2020年
12月号
対談ホスト役の三好万記子さん(左)と古屋裕子さん(右)。 お座敷的な和と北野異人館らしい洋の世界がミックスされた、オープンキッチンスタイルの素敵なサロンにお邪魔してインタビュー

輝く女性Ⅲ Vol.11 絢爛亭・料理教室「サロン・ド・サトコ&ユウコ」主宰 株式会社フードストーリィ代表取締役 古屋 裕子さん

カテゴリ:文化人, 神戸

インタビュアー・三好 万記子

人気料理サロン「ターブルドール」代表の三好万記子さんがホスト役となって、
輝いている阪神間在住の女性にお話を伺うシリーズ。
おもてなし上手な三好さんとの対談から、どんなオイシイお話が飛び出すことでしょう。
今回、お話を伺ったのは…

絢爛亭・料理教室「サロン・ド・サトコ&ユウコ」主宰
株式会社フードストーリィ代表取締役 古屋 裕子さん

食事をする相手、料理人、給仕をしてくれた方、
さらには食器や設えに対しても敬意を払うこと。
サロンを通して、日本の文化も継承していきたい。

完全紹介制 1日1組のプライベートレストラン『絢爛亭』の二代目女将であり、料理サロン「サロン・ド・サトコ&ユウコ」の主宰も務める古屋裕子さん。裕子さんのお母様で、大企業のトップや政界人、文化人など、超一流と呼ばれる方々から絶大な支持を得ていた『絢爛亭』の女将・古屋都子さんが急逝されてから4年。敬愛するお母様をずっとアシストされてきた裕子さんですが、今やご自身のスタイルを確立され、ファンを増やし続けておられます。


…まずは『絢爛亭』の歴史から教えていただけますか。

『絢爛亭』は1983年、花隈のお茶屋さんだった空間を活かした料亭としてスタートしました。1日1組、完全クローズのおもてなしが時代的に珍しかったこともあり、政財界や文化関係の方々に御贔屓にしていただきました。私はサービス係で板前兼女将を務めていた母は料亭を営みながら同時に料理教室もしていて、大丸神戸店のくじゃくサロンのお料理教室も任されるようになりました。震災後もしばらくは花隈でお店を続けていたものの、花隈という地域の時代性や建物の造りの不便さなどもあり、思い切って北野に移転し、新たにレストランと料理サロンを始めました。
母がこの業界に足を踏み入れたのは、母の父、私の祖父が元町でクラシック音楽を聴かせるサロン「vienna」を営んでいた影響もあるのかもしれません。祖父は戦後の焼け野原のなか高額な蓄音機を購入し、皆に音楽を聴いて心豊かになってもらいたいという思いでサロンを始めたとか。私は特にこれといった目標もありませんでしたが、「裕子はサービス業向き」と言う母の戦略にはまって(笑)、ホテル専門学校でサービス業を修学。休日には母とレストランやホテルへ出向くことでサービスの良し悪しがわかるようになり、母のお店を手伝いながら接客を通じて料理やサービスの楽しさを覚えていきました。

…裕子さんが考える、いいサービスとは?

自分がしてもらって気持ちがいいと思うことをしてくれることです。例えば、私が20代前半にシンガポール旅行で受けたサービスが忘れられません。現地でサイズがあわないコートを購入したのですが、旅先ゆえお直しは無理と諦めていたところ、お店の方が「明日素敵なディナーから戻ったら、ベッドの上にあなたにぴったりのコートが置いてあるでしょう」と引き受けてくれたんです。そして次の日、私が泊まっていたシャングリラホテルまで、ぴったりのサイズにお直ししたコートを届けてくれました。私のためにわざわざ…という特別感こそ、サービス。そんなサービスを行うためにはまず良いサービスの本質を知らないといけないし、また良いサービスを受けることができる人になりたいと思いました。

…サービスって目に見えないものだから、わかってくださるお客様との出会いやお付き合いが楽しいですよね。裕子さんとお母様、お二人は最強のコンビだったのだろうなと思います。とはいえ、おもてなし界で名の知れたお母様のあとを継がれるにあたり、裕子さんらしさを新たに表現していかなければならないのは、0からスタートするよりも難しかったのでは?

