5月号
縁の下の力持ち 第22回 神戸大学医学部附属病院 認知症センター
認知症も早期発見・早期治療が改善への鍵
「年だから仕方がない」と諦めてしまう物忘れですが、認知症との境目で発見すれば改善も可能です。「認知症センター」では、本人と家族の生活を楽にしてあげたいと、医師とコメディカルスタッフがチームで治療に取り組んでいます。
―認知症(疾患医療)センターとは。
神戸市から委託を受ける事業で、2009年市内で最初に委託されたのが神戸大学病院です。現在は各区1病院にセンターが開設されています。かかりつけ医からの紹介状を持って患者さんとご家族と来られたら、精密検査や心理テストなどで診断を確定します。認知症の精密診断の後に、センターの通院治療の方針が定まれば、かかりつけの先生のところへ戻っていただきます。地域の医療、福祉、保健、介護スタッフのサポート方針をアレンジする役割もあり、また地域連携強化事業として、地域スタッフ対象に研修の場を設けています。さらに、認知症サポート医の先生方に症例を持ち寄っていただく事例検討会を実施し、大学病院での症例も提示しながら専門医からアドバイスをしています。
―院内での認知症治療体制は。
大学病院の組織としての名称は「認知症センター」で、精神保健福祉士(サイコソーシャルワーカー、PSW)、看護師、臨床心理士など、認知症患者さんとその家族をサポートするコメディカルスタッフ、私をはじめ精神科医と脳神経内科医が診療に取り組んでいます。医師は主にメモリー外来で精密検査と診断、治療を担当しています。
―精神科と脳神経内科で治療法に違いがあるのですか。
診断をして症状に合った薬を処方するという基本的なところは同じです。認知症の中でも不安・焦燥、幻覚・妄想、徘徊などの周辺症状による問題行動に関しては精神科が専門ですし、手の震え、歩行障害など神経に関わる症状は脳神経内科が専門です。二つの科が協力して診療を進めています。
―物忘れが始まったら認知症なのでしょうか。
認知症だと思われていても例えば、正常圧水頭症が見つかれば、脳神経外科での手術で回復することもあります。高齢者はどんな症状でも認知症だと思われがちですが、例えば、うつ病を見間違われることもあり、この「仮性痴呆」と呼ばれるケースでは抗うつ剤で改善されます。
―物忘れは仕方がないと諦めてはいけないのですね。
高齢になれば生理的に認知機能は低下し、物忘れは年とともに進んでゆきます。専門外来では症状や経過をよく把握し、画像診断やアイソトープ検査、情報処理能力検査などで脳のどの部分が萎縮しているのか、どこで血流が滞っているのかを調べ、どういうタイプの認知症なのかを診断します。認知症の薬を服用することによって認知機能の低下速度を緩やかにすることができます。物忘れに起因する問題行動であれば、暮らしている環境の調整によって改善も期待できます。精密検査の結果、認知症の一歩手前の状態である軽度認知障害(マイルドコグニティブインペアーメント、 MCI)とも呼ばれるケースにあてはまることもあります。MCIは物忘れのような記憶障害がでますが、認知症の症状はまだ軽く、正常な状態と認知症の中間と言えます。
―他の病気と同じく早期発見、早期治療ですね。
2019年1月から神戸市独自の認知症診断助成制度と診断された場合の事故救済制度「神戸モデル」がスタートしました。地域の医療機関では、無料で第一段階として認知機能の検診を受けられます。認知症の疑いがあれば、第二段階として認知症疾患医療センターで認知症検査を受けていただきますが、検査費用の補助もあります。万が一、認知症と診断された方が事故を起こしたときの賠償責任保険、事故防止のためのGPSかけつけサービスなど、ご家族の安心もサポートしています。65歳を過ぎた神戸市民の皆さんにはこの制度の利用をお勧めします。
―認知症の予防法は。
運動や食事などの効果を同じ条件下で長期にわたって追跡し、結果をデータ化することが難しいのが現状です。私の周りの高齢でお元気な方を見る限りでは、体をよく動かし、脳をよく使っておられます。まずは歩きましょう!そう言っている私自身がなかなかできないのですが(笑)。
―先生はなぜ精神科医に?
メカニズムがわかっていないことが多い領域だからでしょうか。こころの病を解明したいというチャレンジ精神で精神科医になりましたが、未だにわからないことが多く残っています。高齢化社会に伴い増えてきた認知症だけではなく、従来は見過ごされてきた発達障害、最近ではネット·ゲーム依存などもしっかりとした対応が必要なこころの病です。まだまだチャレンジは続きそうです。