5月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第一一九回
発熱等診療・検査医療機関について
─発熱等診療・検査医療機関とは何ですか。
中川 新型コロナウイルスの国内感染が発生しはじめた頃、院内感染防止の観点から医療機関によっては発熱患者の診察を取りやめるところも多くあり、熱が出ても診てもらえない患者さんは少なくありませんでした。また、昨年の秋頃、季節性インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の同時流行が懸念され、万一そうなった場合に備える診療体制の確保が課題となりました。これらの状況を受けて、兵庫県では新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの疑いがある患者さんを診察・検査する「発熱等診療・検査医療機関」を手挙げ方式で募集し公的に指定しました。指定にあたっては、必要な検査体制を確保している、医療従事者の十分な感染対策が講じられている、発熱者等の患者さんが他の疾患の患者さんと接触しないよう動線や診療時間を分離しているなど一定の条件があります。指定された場合、受け入れる患者さんの人数に対しての補助金や、高性能空気清浄機や診療用ベッドなど必要な備品などの経費補助があります。
─どの医療機関が発熱等診療・検査医療機関なのかをどうやって調べることができますか。
中川 申し訳ないですが、発熱等診療・検査医療機関のリストは基本的に一般公表しておりません。もし公表した場合、そこに患者さんが必要以上に殺到したり、風評被害のおそれがあったりすることを考慮してのことです。なお、11月にこの制度がスタートして以降、尼崎市では指定医療機関は増え続け、現在は内科や小児科を中心に約150カ所の診療所が発熱等診療・検査医療機関に指定されています。
─では、どうすれば発熱等診療・検査医療機関で診てもらえるのでしょう。
中川 発熱等診療・検査医療機関には、かかりつけの患者さんのみ受け入れるところと、すべての患者さんを受け入れるところの2つのカテゴリーがあります。まずはかかりつけ医に、電話でご相談ください。かかりつけ医が発熱等診療・検査医療機関の場合は時間の指定があり、そうでない場合は発熱等診療・検査医療機関を紹介してくれます。かかりつけ医がない方は各市町や県の発熱等受診・相談センターにご相談いただければ紹介してくれます。
─特定の医療機関に限ることなく、すべての医療機関で発熱症状の診察を受け入れるべきだと思うのですが。
中川 確かにそうかもしれませんが、医療機関側にもやむを得ない事情があるんですよ。例えば医師が新型コロナウイルス感染症で重症化の危険性が高い高齢の場合、もし感染すると命にもかかわりますし、感染して長期間閉院することになれば地域医療にも影響があります。特に医療過疎地では高齢の先生が多いので、地域医療の崩壊も考えられます。また、ビルやショッピングセンターなどにテナントとして入居しているクリニックでは、貸主などの同意を得られず断念するケースも多くあります。発熱等診療・検査医療機関制度によって地域の病院や診療所が連携することで、事情により発熱患者を診られない医療機関をカバーしているんですよ。
─発熱者等が他の疾患の患者と接触しないよう、発熱等診療・検査医療機関では具体的にどのように対応していますか。
中川 発熱以外の患者さんにも安心して受診していただけるよう、さまざまな工夫をおこなっています。例えばある医療機関では、駐車場にテントを設置してそこを発熱患者専用スペースにしています。空間に余裕がないところでは、診察する時間を分けるために、通常の診療時間以外の時間を指定しているところが多いようです。私の診療所ではネット予約が基本なのですが、定期的に来られる患者さんではない方の予約が入った際は、必ず電話で症状を確認しています。また、発熱患者さん専用の出入口と待合を設けましたが、普段使用していないところであまり快適ではないため、なるべく待ち時間がないように予約時間を指定しています。
─発熱等診療・検査医療機関の医師は、さまざまな活動にも携わっているそうですが。
中川 例えば、保健所からの依頼を受け、クラスターが発生した介護施設へ赴いて検査や診察をおこない、中には入院できずに施設内で隔離された患者さんの治療にあたり、看取りまでおこなった例もあると聞いています。さらに宿泊療法施設への執務も行っています。また、これからワクチンの接種がスタートしますが、主に発熱等診療・検査医療機関の医師が主に担うことになると思います。
─医師会は発熱等診療・検査医療機関制度とどのように関わっていますか。
中川 医師会を通じて募集をおこなうとともに、組織で最新の発熱等診療・検査医療機関の情報共有をおこなっています。また、各地域医師会でもこの制度をより活用すべく独自の取組をおこなっています。例えば尼崎市医師会ではかかりつけでない患者さんを診る発熱等診療・検査医療機関を一部公表するとともに、保健所とタイアップしてPCR検査専用の臨時外来を開設し、医師会会員で発熱等診療・検査医療機関の医師が交代で検査を担当しました。
─臨時外来でのPCR検査の結果はいかがでしたか。
中川 164日間で1370名の検査をおこない、陽性が125名で陽性率約1割という結果でした。緊急事態宣言が発出されたこの1月の人口10万人あたりの患者数において、尼崎市では大阪市や神戸市より高い数字も出ています(表1)。このような状況の中で、臨時外来は一定の役割を果たしたのではないかと思います。
─まだまだ収束が見通せませんが、コロナが疑われる場合に診察を受けるにはどうすれば良いですか。
中川 感染拡大防止のため、直接医療機関を訪ねるのではなく、必ず電話でご連絡をお願いします。かかりつけ医がある方はかかりつけ医に、かかりつけ医のない方は各市町や県の発熱等受診・相談センターに電話し、案内・指示を受けてください(図1)。また、受診時は必ずマスクを着用しましょう。ご協力をお願いします。
兵庫県医師会ホームページ
https://www.hyogo.med.or.jp/
記事内容は取材日(2021年3月3日)時点での情報に基づいています。新型コロナウイルスに関する情報は日々変化しています。最新の情報は各自ご確認ください。
兵庫県新型コロナ健康相談コールセンター
TEL.078-362-9980
(24時間受付)