母が他界したあとしばらくは母の教えを忠実に守り、きちんとやっていかなければと思っていました。しかし、これは母も言っていたことですが、音楽家の息子が親と同じ演奏はできないし、また同じにする必要はない、と。お客様は私に母と同じことを求められているのではありません。だから母のスタイルに私のやり方をミックスさせた私独自のスタイルでいこう!と最近、ようやく思えるようになりました。母は母の時代のニーズがありますし、私はトレンドも取り入れて、自分の舌や感覚を信じて仕事をしています。

…絶対に守っていくべきものと、時代にあわせて変えていかなければいけないスタイルがありますよね。
万記子さんもそうだと思いますが、やみくもに独自性を創りだすのではなく、ベースとなることをきちんとやってきたから、自身のエッセンスを入れる余裕もあるのかなと自負しています。

…裕子さんは一見、豪快に見えるけれど、よく気が付かれる繊細な面も持ち合わせておられますから、きっとお料理も、あっ!と驚くような演出をしながら味わいは優しいのだろうなと勝手に想像しています(笑)。裕子さんの料理教室のコンセプト“食はファッションの原点”とは?
きちんとしたものを食べないとカラダがカサカサになってしまいますよね。いくら高級ブランドのお洋服を着ても爪がボロボロ、髪がバサバサなのはお洒落じゃない。美しい人生のはじまりは食からという考えで、「絢爛亭」のレシピを基にしながら、普段の食を見直すべく、どこででも買える旬の食材を使った家庭料理をお教えしています。母の絢爛亭の料理を見てきましたので、家庭でもモミジをあしらうとか、霧をふくとか、普段使っていない器に盛り付けするとか、ちょっとした工夫から日本料理の魅力を感じ取ってもらいたいと思っています。
また私の料理教室はサロンという社交場で開催していることも特徴の一つ。社交場って同じ価値観の人が集まってくるでしょ。皆が互いに高めあう素敵な時間を共有できます。料理、人や会話、器、お花、絵画、音楽など全てが揃ってこそ素敵な空間となり、そこには文化がつまっていると思うんです。だから私の料理教室では、いざというとき恥をかかないお作法についても触れます。会席料理の場面では、テーブルや漆器を傷つけないように派手な装飾品や腕時計を外すなどの気配りをさりげなく行えると、「この人は教養がある」と思われ、お店の方の対応も変わり、それがスペシャルな時間へとつながっていきます。食事をする相手、料理人、給仕をしてくれた方、さらには食器や設えなどに対しても敬意を払う日本人としての素敵な文化も大切にしてほしいというお話もします。

…それこそサロンの真髄ですね。まさに裕子さんはサロンのマダム、お肩書も女将と書いてマダムと読ませるのがいいのでは(笑)。社交界の本質を知っているキラキラしたゴールド感のあるマダム。ゴールドって眩しさだけじゃなく、暖かなイメージもあります。だから裕子さん自身も、この空間も、暖かく繊細で、皆が心地よく過ごすことができる。質の高いおもてなしをずっとされてきた空気が漂っているのを感じます。

対談ホスト役の三好万記子さん(左)と古屋裕子さん(右)。
お座敷的な和と北野異人館らしい洋の世界がミックスされた、
オープンキッチンスタイルの素敵なサロンにお邪魔してインタビュー

三好さんからの質問コーナー

Q.ハマっているグルメや気になるお店はありますか。
A.フルーツを活用した料理です。シャインマスカット&クセありチーズとか、トリュフオイルやナッツと合わせてみたり…、見た目がお洒落で自然な甘さなのも◎。組み合わせの妙を発見して楽しんでいます。気になるお店は「THE BAKE」というパン屋さんです。若いオーナーが焼くパンの味はもちろん、まるで海外のベーカリーに来ているようなワクワクした感覚にさせてくれる空間もお気に入りです。


絢爛亭・料理教室「サロン・ド・サトコ&ユウコ」主宰 株式会社フードストーリィ代表取締役  古屋裕子

1986年、お母様・古屋都子さんが花隈に開いた料亭「絢爛亭」に就職。接客を通じて、サービスや料理の楽しさを覚える。同時に料理教室「サロン・ド・サトコ」のアシスタントを務める。2005年、花隈から神戸北野に移転した「絢爛亭」にて料理教室「サロン・ド・サトコ&ユウコ」を開催、アシスタント兼講師として従事。2015年「絢爛亭」の女将兼代表を継ぐ。現在、「絢爛亭」のレシピをもとに「綺麗のはじまりは食から」をモットーに簡単においしく作れる料理の喜びを広げるために指導中


三好 万記子(みよし まきこ)

株式会社ターブルドール 代表取締役
神戸女学院大学卒。パリに3年間滞在中、フランス料理を学ぶ。ル・コルドン・ブルーにて料理ディプロマ、リッツ・エスコフィエにてお菓子ディプロマを修得。帰国後、西宮市・夙川にて料理サロン「Table d’or」主宰。ケータリングではディスプレイを含むトータルコーディネートに定評あり。2020年9月、芦屋市にレストランカフェ「78Fuzuki Yaoka」をオープン。美味しく身体に優しく創造的なメニューを次々と考案し、開業直後から予約が埋まる。企業へのレシピ提供など、「食」を幅広くプロデュース。

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