2月号
「仲人が、婚活の選択肢の一つになれば」
渡辺いっけい、昨年大ブレイクした松本若菜、そして宮崎美子と実力派俳優を迎え、古民家で結婚相談所を営む仲人の母娘や、昭和オヤジの新人仲人が、ご縁を繋ぐために大奮闘するハートフル・コメディ『マリッジカウンセラー』。コロナ下でリアルな出会いの機会が激減し、マッチングアプリを利用して結婚した人の割合が益々増加している中、仲人たちのカウンセリングぶりや、お見合いをする会員たちの悲喜こもごもを丁寧に描いています。人と人が実際に会うことで生まれるご縁と、それが育まれる姿を映し出した注目作です。
本作の前田直樹監督に、お話を伺いました。
「仲人が、婚活の選択肢の一つになれば」
『マリッジカウンセラー』映画監督 前田 直樹さん
ロンドン留学時の短編でキャリアスタート
映画を撮るようになったきっかけは?
元々映画好きで、名古屋市立大学芸術工学部にて建築デザインを専攻しましたが、図面を作るより、プレゼンテーション用の映像を作る方が高評価だったんです。東京のCM制作会社で働いた後、ロンドンに留学。最初の1年はロンドンフィルムアカデミーに通いながら、学校課題の短編を何本か作りました。現地の俳優と共に作った15分の短編『Needlewood Antiques』(2006)が小津安二郎記念・蓼科高原映画祭短編グランプリに選ばれ、この作品で僕の映画監督としてのキャリアが始まりました。
2008年にグランプリに輝いてから、本作に至るまでの経緯は?
78分の作品を3日半で撮るという壮絶なプロジェクトに参加し、最低限の予算、スタッフ、キャストを確保しなければ物語が伝わらないことを痛感しました。本作の監督オファーを受けたのは2018年。山﨑歩プロデューサーが起業前に受けたセミナーの同席者が、セカンドキャリアで仲人型の結婚相談所を考えておられると聞き、興味を持ったのがそもそものきっかけだったそうです。そこから1年間はとことん取材をしました。
脚本の松井香奈さんと一緒に取材をされたと?
山﨑プロデューサーの方針で、最初から一緒に取材へ参加し、まずは数人の仲人を座談会方式で取材。色々なタイプがおられることを痛感し、紹介を頼りに次々と取材しました。また、劇中で登場するプロフィール交換会や、結婚相談所の元会員にも10人近く取材しました。僕は建築業界のプロモーションも作成していたので、物件選びと仲人たちのプロフィール交換が最初似ていると感じたことが、渡辺いっけいさんが演じる赤羽が冒頭に発した言葉に反映されています。
脚本家がこだわった昭和オヤジの赤羽
赤羽がセクハラ発言を連発すると、結衣(松本若菜)が「ぜんぶセクハラですから!」と一括するやりとりは痛快です。
取材帰りに松井さんと赤羽のキャラクターを考えたとき、仲人は女性が多いので、通常ではありえないようなタイプの男性というコンセプトが生まれ、昭和オヤジの赤羽が誕生しました。特に松井さんは赤羽へのこだわりが強く、男性がこれぐらい大丈夫と口にするような、とことんNGのセクハラ発言を入れていました。一方、そんな赤羽が一人で佇むシーンを作ったのも松井さんのこだわりで、自宅で静かにハーブティーを飲むシーンも書いています。全体的には、メインターゲットへ訴求できるようにエンターテインメントに徹すること、必要以上にセリフを入れないことに注力しました。
赤羽は間違っていると思ったら、周りから学んで取り入れる柔軟性があります。
渡辺いっけいさんとは、赤羽にとって亡き妻の存在が大きいのではないかと話をしました。軌道修正をするだけの聞く耳を持てていたのは、妻との関係性が良好だった証です。赤羽はすごい熱量の持ち主ですから、彼の成長物語ではあるけれど、その熱量が周りの人たちの意見を聞いたりする方向に転じただけとも言えます。セクハラ男から脱し、最後にはある種の可愛らしさも感じられるのではないでしょうか。
仲人母娘を演じた松本若菜と宮崎美子
結衣を演じた松本若菜さんの魅力とは?
松本さんは、ちょっとした仕草や、何も喋らない時の表情で物語るのがすごく上手な方です。また、現場でこちらの演出に対し、ご自身が考えてきた演技からスッと方向転換をしてくださり、とてもスマートなお芝居をされる印象がありますね。役者魂を感じる方です。
結衣の母、十和子(宮崎美子)がさりげなく繰り出す「十和子マジック」は、マッチングアプリでは不可能なベテラン仲人の勘所を感じました。
心理学を学ばれ、洞察力に優れた仲人を取材したとき、お見合いとその後の反省会を繰り返しているうちに、本人は無自覚だけど、条件には合わないお相手の話ばかりしていることに気づき、指摘したケースを話してくれました。会員が、結婚相手に対して本当に何を求めているのかをカウンセリングするのが仲人ですが、「なぜ条件と違う人を勧めるのか?」と周りが聞いてもその仲人の方は「見ていたらピンとくることがあるのよ!」とおっしゃる。一方、お見合いがうまくいかず、会員自身が自分を見つめ直す中で、本当に自分にとって良い結婚相手に気づけるタイミングもあるそうです。そこでさりげなく、相性が合いそうなお相手のプロフィールを差し出すのだそうで、聞けば聞くほど、まるでマジックのようだと思った。それが「十和子マジック」に繋がりました。
宮崎美子さんのさりげない演技が光りますね。
前作の短編『マリッジカウンセラー 結衣の決意』は十和子が入院する設定だったのですが、患者役のエキストラで実際に仲人をされている方々に来ていただき、宮崎さんは撮影中に交流を深め、仲人について勉強しておられました。また、取材のことをお話しすることで、十和子が仲人として積んできた経験やセンスを理解し、本番に臨んでくださいました。本当にチャーミングな仲人でしたね。
仲人への価値観が変わった
最後に、仲人(マリッジカウンセラー)の未来をどう思われますか?
今は20代の会員も多くいらっしゃいますし、ちょっと引っ込み思案の方や、きちんと相談をしたいと思う方にとって、人と人との繋がりの中で生まれるご縁は信頼できるのではないでしょうか。僕も仲人への価値観が変わりましたし、この作品が、これから婚活の選択肢の一つとして支持されるきっかけになれると嬉しいですね。
text. 江口由美
前田 直樹(まえだ なおき)
1977年愛知県出身。名古屋市立大学芸術工学部卒。Yes OpenにてTVCMの制作進行としてキャリアをスタート。映画監督を志して渡英後、短編映画「Needlewood Antiques」の監督として英国で監督デビュー。4年間の活動を経て、帰国後は日英のバイリンガルディレクターとして、映画、TV番組、企業プロモーションなど幅広い分野で活躍。小津安二郎記念・蓼科高原映画祭グランプリほか国内外の映画祭にて、受賞&入選多数。