6月号
【新緑の六甲山を行く】六甲山蒸溜所
霧深き森で、じっくりと醸す
自然が育むディスティラリー
標高約800m。時にはさわやかに風そよぎ、時にはしっとりと霧に濡れる六甲の森の中に、小さなウイスキー蔵がお目見えしたのは2年ほど前のこと。遊休施設を活用した六甲山上活性化の一環として、大手製薬メーカーの保養所だった建物に手を加え誕生したのが、この六甲山蒸留所だ。
ここでは本場・スコットランドから輸入したモルト原酒を、敷地内の井戸に涌出した六甲の天然水で調整し樽詰めして追熟させている。ミズナラの樽で寝かせた「MIZUNARA」シリーズは、麦芽の甘味とコク際立つノンピーテッドタイプと、ほのかな燻香が特徴のピーテッドタイプの2種。六甲山麓の御影郷を代表する酒蔵、菊正宗とコラボし、吉野杉の日本酒樽に充填した「杉樽FINISH」の清酒の如きフルーティーさは、まさに神戸の地だからこそ引き出せるのだろう。
また、麦汁づくりから発酵、蒸留と、原酒の自家生産もおこなっている。もちろん、仕込み水は六甲山の水。スペースの都合もあり、1基のドイツ製蒸留器で初留、再留の両方をおこなうが、これがまた無二の個性を生む。その原酒をスペインから取り寄せたシェリー酒の樽や、バーボンの樽に詰めて熟成。仕込んでまだ2年ほどだが、一部は「六甲山蒸溜所 THE FIRST」として限定販売している。程よい湿度と寒暖差があり、空気清らかな六甲山上はウイスキーづくりに好適ゆえ、今後、星霜を重ねてどのような銘酒になるか楽しみだ。
蒸留所は見学も可能、テイスティングも楽しめる。芳醇な薫りとほのかな明かりに包まれて樽が並ぶようすは幻想的だが、実はこの空間、もともと保養所の浴室だったそうだ。日曜日の午前・午後各2回、定員10名で20歳以上限定。詳細や予約はホームページを。
諸説あるが、ウイスキーの語源はゲール語の「ウシュクベーハー」で、その意味は「生命の水」だとか。さまざまな命を育む六甲の森の雫はここで醸され、まさに「生命の水」となって深く心にまで沁みわたる。
六甲山蒸溜所
TEL. 078-894-2225
https://rokkosan-distillery.com/
元町ウイスキー
TEL. 078-391-2100
芦屋ウイスキー
TEL. 0797-61-5310