3月号
フェリシモが提供するのは〝役割と舞台〟 それを創り出すStage Felissimoは 〝真っ白なキャンバス〟
神戸開港150年記念プロジェクトの一環として神戸市が進める新港突堤西地区再開発事業。「にぎわいづくりのお役に立てます!」と手を挙げた企業の一つがフェリシモです。独創的な経営理念の下、魅力的な事業展開をする会社にふさわしい本社ビルが完成し、稼働を始めました。どんな面白いことが詰まっているのでしょう?Stage Felissimoを訪ね、矢崎和彦さんにお聞きしました。
良い意味での〝企み〟をいろいろインストールしました
―本社ビル建設・移転を決めた理由は。
以前の本社オフィスがあった「神戸朝日ビル」には愛着があったのですが、須磨区の総合運動公園に物流センターを作った直後から、本社ビルも自前で作れたらいいなと思い始めました。ところが私たちに合った場所がなかなか見つからず実現できずにいたところ、神戸市さんのコンペ情報を頂き、「参加させていただきます」と手を挙げたところから始まりました。
―コンペではどんなプレゼンをされたのですか。
神戸市さんの意向は「にぎわいの創出」ということでした。フェリシモ社員約450人が毎日ここへやって来ることになり、また年間数万件にも及ぶ商談などで足を運ばれる方々がおられ、さらに「神戸学校」も1階ホールで開催しますから参加者も来られます。「我々がここに来させていただいたら、にぎわいづくりのお役に立てます!」とご提案しました。
―そして完成したStage Felissimoにはどんな思いが込められているのですか。
私はフェリシモを「何かを販売するだけの企業にはしたくない。お客さまに提供するのは役割と舞台」と常に思い、社員にも話しています。役割と舞台を与えられた人はポジティブに未来へと向かって行きます。ですからそれを提供するStage Felissimoには良い意味での〝企み〟をいろいろインストールしました。フェリシモに関わる全ての人の舞台になって、もっと輝いていただくきっかけになればいいなと思っています。
―真っ白に込めた思いは。
イメージは画用紙です。赤や黒のキャンバスはないでしょう?真っ白の上だから絵が描ける。私たちが色とりどりのプロジェクトや商品を創り出す場所に色は付けたくないんです。
たくさんの機能を詰め込んだ、みんなで使えるStage
―いろいろな機能があるステージですね。1階にホールもありますね。
最大約400人収容可能ですが椅子は固定していません。収納して利用することも可能ですので、さまざまなイベントも開催できますよ。ステージは海側・山側どちらにも設定できるようにしています。一般向けに貸し出しも予定していますので、市民をはじめ広く皆さんにご利用いただけたらと思っています。
―レストランもオープンされるそうですね。
隣にアクアリウムがオープンするのに合わせて秋には、2階にレストランをオープン予定です。神戸産をはじめ全国、そして海外からぶどうを仕入れ、1階にはワイナリーを開設し醸造を開始します。
―ワイナリーもあるということは、お料理も期待できますね。創作フレンチですか?
