1月号
風に吹かれた手紙のように|松本 隆|Vol.13(最終回)
喫茶店で話すラジオ番組みたいな2人のおしゃべり。
ラジオを聴くように読んでほしい。
meme いま私、NHK朝ドラのおかげで、ちょっとしたブギウギブームなんです。~今日は朝から 私のお家は てんやわんやの大騒ぎ~♪
松 本 笑笑。笠置シヅ子さん。元気になるね。僕がいま元気になるのはこれ。~Instagramの動画を見せてにこにこ~
meme 初めて聴きました!可愛い!
松 本 でしょ。可愛くてハッピーになる。誰が作ったのかは知らない(笑)。※しばし検索、Memefull『China tang tang tu tu tu』と判明
meme 2023年11月のアルバム再発売から、てんやわんやの大忙しだったでしょう。お疲れ様でした。おかえりなさい。
松 本 取材が約20件、各社約2時間。みんな勉強してくるから気が抜けない。疲れたけど嬉しかったよ。
meme 鈴木茂さんとのトークショーはいかがでした? ※2023・11/4タワーレコード渋谷店にて
松 本 あまり覚えてない(笑)。でもめちゃめちゃ楽しかった。
茂と僕の記憶はだいたい一致してるの。例えば『12月の雨の日』ができた時のこと。僕が大瀧さん(大瀧詠一)の部屋で書いた詞を、ある日、細野さんが「大瀧から曲を預かった」って言って僕の家に聞かせにきた。作った本人はいなくて、茂がいてね。茂とはその日がはじめまして。細野さんがアコギ弾いて歌って、茂はエレキ。2回目か3回目にはイントロを作って弾いた。それが、今、みんなが聴いてるイントロそのままなの。
『12月の雨の日』を書いたのは11月最後の日。雨が降ってた。懐かしくなって、11月の終わりに大瀧さんの部屋を探しに出掛けてみた。部屋はもうなかったけど、あの日、タクシーに乗って向かった時の空、景色、部屋の雰囲気、先に寝ちゃった大瀧さん、キレイに覚えてる。人の記憶って不思議だよね。
はっぴいえんどは初めから完成してた。詞もイントロも作ったそのまま。普通もっと悩むと思うんだよね。人がやってない事をしたいし、新しいジャンルを作ろうとしてる。教科書はない。なのに試行錯誤なし、ぶっつけ本番。
meme 4人の感性が一致していたということなのかな。
松 本 ものを創るとき、僕は毎回必ず自分の考えを作っておく。それが通用するかを考える。通用すると証明できるものを作っておく。商売になることを証明しないと大人とか会社は動かないから。
はっぴいえんどもそうしてきたけど、僕たちには土台が全くなかった。応援してくれる情熱のある大人もいたけど、上からトンカチで叩かれ、下では足を引っ張られた。
僕たちは反発もしなかった。好きなようにしていた。10年後か30年後かもっと先になるかもしれないけど、時間がたってから結果が出るって信じてたんだと思う。そこが一致してたんだろうね。50年かかって今回また証明できてる。
meme オリコンベスト10に今回のアルバムが3枚入って。BTSやローリング・ストーンズが一緒に並んでいて。かっこいいお話です。
松 本 活動してないバンドなのに、高校の軽音楽部の子たちが教材として使ってくれたのはラッキーだったよね。音楽が好きな子たちの集まりで、先輩が後輩に楽器を教える、昔から変わらない部活でね。『風街ろまん』とかを「コレ聴いとけ」って、先輩から渡されたって話を聞く。
僕たちも遺したいと思ったけれど、それ以上に各時代で聴いた人たちが遺したいと思った。後輩に伝える、その人たちがまた下の人に伝える。そうして遺ってきた。国も時代も超えて、いいものが遺る、聴かれる時代になったね。
meme 言葉って古くなるってこともあるのに、はっぴいえんどの歌詞はどの時代にも愛されます。
松 本 そのへんは計算したわけじゃない、見たままを書いたりしてるから。でも理解するには大学生の本棚くらいの知識が必要だとは思う。そういうところかな。
作詞家になってからの詩には、その本棚は邪魔になっちゃった。前知識がないとわからないものは半端だなと思った。本当に優れているのは幼稚園の子どもが歌える歌。アグネス・チャンの『ポケットいっぱいの秘密』を、20人くらいの子どもがハイキングしながら歌ってるのを見たときに「勝ったな!」と思った(笑)。自分の歌を子どもたちが無邪気に歌ってるんだもん、それは嬉しかったよ。
本棚が必要な歌、本棚が入らない歌、両方の世界観が作れるのは面白かった。
meme 今回のアルバムについて細野さんは?
松 本 何もない(笑)。そういう人。
はっぴいえんど解散後、茂は単身アメリカに行ってソロアルバムを制作したんだけど、僕は歌詞を電話で伝えてね。それがいま聴いてもすごくいいの。当時のアメリカで一番上手い人たちがバックミュージシャンで参加していて。すごくかっこいいアルバム。茂はすごい。茂にはこれからも書きたい。