当に大切なことですね。アートがわからないと蓋をしてしまうのは結構勿体なくて、見方としては自分で見るので別にどういう見方でもいいのかなと思います。さっきの話ですが、「美かえる」が美しい声のカジカガエルのことかとか勘違いかもしれませんけれど、自分なりの解釈でいいと思っているんですね。何かそういう形で作品を眺めていくと気負わないし「何だろう?」という気持ちで作品と対峙するのが大事かなと。
耳美 ありがとうございました。ミュージアムロードについていろいろなお話を聞いてこの地域の魅力を改めて確認したり、ベンチがあったらいいなとか課題も見えてきたのではないかと思います。また関係者の皆様でも認識を共有いただき、この地域をアートのある街として、さらに盛り上げていってほしいと思います。
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kok12/kobe_mrkirieartmap.html
神戸県民センターでは、ミュージアムロードの「海」「山」「アート」を楽しめるスポットを紹介するガイドマップを発行しています。
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kok12/kobe_mrguidemap.html
横尾忠則現代美術館
神戸市灘区原田通3-8-30
TEL.078-855-5607
開館時間 10時~18時(入場は17時30分)
休館日 月曜(祝休日の場合は翌日)
観覧料 700円 中学生以下無料
https://ytmoca.jp/
BBプラザ美術館
神戸市灘区岩屋中町4-2-7 BBプラザ2F
TEL.078-802-9286
開館時間 10時~17時(入場は16時30分)
休館日 月曜(祝休日の場合は翌日)、展示替期間
観覧料 展覧会ごとに問い合わせ
https://bbpmuseum.jp/
兵庫県立美術館
神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1
TEL.078-262-1011
開館時間 10時~18時(入場は17時30分)
休館日 月曜(祝休日の場合は翌日)
観覧料 展覧会ごとに問い合わせ
https://www.artm.pref.hyogo.jp/