11月号
神戸鉄人伝 第119回 学校法人和弘学園 明舞幼稚園
理事長・園長 中後 和子(ちゅうご かずこ)さん
明舞幼稚園の理事長・園長を務める中後和子さん。神戸の芸術文化人との親交も深く、「子どもたちが芸術に触れる機会を増やしたい」と自身の園でコンサートを開催するなど、子どもの情操教育に力を入れていらっしゃいます。「名古屋の宗次ホールは、カレーのCOCO壱番屋の創業者宗次徳二が私財を投じて建設したもので、日本屈指の公演回数を誇っています。こんな篤志家が居らして、芸術文化が元気なまちには活気があります」と語る中後さんに、お話をうかがいました。
―神戸の芸術家に、期待することは?
神戸の芸術家はジャンルを超えて仲が良く、神戸のために何かしたい!と思っている方が多くて頼もしいですね。ぜひ、子どもにも目を向けていただきたいです。実際に芸術家の皆さんに会いその芸術に触れることは、子どもたちにとって貴重な体験になります。できれば「子ども向けプログラム」ではなく、皆さんが創る本格的な世界を見せてあげて欲しいです。
―本格的と言うとどのような?
たとえばアニメソングばかりのコンサートではなく、時には子どもにも生のオーケストラ演奏やオペラを見せることです。その時は理解できなくても、心のどこかに残って将来その子の人生を変えるかもしれない。私共の園でも積極的にコンサートを行っていますが、これが子どもたちの原体験になってくれたらいいですね。
―確かに、子どもの頃に見た原画や生演奏で聞いた音楽は覚えているものです。
CDではなくプレイヤーによる演奏をその場で聞くことが、子どもにはすごく大事です。とにかく今の子どもたちは実際に見る、聞く、触るといった体験をしていないので、作品や生演奏に触れることはもちろん、時には自分も制作したり楽器に触れたりする機会を増やすことが必要です。その意味で、神戸市の街角ピアノの取り組みはすばらしいと思います。
―インターネット世代の子どもは、テレビ世代よりいっそう実体験が少ないとか。
今の子どもたちに「カブトムシ」を知っているかと尋ねたら、「知っている」と答えます。でもネットで見ただけで、実物を見たことはないのですね。スマホやタブレットの中で世界が完結してしまっている。紙の本をめくることを経験しないまま、画面をスクロールして電子本を読んでいる子どもを見ると、これでいいのだろうかと疑問を抱きます。バーチャルで世界を知った気になるのは、とても危険ではないでしょうか。
―現代の子どもたちのために、大人ができることは?
繰り返しになりますが、やはり現実の世界で様々な体験させてあげることでしょうね。特に芸術は「生」を!イヤホンで聞くだけでなく、時にはホールの公演に行く。画面でなく、美術館へ絵を見に行く。リアルな体験を積み重ねることで、子どもは成長します。本来、子どもたちは創造することが大好きです。幼児教育は、芸術活動のスタートラインなのですよ。子どもたちは幼稚園で、知らず知らずの間に創造することを体験しています。
―創造することは幼児教育の現場から始まると?
幼稚園では毎日歌ったり、楽器を叩いたり鳴らしたり、絵を描いたり、工作したりしていますが、これは創作活動の入り口です。誰もが子どもの頃は、上手下手に関係なく楽しく歌ったり絵を描いたりしていたはず。芸術は子どもの遊びの中から始まっていると思いませんか?幼児教育は芸術文化の種蒔きをしているとも言えます。現代の子どもたちには、リアルな芸術体験が不可欠です。神戸の芸術家の皆さん、どうぞお力添えください。(2019年8月2日取材)
子どもを取り巻く環境を冷静に分析し、必要なことを的確に指摘なさる中後さん。正に保育のプロフェッショナルでした!
とみさわ かよの
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。