皆さんが大好きな食べ物をお出しするめちゃくちゃ面白いレストランです。ちょっとだけお話しすると…人間は一生涯毎日、朝昼晩食事をします。大盛りカレーを一皿食べるのも一食ですが、それで満足ですか?和食の小鉢料理をイメージして美味しいものをいろいろ少しずついただくCOBACCI(こばち)CUISINE…続きはオープンを楽しみにしてください(笑)。
―チョコレートミュージアムも楽しみです。
プレゼンで「ミュージアムをつくります」と神戸市さんとお約束しました。版画をはじめ現代美術品をたくさん保有しているので、それだけを飾ろうと思っていました。でも、もっとフェリシモらしいことを、と思ったとき、しあわせの食べ物「チョコレート」が閃きました。世界中のどんな街にでもある日持ちがするお菓子です。自分が食べるためというより誰かにプレゼントするために買ってもらう最高のチョコレートを作るショコラティエは、それに似合う最高の衣装を着せます。それがパッケージ。すごいなあ…チョコレートのパッケージを収蔵するミュージアムにしよう!と決めました。それだけでは面白くないので半年に1回、企画展を開催します。第1回目の企画展はオープニング時に開催しますが、想像もできない面白さになると思いますよ。
〝パッションドリブン〟を追求するスーパーニッチな企業
―世の中が大きく変わり、消費者行動も変わってきています。フェリシモはいかがですか。
フェリシモは2月末、第56期目を良い成績で終えることになります。その理由はやはりコロナ禍でのステイホームが影響したこともありますが、もう一つはコロナ禍で人々の価値観が変わったということがあると思っています。自身の人生や在り方を深く考えるようになったのではないでしょうか。フェリシモの商品は「あっても、なくてもいいようなもの」です。色鉛筆に500色も必要ですか?でも欲しい人にとってはとても価値があります。特定の方々には思いがきちんと届く商品を提供するということは、何があっても変わりはありません。
―ネットビジネスの中でも特異な位置にあるのですね。
小売業、百貨店、レストラン、メーカー、商社など、気が付けばみんなが「ネット販売をしている」という状況にあり、仲間でありライバルでもある。そんな中で「安く、早く届けるから選んでください」とは言いたくない。だから、フェリシモならではの企画で勝負すれば価格競争に入り込む必要はないと考えています。社会のニーズを追うことはせず、社員たちが本当に作りたいと思うものを作り、欲しいと思う人だけが買う。ミッションドリブンよりもっといい、「パッションドリブン」を追い続ける企業でありたいのです。
―パッションのある人材が必要ですね。
規模だけが大きな企業にはなりたくない、スーパーニッチの集合体でありたいと考え、人材を採用するにあたっては学歴や資格も見ますがそれを採用基準にはしません。面接はお見合いのようなもので、「この人と一緒にいたら楽しそう」という観点でお互いが選考します。そうすると、自分というものを持っていて、本当にやりたいことがある人材が集まってきます。
人がいるから街がある。街は人が使うツールの一つ
―海のすぐ近く、素晴らしいロケーションですね。
神戸朝日ビルにオフィスを置き26年、私は海の近くで仕事をしていると思っていました。ところがここへ引っ越してきて、「全然海の近くになんかにいなかったんだ」と初めて気づきました。そこで思ったのが、神戸市民の皆さんは神戸が好きで、その理由を「海と山があるから」と答えます。でも本当に海に触れていますか?神戸市民ならば、週に1回ぐらいは旧居留地辺りから散歩や自転車でここまで来て海に触れるべきです。そうすればウォーターフロントに勝手ににぎわいが生まれます。
―いいアイデアはありますか。
コロナ禍で時短営業を強いられて苦しんでいる飲食店さんに出店してもらって、京橋線沿いにマルシェをつくったらいいんじゃないかな。フェリシモ社員はじめ、ここへやって来た企業の社員さんたちがランチを食べに行ったり、お弁当を買いに行ったりすると思いますよ。週末にも人が集まるようになって、にぎわうんじゃないかな。
―これからの神戸の街への期待をお聞かせください。
私は「神戸は生活文化の都」だと思っています。150年前に開港していろいろな文化が入ってきて、伝統のあるものと程よく混じり合って日本中に発信する翻訳機能を果たし、「ハイカラ」などといわれてきました。神戸経由で入ってくることもなくなってきている中でも、常にリードする存在であり続けるには、暮らしや自然や週末の過ごし方など、他の街の人たちが羨むようなものがなくてはいけません。それは企業や行政が作るものではなく、市民が自発的に作るものです。街があるから人がいるのではなく、人がいるから街がある。人が街をツールとしてうまく使えば、もっと輝く!フェリシモもそのツールの一つになりたいと思っています。